会社員の方にとって、毎日の通勤は避けて通れないものですよね。電車、車、自転車、中にはタクシーやフェリーで通勤されている方もいらっしゃるかもしれません。
そして、多くの会社から支給される「通勤手当」。この通勤手当、実は**税金がかからない「非課税枠」**があることをご存知でしょうか?
「通勤手当って、どこまでが非課税になるの?」
「車と電車だと、計算方法が違うって聞いたけど…」
「もし通勤途中で事故に遭ったら、労災は適用されるの?」
このような疑問をお持ちの方のために、今回は通勤手当に関するあらゆる疑問にお答えし、非課税枠を最大限に活用して手取りを増やす方法を徹底解説していきます。
この記事を最後まで読めば、あなたの通勤手当が税金で損することなく、最大限に活かされるはずです。ぜひ最後までお付き合いください。
第1章:通勤手当の非課税限度額をおさらい!税金がかからない「お得な枠」を知る
まずは、通勤手当の非課税限度額について、基本的なルールから確認していきましょう。これは、所得税がかからない上限額を指します。
1-1. 車・自転車通勤の場合の非課税限度額
自動車や自転車で通勤している方には、通勤距離に応じて毎月非課税となる金額が定められています。
| 片道通勤距離 | 非課税限度額(月額) |
| 2km未満 | 全額課税 |
| 2km以上10km未満 | 4,200円 |
| 10km以上15km未満 | 7,100円 |
| 15km以上25km未満 | 12,900円 |
| 25km以上35km未満 | 18,700円 |
| 35km以上45km未満 | 24,400円 |
| 45km以上55km未満 | 28,000円 |
| 55km以上 | 31,600円 |
例えば、片道5kmの距離を車で通勤している場合、毎月4,200円までは非課税で通勤手当を受け取ることができます。もし5,000円支給されたとすれば、4,200円は非課税ですが、残りの800円は給与と同じように所得税が課税されます。
1-2. 電車・バスなどの公共交通機関利用の場合の非課税限度額
電車やバスといった公共交通機関を利用して通勤している場合は、原則として1ヶ月の定期代が全額非課税となります。
ただし、ここには一つ条件があります。それは**「最も経済的かつ合理的な経路及び方法」**であること。
そして、その上限額は月額15万円です。
例えば、定期代が月10万円であれば全額非課税ですが、もし20万円かかったとすると、15万円までは非課税ですが、残りの5万円は課税対象となります。
この「最も経済的かつ合理的な方法」という点が重要で、後ほど解説する様々なケースでこの考え方が適用されます。
1-3. 知っておきたい!通勤手当と社会保険料
通勤手当は所得税の非課税枠がありますが、実は社会保険料(健康保険、厚生年金保険など)の計算においては課税対象となります。
これは、通勤手当も賃金の一部とみなされるためです。そのため、通勤距離が長い方ほど、通勤手当が多く支給され、結果として社会保険料の負担が増える可能性があります。
「なんで給料じゃないのに社会保険料がかかるの?」と思われるかもしれませんが、現状の制度ではそうなっています。この点は、手取り額を考える上で把握しておくべきポイントです。
第2章:あなたの通勤パターンは?気になる疑問に答えるQ&A
ここからは、皆さんが抱くであろう様々な通勤手当に関する疑問について、具体的なケースを挙げながら解説していきます。
2-1. 【消費税】通勤手当に消費税は含まれるの?
Q:通勤手当に消費税って含まれるんですか?
A:はい、会社の経理処理上は、通勤手当は消費税込みの金額として処理されます。消費税が含まれる取引として扱われる、とご理解ください。
2-2. 【労災】虚偽申告で通勤中に事故に遭ったら?
Q:会社には電車通勤で申請しているのに、実際は車で通勤していました。通勤途中で交通事故に遭った場合、労災は適用されるのでしょうか?
A:残念ながら、このケースでは労災は適用されない可能性が高いです。
労災が適用される「通勤災害」は、合理的な経路及び方法による通勤中に発生した事故が対象となります。会社に虚偽の申告をして、許可されていない方法で通勤していた場合、それは「合理的な方法」とはみなされません。
もし、一時的に車で通勤する必要がある場合は、必ず事前に会社に相談し、許可を得ておくことが重要です。例えば、「今日は荷物が多いので車で通勤してもいいですか?」と会社から許可をもらっていれば、その際の事故は労災の対象となる可能性が高まります。
正直な申告と会社との連携が、万が一の際の安心に繋がります。
2-3. 【社用車】会社の車で通勤したら通勤手当は?
Q:社用車で通勤した場合、通勤手当はどうなりますか?
