【知らないと損する!】マイクロ法人の限界とデメリット3選

法人設立

「マイクロ法人って節税に良いって聞くけど、本当に大丈夫?」
「社会保険料を安くできるって聞いたけど、落とし穴はないの?」

近年、個人事業主の方やこれから起業を考える方々の間で「マイクロ法人」という言葉を耳にすることが増えました。社会保険料の削減に有効なスキームとして注目されていますが、その一方で、あまり知られていない限界やデメリットも存在します。

今回は、マイクロ法人の基本的な概念から、その活用において知っておくべき3つのデメリットについて詳しく解説します。

マイクロ法人ってそもそも何?

まず、マイクロ法人とは何か、基本的なところから確認しておきましょう。

マイクロ法人とは、実は正式な法律用語ではありません。インターネットなどから生まれた造語のようなもので、一般的には以下のような会社を指します。

  • 社員を雇用しない:社長一人だけで運営される。
  • 事業拡大を考えない:大規模な事業展開を目的としない。
  • 社会保険料削減を目的とする:特に個人事業主が国民健康保険料の高さに悩む中、社会保険料の負担を減らすために設立されることが多い。

なぜマイクロ法人で社会保険料が削減できるのか?

個人事業主が支払う社会保険料、特に国民健康保険料は、所得が増えるにつれて年間100万円近くまで跳ね上がる市町村も少なくありません。国民健康保険料は個人の所得に基づいて計算されるため、所得を大幅に減らさない限り削減は難しいのが現状です。

そこでマイクロ法人の出番です。
個人事業とは別に法人を設立し、その法人で役員となります。そして、その役員報酬を最低限に設定することで、健康保険と厚生年金の社会保険料負担を抑える、というスキームです。

これは、会社経営者やサラリーマンの健康保険料・厚生年金保険料が、基本的に「月給」で決まるという制度に基づいています。つまり、月給を最低水準まで引き下げれば、社会保険料も大幅に削減できるのです。

例えば、東京都の場合、令和4年4月以降の保険料額表を見ると、報酬月額が6万3千円未満であれば、介護保険に該当しない方で月額5,689円、介護保険に該当する方で月額6,641円の健康保険料負担(会社負担分を含まない)となります。厚生年金も報酬月額が9万3千円未満であれば、月額16,104円(個人負担8,052円)に抑えることが可能です。

オーナー企業であれば、会社負担分と個人負担分を合わせて自分が支払うことになりますが、役員報酬を最低限に設定することで、月に2万円強の社会保険負担で済ませることができるのです。これは、国民健康保険料の上限が年々上がっている中で、非常に魅力的なスキームとして注目されています。

しかし、この魅力的なスキームには、知っておくべき落とし穴があります。

マイクロ法人の限界とデメリット3選

マイクロ法人を検討する際に必ず知っておきたい3つのデメリットを見ていきましょう。

1. 税務否認リスクと社会保険制度改正リスク

マイクロ法人には、税務上と社会保険上のリスクが潜んでいます。

  • 個人事業との線引きが曖昧だと税務否認される可能性
    もともと個人で営んでいた事業と、後から設立した法人(マイクロ法人)の事業内容がほとんど同じ場合、「事業の線引きができていない」「個人事業に帰属すべき所得を不当に法人に移しているだけではないか」と税務署から指摘を受ける可能性があります。金額規模が小さければ税務調査が行われる可能性は低いかもしれませんが、税務理論上はマイクロ法人が実体のない「ペーパーカンパニー」とみなされ、税務否認されるリスクはゼロではありません。
    マイクロ法人を活用する場合は、個人で行っているビジネスとは別のビジネスを法人で運営するなど、事業内容を明確に区別することをお勧めします。
  • 社会保険に関する規制が設けられる可能性
    マイクロ法人のスキームが流行しすぎると、社会保険制度自体に規制が設けられる可能性があります。特に、個人事業で大きな利益を出しているにもかかわらず、社会保険料の負担が月数万円に抑えられている現状は、「やり過ぎではないか」という議論を呼ぶ可能性があります。税制や社会保険制度においては、節税的なスキームが過熱すると、すぐに網がかけられて禁止されることがよくあります。現時点では有効なスキームであっても、将来的に制度が改正される可能性は頭の片隅に入れておくべきでしょう。

2. 節税の限界

個人事業主の節税対策には限界があります。そのため、多くの経営者が法人を設立し、様々な節税策を駆使しています。

法人が活用できる節税策の中でも特に重要なのが「役員報酬」です。会社から社長に給与を支払い、個人の財産を形成しつつ、法人では経費として計上することで節税効果を得ます。もちろん、個人の所得は増えるため、社会保険料や所得税、住民税はかかりますが、お金を残す節税策としては非常に有効です。

しかし、マイクロ法人スキームでは、社会保険料を抑えるために役員報酬を月額数万円まで低く設定する必要があります。
これは、事業が順調に拡大し、法人でしっかり利益が出るようになった場合、個人に財産を残すためには役員報酬を増額せざるを得なくなり、結果的に社会保険料も増加してしまうという「節税の限界」に直面することを意味します。

