「アインシュタインは言った。『複利は人類最大の発明である』と…」
「積立NISAで、複利の力を最大限に活用しよう!」
近年、資産形成の重要性が叫ばれる中で、「複利効果」という言葉が、まるで魔法のように語られています。特に、2024年から新制度がスタートしたNISA(少額投資非課税制度)を活用し、長期的な積立投資によって複利の恩恵を受け、資産を雪だるま式に増やしていくという考え方は、多くの人にとって魅力的に映るでしょう。
確かに、長期的な視点で見れば、複利の力は絶大です。しかし、その恩恵を冷静に見つめたとき、特に自ら事業を営む経営者や個人事業主にとって、それは本当に「最強の選択肢」なのでしょうか?
この記事では、まず積立NISAと複利効果の基本的な仕組みと、その驚異的な力を具体的なシミュレーションを通じて解説します。その上で、経営者という特殊な立場から見たときに、積立投資以上に、はるかに大きなリターンを生み出す可能性を秘めた、究極の投資先について深掘りしていきます。
「複利」と「単利」の決定的な違い:なぜ複利はすごいのか?
シミュレーションに入る前に、まず「複利」と「単利」の基本的な違いを理解しておきましょう。
- 単利(たんり):
- 常に最初の元本に対してのみ利息が計算される方法です。
- 例:100万円を年利10%で運用した場合、毎年受け取れる利息は常に10万円(100万円×10%)です。3年後には、元本100万円+利息30万円=130万円になります。
- 複利(ふくり):
- 運用によって得られた利息を、次の期間の元本に加えて、その合計額に対して利息が計算される方法です。利息が利息を生む、雪だるま式の仕組みです。
- 例:100万円を年利10%で運用した場合、
- 1年後:元本100万円+利息10万円=110万円
- 2年後:元本110万円+利息11万円(110万円×10%)=121万円
- 3年後:元本121万円+利息12.1万円(121万円×10%)=133.1万円
- 単利の130万円と比較して、3.1万円も多くなっています。この差は、運用期間が長くなればなるほど、加速度的に大きくなっていきます。
この「利息が利息を生む」力こそが、複利が「人類最大の発明」とまで言われる所以です。
積立NISAとは?複利効果を最大化する非課税制度
積立NISAは、この複利効果を最大限に活用するために国が用意した、非常に有利な税制優遇制度です。
- 概要:
- 年間一定額までの投資で得られた利益(分配金、譲渡益)が、非課税になる制度です。
- 通常、投資で得た利益には約20%の税金がかかりますが、NISA口座内での取引であれば、これが一切かかりません。
- 2024年からの新NISA:
- 制度が恒久化され、非課税保有限度額も大幅に拡大(生涯で1,800万円)しました。
- 年間投資枠は、「つみたて投資枠」で120万円、「成長投資枠」で240万円、合計で最大360万円となります。
税金がかからないということは、運用で得た利益をまるごと再投資に回せることを意味し、複利効果をさらに加速させることができるのです。
【シミュレーション】積立投資と複利効果の驚異的なパワー
では、実際に毎月一定額を積み立て、複利で運用した場合、資産はどのように増えていくのでしょうか。今回は、新NISAの「つみたて投資枠」を想定し、毎月の積立額と、期待される運用利回り(年率)のパターン別にシミュレーションしてみましょう。
【シミュレーションの前提】
- 毎月の積立額: ①3万円、②5万円、③10万円 の3パターン
- 期待利回り(年率):
- 4%: 比較的安定的なインデックスファンドなどで期待される、現実的な利回り。
