【フリーランス・個人事業主】家事按分のベストな割合は?税務調査で否認されない鉄則

確定申告・税務調査

フリーランスや個人事業主として活動する皆さんにとって、「経費」は所得を圧縮し、手元に残るお金を増やすための重要な要素です。しかし、事業の支出の中には、仕事用かプライベート用か、はっきりと区別しにくいものがたくさんありますよね。

「自宅兼オフィスで仕事をしているけど、家賃や電気代はどこまで経費にしていいの?」
「仕事でもプライベートでも使うスマホ代。何割くらい経費にできる?」

このように、事業と私生活が混在する支出(家事関連費)を、合理的な基準で事業用とプライベート用に分ける作業のことを 「家事按分(かじあんぶん)」 と言います。

この家事按分、実は税法で「何割までOK」という明確な答えが定められているわけではありません。だからこそ、多くの人が「一体どのくらいの割合なら大丈夫なんだろう?」と悩み、中には誤った情報に惑わされて、税務調査で思わぬ指摘を受けてしまうケースも少なくありません。

そこでこの記事では、税務調査で否認されないための「家事按分の鉄則」と、品目ごとの「ベストな割合」の考え方について、徹底的に解説していきます。

この記事を最後まで読めば、あなたは自信を持って家事按分を行い、正しく、そして最大限に節税のメリットを享受できるようになるはずです。

1.その家事按分、危険かも?税務調査で狙われるNG事例3選

家事按分は、正しく行えば強力な節税策となりますが、一歩間違えれば税務調査で厳しく指摘されるリスクも伴います。まずは、絶対に避けるべきNG事例を3つ、しっかりと頭に入れておきましょう。

NG事例①:そもそも仕事で使っていない【論外】

これは言うまでもありませんが、全く仕事で使っていないものを経費に計上するのは、家事按分以前の問題で、完全な「架空経費」であり脱税行為です。税務調査官はプロです。支出の内容や事業実態から、その経費が本当に事業に必要なものであったかを鋭く見抜きます。「バレなければいい」という安易な考えは、絶対にやめましょう。

NG事例②:割合の計算根拠が説明できない【要注意】

「なんとなく3割くらいかな」「ネットで5割って書いてあったから…」
このような、明確な計算根拠に基づかない、感覚的な割合設定は非常に危険です。税務調査では、必ず「なぜこの割合にしたのですか?」と質問されます。その時に、論理的かつ客観的な説明ができなければ、「根拠がないなら認められません」と判断され、経費として否認されてしまう可能性が非常に高くなります。

NG事例③:申告書に記載していない【手続き違反】

家事按分を行った場合、その事実を確定申告書(青色申告決算書)に正しく記載する必要があります。例えば、家賃を経費にした場合は、決算書の「地代家賃の内訳」欄に、支払った家賃の総額と、そのうち事業用として経費にしなかった金額(自己否認した金額)を記載します。この記載を怠ると、手続き上の不備として指摘される可能性があります。

2.税務調査も怖くない!家事按分を成功させるための「3つの鉄則」

では、税務調査で指摘されることなく、堂々と経費として認めてもらうためには、どのようなルールを守ればよいのでしょうか。その答えは、先ほどのNG事例を裏返した、以下の「3つの鉄則」に集約されます。

鉄則①:実際に仕事で使っていること

大前提として、その支出があなたの事業にとって必要不可欠であることを明確にする必要があります。事業との関連性が薄いものほど、経費として認められにくくなります。

鉄則②:合理的な計算根拠を準備し、説明できること

これが家事按分の最も重要なポイントです。「なぜその割合になったのか」を、誰が聞いても納得できる客観的な基準(=計算根拠)で説明できるようにしておく必要があります。具体的な計算方法は後述しますが、 「面積」「時間」「日数」 といった物理的な基準を用いるのが基本です。

鉄則③:申告書に正しく記載すること

ルールに則って算出した結果を、確定申告書の所定の欄に正確に記載しましょう。会計ソフトを使っていれば、家事按分の設定を行うことで自動的に反映されることがほとんどです。これにより、「私はルールを理解し、正しく按分計算を行いました」という意思表示になります。

この3つの鉄則を守っていれば、家事按分は決して怖いものではありません。むしろ、あなたの事業を支える正当な権利なのです。

3.【品目別】家事按分のベストな割合はこれだ!

