「個人事業主として順調に売上を伸ばしてきたが、税金の負担が重くなってきた…」
「事業をさらに成長させるために、法人化を検討しているが、具体的にどんなメリットがあるのだろう?」
個人事業主やフリーランスとして活躍される多くの方が、事業の成長とともに直面するのが、このような「法人化(法人成り)」という大きな選択肢です。法人化は、単に税金の計算方法が変わるだけでなく、経費として認められる範囲の拡大、社会的な信用の向上、そして経営戦略の柔軟性など、個人事業主のままでは得られない、多岐にわたるメリットをもたらす可能性があります。
この記事では、個人事業主が法人化することで活用可能になる、節税効果の高い制度や、経営を有利に進めるためのテクニックを「18個のメリット」として厳選し、それぞれの具体的な内容、活用法、注意点について、分かりやすく徹底的に解説していきます。
法人化による税務上のメリット(税負担の最適化)
まず、法人化による最も直接的なメリットである、税負担の軽減に関するポイントを見ていきましょう。
1. 消費税の免税期間の活用可能性
- 概要: 新たに設立された法人(資本金1,000万円未満など、一定の要件あり)は、原則として設立1期目と2期目は消費税の納税が免除されます。
- 戦略的活用法: 個人事業主として開業から2年間、消費税の免税期間を享受した後、3年目(課税事業者になるタイミング)で法人成りすれば、さらに法人として最大2年間、合計で最大4年間の消費税免税期間を確保できる可能性があります。
- メリットの大きさ: 消費税の納税額は、事業規模によっては年間数百万円に及ぶこともあります。この納税が最大4年間免除されるインパクトは非常に大きく、特に事業のスタートアップ期における資金繰りを大きく助けます。
- 注意点: インボイス制度の導入により、免税事業者であっても、取引先との関係上、あえてインボイス発行事業者(=課税事業者)を選択するケースが増えています。この場合、免税メリットは享受できなくなるため、自社の取引環境を考慮した慎重な判断が必要です。
2. 法人税率の上限による高所得者への恩恵
- 税率構造の違い: 個人の所得税は、所得が増えるほど税率が高くなる「超過累進課税制度」であり、最高税率は所得税45%+住民税10%=55%にも達します。一方、法人税等の実効税率は、概ね30%台半ばが上限です。
- メリット: 事業所得が非常に高額になった場合、個人事業主として高率の所得税を納めるよりも、法人として利益を確保し法人税を支払う方が、トータルの税負担を抑えられる可能性があります。
3. 給与所得控除の適用
- 概要: 法人化し、自身に役員報酬を支払うと、その報酬は「給与所得」となります。給与所得者には、収入に応じて自動的に計算される「給与所得控除」という、みなし経費のようなものが適用されます。
- メリット: 個人事業主の青色申告特別控除(最大65万円)と比較して、給与所得控除は収入が多いほど控除額も大きくなるため(上限あり)、同じ所得額であっても、法人化して役員報酬として受け取る方が、課税対象となる所得を低く抑えられる可能性があります。
4. 家族への給与支払いの柔軟性向上(非常勤役員)
- 個人事業主の場合: 家族に給与を支払う「専従者給与」は、その家族が事業に「もっぱら従事」している(仕事がメインである)ことが要件となります。
- 法人の場合: 家族を「非常勤役員」として登記すれば、実際にフルタイムで働いていなくても、社会通念上妥当な範囲内で役員報酬を支払うことができ、それを会社の経費(損金)にできます。
- メリット: 所得を家族に分散させることで、世帯全体での税負担を軽減できます。さらに、非常勤役員は、一定の条件下で社会保険への加入義務がないため、会社側の社会保険料負担も発生しないという大きなメリットがあります。
5. 欠損金(赤字)の繰越期間の延長
- 概要: 事業で赤字(欠損金)が生じた場合、その赤字を翌年度以降の黒字と相殺して税負担を軽減できる制度です。
- 期間の違い: 個人事業主(青色申告)の場合は繰越期間が3年間ですが、法人の場合は10年間(2018年4月1日以降開始事業年度)と大幅に長くなります。