長期にわたってマイクロ法人スキームを維持することは難しく、どこかの段階で役員報酬を上げなければ、会社の利益が内部に蓄積されるだけで、個人に財産を移すことができません。
「ずっと個人事業主でいた方が良いのでは?」と思われる方もいるかもしれませんが、個人事業主の場合、所得税は累進課税で所得が大きくなればなるほど税率も高くなります。ある程度の所得を超えると、法人を設立してしっかり節税対策を行う方が有利になるケースがほとんどです。

マイクロ法人は、あくまで「小規模な会社で、それ以上成長させない」という限定的な状況下でのみ有効なスキームと言えるでしょう。

「法人化したら生命保険や出張旅費日当、社宅など、いろいろな節税策が使えるんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、確かに役員報酬を下げてこれらの節税策を駆使すれば、ある程度の節税は可能です。しかし、それでもなお、次にご紹介する弊害が残ります。

3. 役員報酬を低く設定することによる将来的なデメリット

マイクロ法人スキームで役員報酬を低く設定することは、将来的にいくつかの弊害をもたらします。

  • 個人に財産が残らない
    役員報酬が低いと、会社にはお金が貯まっていきますが、個人には財産が残りません。もし、個人の生活水準を上げたい、株式投資などの資産形成を行いたいといった場合、個人にお金がないため困ることになります。
    会社から社長に資金を「貸し付ける」という方法もありますが、これは法律上OKでも、税務上は様々な問題が生じます。
    • 返済義務:社長は会社に返済しなければなりません。返済がない場合、「役員報酬の追加支払い」とみなされ、経費にはならないのに個人の所得税や住民税などの源泉徴収が発生してしまいます。
    • 信用力低下:会社にとって貸付金は実体のない財産とみなされ、融資審査の際に貸借対照表から控除され、会社の評価が下がることがあります。
      これらの理由から、社長への貸付は基本的におすすめできません。ある程度の役員報酬を設定し、個人に財産を残すことが重要です。
  • 役員退職金が通りにくくなる
    「退任するのはずっと先のこと」と思っていても、役員退職金について知っておくことは重要です。役員の退職金は、一般的に「最終報酬月額 × 在任期間 × 功績倍率」という計算式で算出されます。
    • 最終報酬月額:退任直前の月給
    • 在任期間:社長として在任していた期間
    • 功績倍率:代表取締役社長で3倍前後が目安とされる
      この計算式からわかるように、役員報酬が低いと、たとえ在任期間が長くても退職金は非常に少なくなってしまいます。例えば、月給5万円で20年間社長を務めたとしても、退職金はせいぜい300万円程度にしかなりません。
    また、法人税法上は、不相当に高額な退職金は認められません。同業種・同規模の法人の役員退職金と比較して大きすぎないかどうかが判断基準となります。役員退職金規程を作成し、上記計算式などを明記しておくことが、税務調査で否認されないために重要です。
    したがって、退任を意識する時期からは、ある程度の役員報酬を設定し、退職金が適正な金額になるように準備することが望ましいでしょう。
  • 会社解散時の税負担が増大する可能性
    「退職金はいらないから、会社を解散して残った財産を全部受け取ればいい」と考える方もいるかもしれません。しかし、会社に財産が残った状態で解散する場合、その財産は株主に分配されます。これは税務上「剰余金の配当」、つまり「配当金」として扱われます。
    上場企業からの配当金であれば、特定口座を利用することで約20%の税負担に抑えることが可能ですが、非上場企業からの配当金は 総合課税(超過累進税率) が適用されます。個人の所得税・住民税の最高税率は約55%にも達するため、配当金として受け取る場合の税負担は非常に大きくなります。一方、退職金は「退職所得」として扱われ、税制優遇が大きく、非常に税負担が軽くなります。例えば、在任期間に応じた控除や、2分の1課税といった特例が適用されます。
    このことからも、配当金として受け取るよりも、適切な役員報酬を設定し、退職金として受け取る方が、圧倒的に税負担を抑えることができます。

まとめ:マイクロ法人は限定的なスキーム

マイクロ法人スキームは、社会保険料の削減という点では非常に魅力的ですが、上記で見てきたように、税務上のリスク、節税の限界、そして役員報酬を低く設定することによる将来的なデメリットなど、様々な課題を抱えています。

  • 税務・社会保険制度改正のリスクがある
  • 長期的な視点で見ると節税の限界がある
  • 個人に財産が残りにくく、将来の退職金や解散時の税負担に影響する

マイクロ法人は、あくまで「非常に限定された状況」でのみ有効なスキームであると言えるでしょう。

皆さんの事業が順調に拡大しているのであれば、マイクロ法人の考え方に固執せず、一般的な法人として、適切な役員報酬を設定し、様々な節税対策を駆使しながら事業を成長させていくことが、長期的に見て賢明な選択となります。

事業の成長ステージに合わせて、柔軟に事業形態や節税戦略を見直していくことが、持続的なビジネス成功の鍵となるでしょう。