ここからは、具体的な品目ごとに、どのような計算根拠で、どのくらいの割合を設定するのが「ベスト」なのか、考え方をご紹介します。これは絶対的な正解ではありませんが、税務調査で説明しやすい、安全かつ合理的な基準として、ぜひ参考にしてください。

① 自宅兼オフィスの「家賃」と「水道光熱費」

家事按分の中で最もポピュラーで、金額的にも大きいのが、この自宅関連費用です。

家賃の按分で最も合理的で一般的なのは、 「事業で使用しているスペースの面積割合」 を基準にする方法です。

  • 計算式: (事業用スペースの面積 ÷ 自宅全体の面積) × 100 = 事業使用割合(%)

例えば、全体の床面積が60㎡のマンションで、そのうち1部屋(15㎡)を完全に仕事部屋として使用している場合、事業使用割合は「15㎡ ÷ 60㎡ = 25%」となります。

さらに、この面積割合に 「事業で使用している時間の割合」 を掛け合わせることで、より実態に即した、精度の高い按分が可能になります。

  • 計算式: 上記の面積割合 × (1日の事業使用時間 ÷ 24時間) = 最終的な事業使用割合(%)
  • 家賃: 居住スペースと仕事スペースが明確に分かれている場合(例:3LDKのうち1部屋が仕事部屋)は、面積割合で計算するのが最も堅実です。ワンルームのように区別が難しい場合は、面積と時間の両方を考慮して、実態に合わせて20%~50%の範囲で設定するのが一般的です。迷ったら、少し保守的に設定する方が安全でしょう。
  • 電気代: パソコンや照明など、事業に不可欠なため、家賃の事業使用割合と同じ割合で計上するのが合理的です。
  • 水道代・ガス代: 一般的なデスクワークの場合、事業との直接的な関連性を説明するのが難しい品目です。料理研究家や陶芸家など、事業で水を大量に使うといった特殊なケースを除き、経費に計上するのは避けるか、ごく低い割合(例:10%程度)に留めておくのが賢明です。無理に計上して、他の経費まで疑いの目で見られるのは得策ではありません。

【注意】持ち家の住宅ローンは経費になる?持ち家の場合、住宅ローンの元本返済額は経費になりません。しかし、利息部分や、建物の減価償却費固定資産税などは家事按分の対象となります。ただし、 「住宅ローン控除」 を適用している場合、事業用として経費計上した割合分、住宅ローン控除の額が減ってしまうという大きなデメリットがあります。多くの場合、家事按分するよりも住宅ローン控除を満額受けた方が有利になるため、安易に経費計上するのはお勧めしません。

② 「携帯電話代」と「インターネット通信費」

現代のビジネスにおいて、携帯電話とインターネットは生命線とも言えるツールです。

  • 時間基準: 1日のうち、仕事で使っている時間とプライベートで使っている時間の割合で計算します。
  • 日数基準: 1週間のうち、仕事をしている日数(例:平日5日間)と休日(例:土日2日間)の割合で計算します。(例:仕事5日 ÷ 7日 = 約71%)

家賃などと比べて、携帯電話やネットは事業での使用頻度が非常に高い傾向にあります。特に、フリーランスとして独立したての頃は、休日返上で仕事をしていることも多いでしょう。

そのため、ここは少し強気に、実態に合わせて70%~95%程度の高い割合で設定することも十分に可能です。ただし、「プライベートでは一切使っていません」という100%の主張は、税務署に疑念を抱かせる可能性があるため、仕事用とプライベート用で完全に端末や回線を分けていない限りは、少しでもプライベート分を差し引く(自己否認する)のが無難です。

③ 車の「減価償却費」や「ガソリン代」などの車両関連費

地方在住の方や、顧客訪問が多い業種の方にとって、車は重要な事業ツールです。

  • 走行距離基準(最も客観的): 事業で走行した距離と、プライベートで走行した距離を記録し、その割合で按分します。
  • 使用日数基準(簡便的): 「携帯電話代」と同様に、1週間のうち事業で車を使った日数で按分します。