- メリット: 創業期や設備投資後など、一時的に大きな赤字が出た場合でも、将来の利益で十分に相殺できる可能性が高まり、長期的な経営の安定に繋がります。
6. 欠損金の繰戻し還付の適用
- 概要: 当期が赤字で、前期が黒字で法人税を納めていた場合に、当期の赤字を前期の黒字と相殺し、前期に納めた法人税の一部または全部の還付を受けられる制度です。
- メリット: これは法人ならではの制度であり、予期せぬ業績悪化などで急に赤字に転落した場合などに、過去に納めた税金を取り戻し、当面の資金繰りを助けることができます。
法人化による経費計上のメリット(経費範囲の拡大)
法人化すると、個人事業主のままでは経費として認められにくい、あるいは認められない支出も、経費として計上できる可能性が広がります。
7. 出張手当(旅費日当)の非課税活用
- 概要: 「旅費規程」を整備することで、役員や従業員の出張に対して、実費の交通費・宿泊費とは別に、日当を支給できます。
- メリット: この日当は、受け取った側では所得税・住民税がかからず(非課税所得)、支払った法人側では全額経費(損金)として処理できます。 出張が多い経営者にとっては、実質的な手取り収入を非課税で増やすことができる、非常に有効な節税策です。
8. 生命保険料の経費計上
- 概要: 役員や従業員を被保険者とする生命保険に法人契約で加入した場合、保険の種類や契約形態によっては、支払保険料の全額または一部を法人の経費(損金)として処理できる場合があります。
- メリット: 個人の生命保険料控除(上限あり)と比較して、より大きな金額を経費化できる可能性があります。これにより、節税を図りながら、経営者の万が一の際の事業保障資金や、役員退職金の準備ができます。
9. 社宅制度の活用による家賃の経費化
- 概要: 会社が賃貸物件を借り上げ、それを役員や従業員に社宅として貸し出す制度です。
- メリット: 会社が支払う家賃の大部分(一般的に50%~90%程度)を経費(福利厚生費など)として処理できます。経営者自身が利用すれば、個人で家賃を全額負担する場合と比較して、住居費負担を大幅に軽減しつつ、会社の節税にも繋がります。これは、個人事業主の家事按分よりも有利になるケースが多いです。
10. 持ち家を法人に貸し出すことによる家賃収入
- 概要: 持ち家で仕事をしている場合、その事務所部分を個人から法人へ貸し出すという形を取り、法人が個人(社長)に対して家賃を支払うことができます。
- メリット: 会社側は支払家賃を経費にでき、社長個人は役員報酬とは別に収入を得ることができます。この家賃収入(不動産所得)は、社会保険料の算定基礎に含まれないため、間接的な社会保険料の節約に繋がる場合もあります。
11. 家事関連費の経費計上の明確化
- 個人事業主の場合: 携帯電話代や車両費など、プライベートと事業で兼用する費用(家事関連費)は、事業使用割合を合理的に計算して按分(家事按分)する必要があり、100%の経費計上は税務調査で否認されるリスクがあります。
- 法人の場合: 法人契約の携帯電話や、法人名義の社用車などは、会社の資産・費用として扱われるため、多少の私的利用があったとしても、原則として全額を経費として処理することが実務上認められやすい傾向にあります。公私混同の線引きが、個人事業主よりも明確にしやすくなります。
12. 一人での食事代も経費にできる可能性
- 個人事業主の場合: 一人での食事代は、たとえ出張先であっても、原則として経費にはなりません。
- 法人の場合: 法人の役員や従業員は、常に会社の業務を遂行する立場にあると解釈されるため、出張先での一人での食事代なども、旅費交通費(日当)や会議費の一部として経費計上できる余地が生まれます。
13. 福利厚生費の活用範囲の拡大
- スポーツジムの法人契約: 社員が誰でも利用できるという条件でスポーツジムと法人契約を結べば、その会費を福利厚生費として経費計上できます。
- 健康診断・人間ドック: 個人事業主本人の健康診断費用は経費になりませんが、法人の場合は、役員・従業員の健康診断費用や、社会通念上妥当な範囲内での人間ドック費用を福利厚生費として経費にできます。