- 7%: 「72の法則」で資産が約10年で2倍になるとされる、やや積極的な運用の目標利回り。
- 10%: 米国株式市場の代表的な指数(S&P500)の過去の平均リターンに近い、非常に良好なパフォーマンスを想定した利回り。
【シミュレーション結果】
期間 | 積立額 | 元本合計 | 4%運用時(増益額) | 7%運用時(増益額) | 10%運用時(増益額) |
5年 | 3万円/月 | 180万円 | 199万円(+19万円) | 216万円(+36万円) | 234万円(+54万円) |
5万円/月 | 300万円 | 332万円(+32万円) | 360万円(+60万円) | 390万円(+90万円) | |
10万円/月 | 600万円 | 665万円(+65万円) | 720万円(+120万円) | 781万円(+181万円) | |
10年 | 3万円/月 | 360万円 | 443万円(+83万円) | 525万円(+165万円) | 619万円(+259万円) |
5万円/月 | 600万円 | 739万円(+139万円) | 875万円(+275万円) | 1,032万円(+432万円) | |
10万円/月 | 1,200万円 | 1,479万円(+279万円) | 1,751万円(+551万円) | 2,066万円(+866万円) | |
20年 | 3万円/月 | 720万円 | 1,105万円(+385万円) | 1,570万円(+850万円) | 2,284万円(+1,564万円) |
5万円/月 | 1,200万円 | 1,841万円(+641万円) | 2,617万円(+1,417万円) | 3,807万円(+2,607万円) | |
10万円/月 | 2,400万円 | 3,683万円(+1,283万円) | 5,233万円(+2,833万円) | 7,614万円(+5,214万円) |
シミュレーションから分かること
- 長期運用の力: 運用期間が5年から10年、10年から20年と長くなるにつれて、利益の増加ペースが加速度的に大きくなっていることが分かります。これが複利の力です。
- 利回りの重要性: 同じ積立額でも、利回りが4%か10%かで、20年後の資産額には数千万円単位の大きな差が生まれます。
- 積立額のインパクト: 当然ながら、毎月の積立額が大きいほど、将来の資産額も大きくなります。
この結果だけを見れば、「やはり積立NISAと複利の力はすごい!今すぐ始めるべきだ!」と感じるでしょう。特に、安定した給与収入があり、将来のためにコツコツと資産形成を目指す会社員の方などにとっては、これは非常に有効で、推奨されるべき方法です。
しかし、経営者や個人事業主という立場から、この結果を改めて見つめ直してみる必要があります。
経営者の視点:「積立投資」 vs 「自己事業投資」
上記のシミュレーションで、最も良好なパフォーマンスであった「毎月10万円を年利10%で20年間運用」した場合を考えてみましょう。
- 元本合計:2,400万円
- 20年後の資産額:約7,614万円
- 運用による利益:約5,214万円
- 1年あたりの平均利益:約260万円
20年という長い年月をかけて、毎年コンスタントに120万円を投資し続けた結果、年平均で約260万円の利益が得られる。これは、何もしないよりは、はるかに素晴らしい成果です。
しかし、もしあなたが経営者なら、どう考えるでしょうか?
「機会費用」という考え方
もし、この毎月10万円、年間120万円という資金を、積立NISAではなく、あなた自身の事業に投資していたら、どうなっていたでしょうか?