A:社用車での通勤の場合、通勤手当の扱いは会社のルールとガソリン代の負担者によって変わってきます。
通常、自動車通勤の非課税枠は「マイカー(自家用車)」での通勤を前提としています。
もし、社用車で通勤し、ガソリン代も会社が全額負担している場合、従業員本人が経済的な負担をしていないため、非課税の通勤手当としては認められません。会社が通勤手当として支給したとしても、それは通常の給与として扱われ、所得税・住民税・社会保険料の課税対象となります。
しかし、もし会社のルールとして「社用車で通勤しても良いが、ガソリン代は自己負担」という規定があり、従業員がガソリン代を負担している場合であれば、非課税の通勤手当として認められる可能性はあります。この場合も、前述の距離に応じた非課税限度額が適用されます。
会社の規定を確認し、不明な場合は担当者に相談してみましょう。
2-4. 【バス通勤】2km未満でも非課税になる?
Q:通勤距離が2km未満でバス通勤の場合、定期代は非課税になりますか?
A:はい、問題なく非課税になります。
2km未満の場合に非課税枠がないのは、あくまで「自動車と自転車(徒歩も含む)」での通勤に限られます。バスや電車などの公共交通機関を利用する場合は、距離に関係なく1ヶ月の定期代が非課税となり、上限は15万円です。
ご安心ください。
2-5. 【複合通勤】車と電車を組み合わせた場合は?
Q:自宅から最寄りの駅までは自動車(または自転車)で、駅から会社までは電車で通勤しています。駅までの駐車料金も必要です。この場合、通勤手当はどうなりますか?
A:この複合通勤のケースでは、それぞれの交通手段に対して非課税枠が適用され、それらを合算した金額が非課税限度額となります。ただし、合算額の上限は月額15万円です。
具体的には以下のようになります。
- 自宅から駅までの自動車(または自転車)利用部分: 片道通勤距離に応じた非課税限度額(前述の表参照)が適用されます。
- 駅からの電車利用部分: 1ヶ月の定期代が非課税となります。
- 駅の駐車(駐輪)料金: これも「最も経済的かつ合理的な通勤方法」として認められれば、非課税の通勤手当に含めることができる可能性があります。明確な規定はありませんが、通勤に必要な費用として会社が認めるかどうかによります。
例えば、駅までの距離が5kmで車を利用し、電車の定期代が3万円、駅の駐車料金が1万円の場合、以下のように計算されます。
- 車利用部分:4,200円(非課税)
- 電車定期代:30,000円(非課税)
- 駐車料金:10,000円(非課税として認められれば)
これらを合算した44,200円は、15万円の限度額内ですので、全額非課税で受け取れる可能性があります。
ただし、駐車料金の負担については会社の規定や判断が大きく影響します。会社によっては「そこまでの費用は負担できない」と判断される場合もありますので、必ず事前に会社に確認しましょう。
2-6. 【役員】役員報酬ゼロでも通勤手当はもらえる?
Q:役員報酬ゼロで会社を設立しましたが、通勤手当のみいただくことは可能でしょうか?
A:はい、可能です。
役員も従業員と同様に、通勤手当を支給することができます。たとえ役員報酬がゼロであったとしても、通勤という実態があれば、非課税枠内で通勤手当を受け取ることは問題ありません。
特に会社設立当初などで、役員報酬を抑えたい場合に有効な方法と言えるでしょう。
2-7. 【応用編】多様な通勤方法を組み合わせる場合は?
Q:往復20kmの距離を毎日自転車で通勤していますが、月に数日は雨天のため公共交通機関(往復1,000円程度)を利用したり、たまに車を使ったりしています。現在は通勤手当として7,100円(自転車のメンテナンス費込み)を受け取っていますが、どのような申請が合法でしょうか?
A:このケースも複合的な要素がありますが、「最も経済的かつ合理的な方法」という視点で考えていきましょう。
- 自転車通勤(片道10km以上): 基本的には、片道10km以上55km未満の距離に対応する**7,100円(月額)**が非課税限度額となります。自転車のメンテナンス費用は、この通勤手当に含まれるものとして考えられます。
- 雨天時の公共交通機関(電車・バス): 雨天時に自転車や車での通勤が困難な場合、公共交通機関を利用することは「合理的」とみなされます。この場合の交通費(往復1,000円)は、実費精算として非課税で支給されるのが一般的です。月額15万円の限度額内であれば問題ありません。
- たまに車を利用する場合: 自転車での通勤距離と車の通勤距離が同じであれば、非課税限度額(7,100円)に変化はありません。
したがって、合法的な申請としては、以下のようになるでしょう。
- 基本の通勤手当:月額7,100円(自転車・車通勤分として)
- 雨天時の公共交通機関利用:実費精算(月額15万円以内)
重要なのは、会社にこれらの通勤実態を正確に伝え、会社の承認を得ることです。会社がルールとして認めていれば、問題なく非課税で受け取ることができます。
2-8. 【特殊ケース】タクシーやフェリー、深夜バスの利用は?