- 慶弔見舞金: 役員や従業員本人、またはその家族に対する結婚祝金、出産祝金、傷病見舞金、香典などを、社内規程に基づいて支給すれば、福利厚生費として経費計上できます。
法人化による経営戦略上のメリット
税金や経費だけでなく、事業運営そのものにおいても、法人化は多くのメリットをもたらします。
14. 退職金制度の活用
- 概要: 個人事業主には退職金という概念は基本的にありません(小規模企業共済などを除く)。しかし、法人の場合は、役員が退任する際に、法人から役員退職金を支給することができます。
- メリット:
- 法人側: 適正な金額の役員退職金は、全額損金となり、大きな節税効果があります。
- 個人側: 受け取った退職金は「退職所得」として、給与所得よりも税制上大幅に優遇されており、税負担が非常に軽くなります。
- 経営者の勇退時の生活資金確保や、事業承継・相続対策としても極めて有効です。
15. 企業型確定拠出年金(企業型DC)などの活用
- 概要: 役員報酬の一部を、給与としてではなく、会社からの掛金として年金資産に積み立てる制度です。
- メリット: この掛金部分は、役員個人の給与所得とは見なされないため、所得税・住民税だけでなく、社会保険料もかかりません。 会社の損金にもなるため、節税しながら効率的に将来の資産形成ができます。これは、厚生年金に加入する法人でなければ利用できない制度です。
16. 決算期の自由な設定
- 概要: 個人事業主の決算期は12月で固定ですが、法人は自由に決算月を設定できます。
- メリット:
- 自社の繁忙期を避けて決算期を設定することで、決算業務に集中できます。
- 利益が大きく出そうな場合に、決算期を前倒しすることで、翌期に役員報酬を増額するなどの節税対策を講じる時間を稼ぐことができます。
17. 社会的信用力の向上
- 概要: 一般的に、個人事業主よりも法人(特に株式会社)の方が、社会的信用度が高いと見なされます。
- メリット:
- 取引の拡大: 大企業との取引や、新規取引先の開拓が有利に進む場合があります。
- 人材採用: 優秀な人材を確保しやすくなります。
- 許認可の取得: 事業によっては、法人格が許認可取得の要件となる場合があります。
18. 資金調達(融資)の円滑化
- 概要: 法人の方が、個人事業主よりも金融機関からの融資を受けやすい傾向にあります。
- メリット:
- 決算書の信頼性が高いと見なされることや、事業の継続性が期待されることなどが理由です。
- 事業拡大や設備投資のための資金調達がスムーズになり、成長の機会を掴みやすくなります。
結論:法人化は、事業を次のステージへ引き上げるための戦略的選択!
個人事業主が法人化することは、単に「節税のため」という一面的な話ではありません。それは、
- 税負担を最適化し、手元に残るキャッシュを最大化する
- 経費として認められる範囲を広げ、事業活動を円滑にする
- 退職金や企業年金制度を活用し、経営者の将来への安心を確保する
- 社会的信用力を高め、ビジネスチャンスを拡大する
- 資金調達能力を強化し、事業成長を加速させる
といった、多岐にわたるメリットを享受し、事業を新たなステージへと引き上げるための、極めて戦略的な経営判断なのです。
もちろん、法人化には、設立・維持コストの発生や、社会保険料負担の増加、事務作業の煩雑化といったデメリットも存在します。これらのメリットとデメリットを天秤にかけ、自社の所得水準、事業内容、そして将来のビジョンと照らし合わせて、最適なタイミングで法人化を検討することが重要です。
一般的に、事業所得が500万円~800万円を超えてきたあたりが、税務上のメリットだけでも法人化を検討する価値が出てくる一つの目安と言えるでしょう。しかし、それ以下の所得であっても、社会的信用力や資金調達の必要性が高い事業であれば、早期の法人化が有効な場合もあります。
もし、あなたが法人化について少しでも関心を持っているのであれば、ぜひ一度、信頼できる税理士に相談し、自社の状況に合わせた具体的なシミュレーションとアドバイスを受けてみてください。その一歩が、あなたの事業の未来を大きく切り拓くことになるかもしれません。