車の按分割合は、その人のライフスタイルや事業内容によって大きく異なります。

  • 東京の都心部在住で、車は主に週末のレジャーにしか使わない場合: 高い割合での経費計上は困難です。
  • 地方在住で、通勤や顧客訪問に毎日車が必須な場合: 週5日稼働なら「5/7(約71%)」といった日数基準で、高い割合を主張できます。

車両関連費(減価償却費、ガソリン代、自動車税、保険料、駐車場代など)は、すべて同じ割合で按分するのが一般的です。項目ごとに割合を変えると、その根拠を説明するのが非常に複雑になるため、お勧めしません。

【注意】不動産オーナーの場合アパート経営などの不動産所得の場合、税務署は「不労所得」という見方をすることが多く、経費の判断が事業所得よりも厳しくなる傾向があります。例えば、管理物件が1つしかないのに、車関連費を全額経費にしていると、「なぜ車が必要なのか」と厳しく追及される可能性があります。注意が必要です。

4.これは経費になる?グレーゾーン品目の判断基準

ここからは、多くの人が判断に迷う「グレーゾーン」の品目について、経費計上の可否を見ていきましょう。

グレーゾーン①:スーツや仕事用の服

原則として経費にするのは非常に困難です。なぜなら、スーツや普段着は、プライベートでも着用可能だからです。税務上の判断基準は「その支出が、売上と直接結びつくか」です。

  • 経費として認められやすいケース:
    • 社名ロゴ入りの制服やユニフォーム
    • 俳優やモデルが撮影のためだけに着る衣装
    • 建設作業員が現場で着る作業着
  • 経費として認められにくいケース:
    • 営業職のスーツ
    • 美容師のおしゃれな私服
    • YouTuberが動画で着ている服

「仕事でしか着ない」という自己申告だけでは、客観的な証明が難しいため、経費計上は慎重になるべきです。

グレーゾーン②:散髪代や美容代、化粧品

これも原則として経費にはなりません。身だしなみを整えることは、社会人としての基本的なマナーであり、事業との直接的な関連性を証明するのが難しいためです。

  • 経費として認められる可能性のある特殊なケース:
    • 俳優やモデルが、役作りや撮影のために行う特殊なヘアメイク
    • 舞台用のドーランや特殊メイク用品

エステ代や一般的な化粧品代は、プライベートな支出と見なされるのが通常です。

グレーゾーン③:カバンや腕時計、財布

これらの品物も、プライベートでの使用が容易に想像できるため、経費計上は極めて困難です。高価なブランド品であればなおさらです。

「この腕時計は、取引先との商談で信頼を得るために必要だ」という主張も、税務署にはなかなか通用しません。税務調査で、経営者が身につけている時計を指さされ、「この消耗品費は何ですか?」と質問されて否認された、という実例もあります。

  • 経費として認められる可能性のあるケース:
    • 出張用のキャリーバッグを事務所に常備し、従業員も共用で使えるようにしている場合
    • 仕事専用のPCケース

これらグレーゾーンの品目を経費にしたいという気持ちは理解できますが、「おしゃれ」と「経費」は分けて考えるのが賢明です。どうしても経費にしたいのであれば、その商品を「視聴者プレゼント」や「顧客への景品」として提供し、 「広告宣伝費」 として計上するという方法がありますが、当然その品物は自分の手元には残りません。

まとめ:家事按分は「客観的な根拠」がすべて

フリーランスや個人事業主にとって、家事按分は節税の基本であり、避けては通れない道です。その成否を分けるのは、たった一つのキーワード、 「客観的な根拠」 です。

  • なぜ、この支出が事業に必要なのか?
  • なぜ、その割合で按分したのか?

この2つの「なぜ」に対して、誰が聞いても「なるほど、それなら合理的ですね」と納得できるストーリーを準備しておくこと。これが、税務調査で慌てることなく、自信を持って自分の申告内容を主張するための唯一の方法です。

感覚や曖昧な基準で按分するのではなく、面積、時間、日数といった物理的な指標に基づいて、あなた自身のルールを確立しましょう。そうすれば、家事按分はもはや悩みの種ではなく、あなたの事業を力強く後押しする、頼れる味方となってくれるはずです。

この記事があなたの経営の一助となれば幸いです。