【起業・法人化検討者必読】会社設立のメリット・デメリット徹底比較!専門家報酬の相場も解説

法人設立

個人事業主やフリーランスとして活動する中で、あるいは新たに事業を始めるにあたり、「会社を設立した方が良いのだろうか?」と考える機会は少なくありません。法人化には様々な側面があり、一概に「良い」「悪い」と判断できるものではありません。重要なのは、メリットとデメリットを正確に理解し、自身の事業状況や将来のビジョンと照らし合わせて、最適な選択をすることです。

本記事では、特に小規模で事業を運営している方や、これから事業を始めようとしている方を対象に、会社設立(法人化)における主要なメリットとデメリットをランキング形式で分かりやすく解説します。また、法人化に伴い必要となる専門家(司法書士、税理士、社会保険労務士など)への報酬相場についても触れ、現実的なコスト感を把握するための一助とします。

(※本記事では、主に株式会社を念頭に解説しますが、合同会社など他の法人形態にも共通する内容を含みます。)

会社設立のメリット トップ3

まずは、会社を設立することで得られる主なメリットについて見ていきましょう。ここでは、特に影響が大きいと考えられる3つのポイントを挙げます。

メリット第1位:所得分散による節税効果

法人化による最大のメリットの一つとして期待されるのが、「所得分散」による節税効果です。これは、個人事業主として全ての所得を個人で受け取るのではなく、法人と個人の役員報酬という形で所得を分散させることにより、トータルでの税負担を軽減しようとする考え方です。

所得とは何か?
まず、税金の計算の基礎となる「所得」について簡単に確認しておきましょう。所得とは、一般的に「収入(売上など)- 経費」で計算される利益に近い概念です。個人の場合、さらに各種所得控除(社会保険料控除、生命保険料控除、基礎控除など)を差し引いたものが「課税所得」となり、この課税所得に税率を乗じて税額が算出されます。

なぜ所得分散が節税に繋がるのか?
日本の所得税は**「超過累進課税制度」**を採用しています。これは、所得が高くなるほど、段階的に高い税率が適用される仕組みです。
例えば、個人の所得税率は、課税所得195万円以下の部分は5%、195万円超330万円以下の部分は10%、330万円超695万円以下の部分は20%…というように、所得が増えるにつれて税率が上がっていきます(これに住民税約10%が加わります)。

ここで重要なのは、「所得が低いほど税率も低い」という点です。
個人事業主として年間1,000万円の所得があった場合、その1,000万円全体に対して高い税率がかかるわけではありませんが、所得の大部分が高い税率の区分に入ることになります。

一方、法人を設立し、例えば会社に600万円の所得を残し、経営者個人には役員報酬として400万円を支払ったとします。この場合、

  • 会社の所得600万円に対しては法人税が課されます。
  • 個人の役員報酬400万円に対しては所得税・住民税が課されます。

法人税率も所得に応じて変動しますが、一般的に個人の高額所得者に適用される所得税・住民税の合計税率よりも低い水準にあります(中小企業の場合、所得800万円以下の部分は約22~25%、800万円超の部分は約30~34%程度が目安)。

結果として、1,000万円の所得を個人と法人に分散させることで、それぞれが比較的低い税率区分に収まりやすくなり、トータルでの税負担が軽減される可能性があるのです。
さらに、役員報酬は給与所得として扱われるため、「給与所得控除」という、みなし経費のようなものが適用され、これも個人の課税所得を圧縮する効果があります。

ただし、この所得分散による節税効果は、個人の所得水準や法人の利益水準、家族構成など、様々な要因によって大きく変動します。必ずしも全てのケースで大幅な節税に繋がるわけではないため、個別のシミュレーションが必要です。

メリット第2位:社会的信用力の向上

法人格を持つことは、一般的に社会的信用力の向上に繋がると考えられています。

  • 取引先からの信頼: 「株式会社〇〇」といった名称は、個人名で事業を行うよりも、組織として安定し、一定の規律のもとに運営されているという印象を与えやすくなります。特に、大企業との取引や、継続的な取引を目指す場合には、法人格が有利に働くことがあります。「法人でなければ取引しない」という方針の企業も存在します。
  • 金融機関からの評価: 適切な事業計画と実績があれば、個人事業主よりも法人の方が、金融機関からの融資を受けやすくなる場合があります。
  • 人材採用における有利性: 求職者にとって、個人商店よりも株式会社の方が、安定性や将来性といった面で魅力的に映り、優秀な人材を確保しやすくなる可能性があります。
  • 許認可取得の容易性: 事業内容によっては、法人でなければ取得できない許認可や、法人の方が取得しやすい許認可が存在する場合があります。

もちろん、法人化したからといって自動的に信用が得られるわけではありません。日々の誠実な事業活動と、健全な財務内容があってこそ、真の信用は築かれるものです。しかし、法人格を持つことは、そのための「土台」や「器」として機能する側面があることは否定できません。

