「今期は赤字だから、税金の支払いはゼロだ。一安心だ…」
もし、あなたが、会社の決算が赤字になった時に、このように考えているとしたら、それは極めて危険な、そして、会社の資金繰りを破綻させかねない、致命的な誤解です。
会社の利益に対して課される「法人税」は、確かに赤字であれば発生しません。
しかし、会社の経営には、 利益が出ているかどうかにかかわらず、つまり、たとえ大赤字であっても、容赦なく、そして確実に、支払いを求められる「4つの税金」 が存在するのです。
この「赤字でもかかる税金」の存在を知らない、あるいは、その金額を甘く見積もっていると、
「利益がないから、税金の準備はしていなかった…」
「納税資金が足りない!来月の仕入代金が払えない!」
といった、予期せぬ資金ショートを引き起こし、会社を、倒産の危機へと追い込んでしまう可能性があります。
この記事では、あなたの会社の、目に見えないキャッシュフローを静かに蝕む、 「赤字でも支払わなければならない4つの税金」 の正体を、一つ一つ、徹底的に、そして分かりやすく解説していきます。
- 持っているだけで課税される「固定資産税」「自動車税」
- 法人の「存在料」とも言える、「法人住民税の均等割」
- そして、最大の罠である、「利益とは無関係に発生する、消費税」
これらの税金が、なぜ、そして、いくら発生するのか。
そして、その支払いに窮しないために、経営者は、何を、どのように準備しておくべきなのか。
この記事を読み終える頃には、あなたは、会社の「本当のコスト」を正しく把握し、どんな経営状況でも揺るがない、盤石の資金繰り計画を立てるための、確かな知識を手にしているはずです。
第1章:【所有のコスト】持っているだけで、毎年かかる「固定資産税」と「自動車税」
まず、最も分かりやすく、そして、多くの会社が負担しているのが、 「資産の所有」 に対して課される税金です。
① 固定資産税
固定資産税とは、会社が所有している「土地」や「建物(社屋、工場、店舗など)」といった、固定資産に対して、毎年課される地方税です。
- 課税のタイミング:
毎年1月1日時点で、その資産を所有している法人(または個人)に対して、課税されます。 - 納税のタイミング:
通常、年4回(6月、9月、12月、2月など)に分けて、納税通知書が送られてきます。 - 重要なポイント:
この税金は、その土地や建物を使って、どれだけ利益を上げたか、あるいは、赤字だったか、ということとは、一切関係ありません。
ただ、「所有している」という事実だけで、毎年、必ず、納税義務が発生するのです。
自社ビルや、工場を所有している会社にとっては、これは、決して小さくない、毎年固定で発生するコストとなります。
② 自動車税
自動車税とは、会社が所有している「自動車」に対して、毎年課される地方税です。
- 課税のタイミング:
毎年4月1日時点で、その自動車を所有している法人(または個人)に対して、課税されます。 - 納税のタイミング:
通常、5月上旬に納税通知書が届き、5月末までに納付する必要があります。 - 重要なポイント:
これも、固定資産税と同様、その車を使って、事業が儲かったかどうかは、一切関係ありません。
社用車を所有している限り、その排気量に応じて、毎年、必ず支払わなければならない税金です。
これらの「所有コスト」としての税金は、金額の予測が比較的容易です。経営者は、年間の資金繰り計画の中に、これらの納税額を、あらかじめ「確定した支出」として、組み込んでおく必要があります。
第2章:【存在のコスト】法人の「住民票代」とも言える、「法人住民税の均等割」
次に、多くの経営者が、法人化して初めて、その存在に気づく税金。
それが、 「法人住民税の均等割」 です。
法人住民税の「2つの顔」
法人住民税は、実は、2つの異なる性質の税金が、組み合わさってできています。
- 法人税割:
これは、国に納める「法人税」の額に応じて、課税される部分です。したがって、利益が出ておらず、法人税がゼロであれば、この「法人税割」も、ゼロになります。 - 均等割:
これが、問題の部分です。
均等割とは、その法人の「資本金の額」と「従業員数」に応じて、利益が出ているかどうかにかかわらず、一律に課される部分です。
つまり、たとえ、会社が1億円の大赤字であったとしても、この「均等割」だけは、毎年、必ず、支払わなければならないのです。
なぜ、赤字でも払う必要があるのか?
この均等割は、いわば、 「その地域で、法人として事業活動を行うための、場所代」や「行政サービスを受けるための、会費」 のようなものです。
会社がその地域に存在するだけで、道路、水道、警察、消防といった、様々な行政サービスの恩恵を受けています。そのサービスに対する、最低限の負担金として、利益に関係なく、徴収されるのです。
いくら、かかるのか?
均等割の額は、事業所がある都道府県と、市町村、それぞれに納める必要があり、その合計額は、会社の規模によって異なります。
最も規模の小さい、資本金1,000万円以下、かつ、従業員数50人以下の法人であっても、
- 都道府県民税: 最低 2万円
- 市町村民税: 最低 5万円
の、合計で、最低でも、年間約7万円の負担が発生します。
会社の規模が大きくなれば、この金額は、数十万円、数百万円と、膨れ上がっていきます。
これは、個人事業主にはない、 法人特有の「存在コスト」 です。
法人化を検討する際には、この、赤字でも毎年必ず発生する、最低7万円のランニングコストを、念頭に置いておく必要があります。
第3章:【最大の罠】利益と無関係に襲いかかる、「消費税」の納税義務
そして、赤字企業の資金繰りに、最も大きな、そして、最も予期せぬダメージを与える可能性のある税金。
それが、 「消費税」 です。
「赤字なんだから、消費税も払わなくていいだろう」
この考えは、消費税の仕組みを、根本的に誤解している、極めて危険な考えです。
消費税は、「利益」ではなく、「取引」に対して課される
法人税や所得税は、1年間の「利益(儲け)」に対して、課税されます。
しかし、消費税は、全く異なります。
消費税は、個々の「取引」、つまり、「売上」と「仕入れ」の差額に対して、課税されるのです。
消費税の納税額の計算式を、もう一度、思い出してください。
納税額 = ①お客様から預かった消費税(売上にかかる消費税) - ②仕入先や経費で支払った消費税
この計算式の中に、「利益」や「赤字」という概念は、一切、登場しないのです。
なぜ、赤字でも「消費税」が発生するのか?