- 5年間の積立元本600万円を事業に投資した場合:
- 5年間コツコツ積み立てた600万円を元手に、あなたは個人事業を始めることができます。
- その600万円で、店舗を借りたり、設備を導入したり、広告を打ったり、あるいは金融機関からさらに1,000万円程度の融資を引き出し、合計1,600万円の元手で事業をスタートさせることも可能です。
- その結果、年間で180万円以上の利益を生み出すことは、決して非現実的な話ではありません。 シミュレーションでは、積立NISAで180万円の利益を得るのに、約5年かかりました。事業であれば、それを1年で達成できる可能性があるのです。
- 毎月10万円を自己投資に使った場合:
- 毎月10万円を、自身のスキルアップのための講座(例:Webマーケティング、プログラミング、動画編集など)や、専門書籍の購入、人脈形成のための交流会参加などに投資したとします。
- 1年間で120万円の自己投資。その結果得られたスキルや知識、人脈を活用すれば、自身の事業の収益力を高め、年間の利益を数百万円単位で増加させることも十分に可能です。
リターンの「桁」が違う
積立NISAで期待できる年利は、どんなに高くても10%程度でしょう。しかし、自己事業への投資のリターンは、その何倍、何十倍、時には何百倍にもなる可能性を秘めています。
- 100万円を投資して、1年後に120万円の利益を生み出せれば、リターンは120%。
- 100万円を投資して、新たなビジネスモデルを構築し、年間1,000万円の利益を生み出す仕組みを作れれば、リターンは1,000%です。
もちろん、事業には失敗のリスクが伴います。しかし、経営者や個人事業主は、そもそもそのリスクを取って、市場で価値を創造し、リターンを得ることを選択した人々です。その立場にある人が、年利数パーセントの世界で満足していて良いのでしょうか。
結論として、経営者や個人事業主にとって、最も高いリターンが期待できる、そして優先すべき投資先は、株式や投資信託ではなく、「自分自身の事業」なのです。
では、経営者は積立NISAをやるべきではないのか?
「では、経営者は積立NISAを一切やるべきではないのか?」というと、一概にそうとも言えません。
- 会社員(給与所得者)の方:
- 収入が給与に限定されており、リスクを取って事業を起こすことが難しい場合、積立NISAは将来の資産形成のための非常に有効な手段です。積極的に活用すべきでしょう。
- 経営者・個人事業主の方:
- 優先順位の問題です。 まずは、手元の資金を、リターンが最も期待できる「自己事業」に最大限投資することを考えるべきです。
- 事業への投資をやり尽くし、それでもなお、長期的に使う予定のない「余剰資金」があるのであれば、その一部をリスク分散やインフレヘッジの一環として、積立NISAなどで運用するのは、賢明な選択と言えます。
- しかし、「自分の事業に投資するよりも、積立NISAの方が魅力的だ」と感じてしまうのであれば、それは、自身の事業の収益性や将来性そのものに、何か問題があるのかもしれません。
まとめ:人類最大の発明は「複利」か、それとも「事業」か?
複利の力は、確かに素晴らしいものです。時間を味方につけ、コツコツと資産を積み上げていくことは、多くの人にとって、豊かな未来を築くための堅実な道筋を示してくれます。
しかし、もしあなたが、自らの手で価値を創造し、社会に影響を与え、そして何よりも大きな経済的リターンを目指す「経営者」「事業家」という道を選んだのであれば、その視点を一段高く持つ必要があります。
経営者のための投資の優先順位
- 最優先:自己事業への投資
- 新商品開発、マーケティング、人材育成、設備投資など、事業の成長に直結する分野へ、最大限の資金を投下する。期待されるリターンは、年利何十%、何百%という世界。
- 次点:自己への投資
- 自身の知識、スキル、人脈を広げるための投資。これは、事業の成功確率を高め、リターンを最大化するための最も確実な投資です。
- 余裕があれば:金融商品への投資(NISAなど)
- 事業で得た利益の中から、長期的に使う予定のない「余剰資金」を、リスク分散とインフレ対策として、年利数%~10%程度のリターンを目指して運用する。
積立NISAのシミュレーション結果を見て、「20年後に数千万円」という数字に夢を感じるかもしれません。しかし、本物の経営者であれば、「その数千万円を、事業なら数年で、いや1年で稼ぎ出す」という気概を持つべきではないでしょうか。
複利は、確かに偉大な発明です。しかし、それ以上に、自らのアイデアと情熱、そしてリスクテイクによって、ゼロから価値を生み出し、社会を動かし、そして複利とは比較にならないほどの富を築く可能性を秘めた「事業」こそが、経営者にとっての最大の発明であり、最高の投資先なのです。
この記事が、あなたの投資に対する考え方を見つめ直し、経営者としての本来のポテンシャルを最大限に引き出すための一助となれば幸いです。