メリット第3位:決算日の自由な設定

個人事業主の場合、所得税の計算期間は暦年(1月1日~12月31日)で固定されており、決算日は12月31日、確定申告の期限は翌年3月15日と全国民共通です。

一方、法人の場合、決算日(事業年度の末日)を自由に設定することができます。 これは、事業運営上、意外と大きなメリットとなることがあります。

  • 繁忙期を避けた決算作業: 業種によっては、年末年始や2月~3月が繁忙期にあたる場合があります。個人事業主の場合、この繁忙期に決算作業や確定申告の準備が重なり、大きな負担となることがあります。法人であれば、繁忙期を避けて、比較的業務が落ち着いている時期を決算期に設定することで、決算作業に集中しやすくなります。
  • 在庫管理の効率化: 例えば、小売業や卸売業など、棚卸(期末在庫の数量確認)が必要な業種では、在庫が少ない時期を決算期に設定することで、棚卸作業の負担を軽減できます。飲料メーカーやスーパーマーケットなどが2月決算を採用することが多いのは、この理由も一因です。
  • 季節変動への対応: 売上や利益が特定の季節に集中するような業種では、そのサイクルに合わせて決算期を設定することで、より実態に即した業績把握や納税資金の準備がしやすくなります。

このように、自社の事業サイクルや業務の繁閑に合わせて決算期を柔軟に設定できる点は、法人ならではのメリットと言えるでしょう。

その他のメリット

上記トップ3以外にも、法人化には以下のようなメリットが考えられます。

  • 経費として認められる範囲の拡大: 個人事業主と比較して、法人の方が経費として認められる範囲が広がる場合があります(例:役員社宅、生命保険料の一部など)。ただし、何でも経費にできるわけではなく、あくまで事業に関連する支出に限られます。
  • 繰越欠損金の繰越期間の長期化: 事業で赤字(欠損金)が生じた場合、その赤字を翌年度以降の黒字と相殺して税負担を軽減できる制度があります。この繰越期間が、個人事業主の場合は最長3年間ですが、法人の場合は最長10年間(2018年4月1日以降開始事業年度)と長くなっています。
  • 有限責任: 株式会社や合同会社の場合、出資者は原則として出資額の範囲内でのみ責任を負います(有限責任)。個人事業主の場合は無限責任であり、事業上の負債は個人の全財産で返済する義務があります。ただし、中小企業が融資を受ける際には経営者個人の連帯保証を求められるケースが多いため、この有限責任のメリットは限定的となる場合もあります。

会社設立のデメリット トップ4

一方で、会社設立には様々なデメリットや負担も伴います。安易な法人化を避けるためにも、これらの点を十分に理解しておくことが重要です。

デメリット第1位:社会保険への強制加入と保険料負担の増加

法人化による最大の負担増と言えるのが、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への強制加入です。

個人事業主の場合、国民健康保険と国民年金に加入するのが一般的です(従業員5人未満の場合など、一部任意適用事業所を除く)。これらの保険料は全額自己負担です。

一方、法人を設立し、役員として報酬を得るようになると、原則として社会保険への加入が義務付けられます(代表者一人のみの会社でも同様)。社会保険料は、役員報酬の額に応じて決定され、法人と役員個人が原則として折半で負担します。

ここで注意が必要なのは、役員個人の負担分だけでなく、法人負担分も実質的には経営者の負担となるという点です。法人が負担する社会保険料は、会社の経費となりますが、その原資は会社が生み出した利益であり、最終的には経営者の取り分に影響します。

役員報酬の額にもよりますが、一般的に、個人事業主時代の国民健康保険・国民年金の負担額と比較して、法人化後の社会保険料の総負担額(個人負担分+法人負担分)は大幅に増加する傾向があります。
例えば、年間役員報酬が800万円の場合、国民健康保険・国民年金の年間負担額が約79万円(40歳、東京都渋谷区、扶養なしのモデルケース)であるのに対し、社会保険料の総負担額は約230万円(個人負担約115万円+法人負担約115万円)となり、約3倍もの負担増となる可能性があります。

この社会保険料負担の増加は、法人化を検討する上で最も慎重に考慮すべきデメリットの一つです。対策としては、役員報酬を低く抑えて社会保険料を軽減し、不足する生活費は個人事業としての副業収入で補う(ただし、この場合も税務上の論点あり)、あるいは逆に高額な役員報酬を設定し、将来の年金受給額を手厚くするといった考え方がありますが、いずれにしても専門家との十分な相談が必要です。