では、なぜ、会社全体としては赤字なのに、消費税の納税義務が発生するのでしょうか。
その最大の理由は、会社の経費の中に、「消費税がかからない支出」が多く含まれているからです。
会社の経費の、最も大きな割合を占めるものは、何でしょうか。
多くの場合、それは 「人件費(給与、賞与、社会保険料など)」です。
そして、この人件費には、消費税は、一切かかりません。
【具体例でシミュレーション】
あるITサービス企業の、1年間の損益を見てみましょう。
- 売上高: 3,300万円(うち、預かった消費税 300万円)
- 経費の内訳:
- 外注費・サーバー代など:1,100万円(うち、支払った消費税 100万円)
- 人件費(給与・社会保険料):3,000万円(消費税は0円)
- 経費合計: 4,100万円
【損益計算】
- 利益 = 3,300万円(売上) - 4,100万円(経費) = マイナス800万円(大赤字)
この会社は、決算上、800万円の大赤字です。したがって、法人税は、1円もかかりません。
では、消費税の納税額は、どうなるでしょうか。
【消費税計算】
- 納税額 = 300万円(預かった消費税) - 100万円(支払った消費税) = 200万円
いかがでしょうか。
会社は800万円の赤字であるにもかかわらず、200万円もの、巨額な消費税を、国に納めなければならないのです。
この、「会計上の損益」と、「消費税の納税義務」の、大きなギャップ。
これこそが、多くの経営者が陥る、消費税の「最大の罠」なのです。
この事実を知らず、顧客から預かった消費税を、会社の運転資金として使い込んでしまうと、納税時期に、深刻な資金ショートを引き起こすことになります。
第4章:赤字でも、会社を潰さない!盤石の「資金繰り計画」の立て方
では、これらの「赤字でもかかる税金」に、どう備えれば良いのでしょうか。
その答えは、 「定期的な資金シミュレーション」と「専門家との連携」 に尽きます。
① 定期的な資金シミュレーションと、納税資金の確保
年に一度、決算が終わってから、慌てて納税額を知る、というスタイルでは、遅すぎます。
経営者は、毎月、あるいは、少なくとも四半期に一度は、自社の業績を把握し、
- その時点での、消費税の納税見込み額は、いくらか?
- 年間の、固定資産税、自動車税、均等割の合計額は、いくらか?
といった、 「赤字でもかかる税金の総額」 を、常にシミュレーションし、把握しておく必要があります。
そして、その納税見込み額を、あらかじめ、 「納税準備預金」 として、別の口座に積み立てておくなど、納税資金を、計画的に、そして確実に、確保しておくのです。
この、地道な準備が、予期せぬ納税による、資金繰りの悪化を防ぐ、何よりの防波堤となります。
② 税理士という「航海士」との、定期的な連携
会社の財務状況を、経営者一人で、正確に、そして客観的に把握し続けることは、容易ではありません。
だからこそ、顧問税理士という、専門家の存在が、不可欠になるのです。
税理士は、単に、年に一度、申告書を作成してくれるだけの存在ではありません。
定期的に、業績報告のミーティングを行い、
- 「社長、このペースだと、今期の消費税は、〇〇円くらいになりそうですよ」
- 「利益は出ていますが、キャッシュフローが悪化しています。原因は、〇〇にあります」
- 「来月の、均等割の納税資金は、準備できていますか?」
といった、 会社の財務の「健康状態」 について、プロの視点から、的確な診断と、アドバイスを与えてくれます。
経営者であるあなたが「船長」なら、税理士は、最新の海図と、天候を読み解き、船が座礁しないように、最適な航路を提案してくれる、 優秀な「航海士」 なのです。
この、信頼できる航海士と、定期的にコミュニケーションを取り、自社の現在地と、進むべき針路を確認し続けること。それが、どんな荒波にも揺るがない、安定経営を実現するための、最も確実な方法です。
まとめ:税金の知識は、会社の「命」を守る、経営者の必須スキルである
赤字でも、支払わなければならない、4つの税金。
- 固定資産税
- 自動車税
- 法人住民税の均等割
- 消費税
これらの存在を、正しく理解し、その支払いを、年間の資金繰り計画に、あらかじめ組み込んでおくこと。
この、当たり前でありながら、多くの経営者が見過ごしがちな、 「税金の知識」と「計画性」 こそが、あなたの会社の「命」である、キャッシュを守るための、最も重要なスキルです。
会社の損益計算書が、たとえ赤字であっても、悲観する必要はありません。
重要なのは、その赤字が、計画的なものか、そうでないか。
そして、その状況下でも、支払うべきものを、きちんと支払えるだけの、財務的な体力が、会社にあるかどうかです。
ぜひ、この記事をきっかけに、あなたの会社の「本当のコスト」を、見つめ直してみてください。
その先に、どんな経済状況の変化にも、動じない、真に「強い」会社の姿が、見えてくるはずです。
最後までお読みいただきありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。