Q:タクシーは公共交通機関だから、定期代の非課税枠になるのかな?
A:はい、タクシーも飛行機や船と同様に、公共交通機関に含まれます。
ただし、タクシー代が非課税となるかどうかは、**「最も経済的かつ合理的な方法」**であるかどうかが厳しく問われます。
- 非課税になる可能性のあるケース:
- 山奥に住んでおり、他に公共交通機関がない場合。
- 電車やバスが通っていない、あるいは深夜で運行していない時間帯に通勤が必要な場合。
- 怪我や病気などで、一時的に公共交通機関の利用が困難な場合(診断書などが必要となることもあります)。
- 上記のように、やむを得ない事情でタクシーを利用せざるを得ないと会社が認め、かつそれが**「最も経済的かつ合理的」**だと説明できる場合に限り、月額15万円を上限として非課税となります。
- 非課税にならない可能性が高いケース:
- 通常の電車やバスで通勤できるにもかかわらず、個人的な理由でタクシーを利用する場合。
基本的には、電車やバスが利用できる場合はそちらが優先されると考えて良いでしょう。
Q:深夜バス(ループ)の利用は非課税になりますか?
A:深夜バスも「最も経済的かつ合理的な方法」と判断されれば、非課税の対象となります。終電がなくなってしまい、他に交通手段がない場合に利用するのであれば、それは合理的とみなされるでしょう。この場合も、月額15万円の非課税限度額が適用されます。
Q:車でフェリーに乗って通勤する場合はどうですか?
A:これも複合通勤のケースと考えられます。
- 自宅から船乗り場まで、および下船後から会社までの車での移動区間: 片道通勤距離に応じた非課税限度額が適用されます。
- フェリー代: フェリーが「最も経済的かつ合理的な通勤方法」として認められれば、フェリーの定期代などが非課税となります。
これらを合算した金額が、月額15万円の非課税限度額の範囲内であれば、非課税で受け取ることが可能です。
Q:高速道路料金は非課税になりますか?
A:はい、車での通勤で高速道路を利用することが「最も経済的かつ合理的な方法」と判断される場合、高速道路料金も非課税の通勤手当に含めることができます。例えば、一般道では通勤時間が大幅にかかる場合などが該当します。
これらの特殊ケースでは、「なぜその交通手段が必要なのか」を会社に明確に説明し、承認を得ることが何よりも重要です。
2-9. 【重要な注意点】会社の通勤手当ルールが最優先!
ここまで様々な非課税のルールを解説してきましたが、大前提として、あなたの会社の通勤手当に関するルールが最も優先されます。
- 「そもそも通勤手当を支給していない」
- 「公共交通機関の定期代しか支給しない」
- 「自転車通勤の場合も一律〇〇円しか出ない」
など、会社のルールは様々です。所得税法上の非課税枠があっても、会社がそのルールを採用していなければ、非課税で受け取ることはできません。
まずはご自身の会社の就業規則や通勤手当規定を確認し、不明な点があれば人事や総務の担当者に相談してみてください。その上で、この記事の非課税ルールを参考に、会社に相談することで、通勤手当の見直しや増額に繋がる可能性もあります。
まとめ:賢く通勤手当を活用して手取りアップを目指しましょう!
通勤手当は、毎日の通勤にかかる費用を会社が負担してくれる、ありがたい制度です。そして、その一部または全部が非課税になることで、私たち従業員の手取りを増やすことにも繋がります。
今回の記事で解説したポイントをまとめると、以下のようになります。
- 車・自転車通勤は距離に応じた非課税限度額がある。
- 公共交通機関は定期代が非課税(上限15万円)。
- 複合通勤は各交通手段の非課税枠を合算できる(上限15万円)。
- 「最も経済的かつ合理的な方法」であることが非課税の条件。
- 労災適用のためにも、通勤方法は会社に正直に申告する。
- 社用車通勤や特殊な交通手段(タクシー、フェリーなど)は、会社のルールと合理性の説明が重要。
- 何よりも会社の通勤手当ルールが前提となることを忘れない。
これらの知識を武器に、ぜひあなたの通勤手当を賢く活用し、日々の生活をより豊かにしてください。
この記事が、皆さんの通勤手当に関する疑問を解消し、税金で損しないための手助けになれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!