デメリット第2位:源泉徴収義務の発生と事務負担の増加

法人になると、役員や従業員に給与や報酬を支払う際に、所得税等を天引き(源泉徴収)し、それを国に納付する義務が生じます。これは、個人事業主が従業員を雇用している場合にも発生しますが、法人の場合は従業員がいなくても、役員自身への報酬支払いについて源泉徴収義務が発生します。

  • 毎月の納付義務: 源泉徴収した所得税は、原則として支払った月の翌月10日までに税務署に納付しなければなりません。
  • 年末調整: 役員・従業員については、年末に年末調整を行い、年間の所得税額を精算する義務があります。
  • 法定調書の作成・提出: 給与支払報告書や支払調書など、様々な法定調書を作成し、税務署や市区町村に提出する必要があります。

これらの源泉徴収に関する事務作業は非常に煩雑であり、正確な知識と手間が必要です。ミスがあれば、加算税や延滞税といったペナルティが科されることもあります。多くの場合、税理士にこれらの業務を委託することになりますが、その分、専門家への報酬も発生します。

源泉徴収は、国が税金を取りっぱぐれないようにするための制度であり、支払う側の法人にとっては、手間とコストが増加する要因となります。

デメリット第3位:赤字でも発生する税金(法人住民税均等割)

個人事業主の場合、所得が赤字であれば、所得税や住民税は原則として発生しません。しかし、法人の場合、たとえ赤字決算であっても、最低限支払わなければならない税金が存在します。それが「法人住民税の均等割」です。

法人住民税は、「所得割(所得に応じて課税)」と「均等割(資本金等の額や従業員数に応じて定額で課税)」の二つから構成されています。このうち均等割は、会社の規模に応じて課されるものであり、利益の有無にかかわらず納税義務が生じます。

資本金1,000万円以下で従業員50人以下の小規模な会社の場合でも、年間最低7万円程度の均等割が発生します(金額は本店所在地の都道府県・市町村によって異なります)。会社が赤字で資金繰りが厳しい状況であっても、この均等割は容赦なく課税されるため、注意が必要です。

デメリット第4位:専門家報酬の増加

法人を設立し、運営していくためには、様々な専門家のサポートが必要となる場面が増えます。

  • 会社設立時: 司法書士(設立登記)、税理士(設立後の税務顧問契約の準備)
  • 設立後(毎年の運営):
    • 税理士: 決算申告、毎月の経理処理、税務相談、源泉徴収事務、年末調整など。
    • 社会保険労務士: 社会保険・労働保険の手続き、給与計算、労務相談など(従業員を雇用する場合)。

これらの専門家への報酬は、個人事業主の場合と比較して高くなるのが一般的です。法人の会計・税務・労務はより複雑であり、専門家の責任も重くなるためです。
例えば、税理士報酬は、個人事業主の確定申告であれば年間数万円~20万円程度で済むケースもありますが、法人の場合は、最低でも年間30万円~50万円以上、事業規模や業務範囲によってはそれ以上の費用がかかることも珍しくありません。社会保険労務士への報酬も別途必要となります。

これらの専門家報酬は、法人を維持していくための必要経費と割り切る必要がありますが、個人事業主時代にはなかった大きなコスト増となることを覚悟しておく必要があります。

まとめ:メリット・デメリットを総合的に比較し、慎重な判断を

会社設立(法人化)には、確かに節税効果や社会的信用の向上といったメリットが期待できます。しかし、その一方で、社会保険料負担の増加、事務作業の煩雑化、赤字でも発生する税金、専門家報酬の増加といったデメリットも確実に存在します。

メリット

  1. 所得分散による節税効果
  2. 社会的信用力の向上
  3. 決算日の自由な設定
  4. その他(経費範囲の拡大、繰越欠損金の長期化など)

デメリット

  1. 社会保険への強制加入と保険料負担増
  2. 源泉徴収義務の発生と事務負担増
  3. 赤字でも発生する税金(法人住民税均等割 約7万円~)
  4. 専門家報酬の増加

これらのメリット・デメリットを天秤にかけ、どちらが自社にとってより大きな影響を与えるのかを冷静に判断する必要があります。

特に、消費税の免税事業者である個人事業主が、インボイス制度への対応を機に法人化を検討する場合は、さらに注意が必要です。法人化すると、原則として設立1期目・2期目は消費税の納税が免除される可能性がありますが(資本金1,000万円未満などの条件あり)、これもタイミングや事業規模によってはメリットにならないケースもあります。売上規模がまだ小さい段階での法人化は、消費税のメリットを享受する前に、他のデメリットの方が大きくなってしまう可能性も考慮しなければなりません。

会社設立は、一度行うと元に戻すのが困難な、大きな決断です。安易な情報や一時的な感情に流されることなく、長期的な視点で、自社の事業内容、収益状況、将来の展望、そして経営者自身のライフプランなどを総合的に考慮し、信頼できる専門家のアドバイスも受けながら、慎重に検討を進めることを強くお勧めします。