会社経営や個人事業を運営していると、税金、社会保険、経費、資産運用など、日々様々な疑問や悩みに直面します。「この制度、どう活用すれば良いのだろう?」「この処理方法は正しいのだろうか?」といった問いは、尽きることがありません。
専門書を読んでも難しく、インターネットで調べても情報が断片的で、なかなか腑に落ちる答えが見つからない、と感じている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、実際に多くの経営者や個人事業主、そして会社員の方々から寄せられる、よくある質問とその回答をQ&A形式でまとめ、それぞれのテーマについて専門家の視点から分かりやすく徹底的に解説していきます。あなたの「?」を「!」に変え、より賢明な事業運営と資産形成を実現するための一助となれば幸いです。
- Q1. 「小規模企業共済」に加入したいのですが、どこで申し込むのが良いですか?お世話になっている税理士や銀行にメリットがある形で申し込みたいです。
- Q2. 会社の役員報酬は、その役員が生み出した利益の何パーセントくらいが適切ですか?
- Q3. 会社員として働きながら、副業で個人事業を行っています。この場合も「小規模企業共済」に加入できますか?
- Q4. 生命保険の満期金などを受け取った際の「一時所得」の税金計算に、住民税は含まれますか?
- Q5. 事業承継税制(特例措置)の計画書提出期限が迫っています。制度のポイントを教えてください。
- Q6. 昨年、動画制作の仕事を始めるために高額なパソコンを購入しましたが、まだ事業として成立していません。このパソコンの減価償却はいつから申告すれば良いですか?
- Q7. 銀行融資の返済は、会社の経費になりますか?
- Q8. 国はなぜ、所得税が非課税になる「NISA」を推進するのでしょうか?国の税収が減るだけではないのですか?
- まとめ:尽きない経営の疑問。正しい知識と専門家との連携で、未来を切り拓く
Q1. 「小規模企業共済」に加入したいのですが、どこで申し込むのが良いですか?お世話になっている税理士や銀行にメリットがある形で申し込みたいです。
A. 申し込み窓口は、主に金融機関(銀行、信用金庫など)や商工会議所などになります。税理士にメリットがある形で、とのお心遣いは素晴らしいですが、税理士によっては特定の団体に所属していないと紹介制度の対象とならない場合があるため、まずは顧問税理士に直接相談してみるのが良いでしょう。
小規模企業共済は、掛金が全額所得控除になるなど、経営者にとって非常にメリットの大きい制度です。その申し込み窓口と、紹介制度について解説します。
- 主な申込窓口:
- 取引のある金融機関(銀行、信用金庫、信用組合など)
- 商工会議所、商工会、中小企業団体中央会
- 事業内容に応じた協同組合、青色申告会など
- 専門家へのメリットについて:
- 一部の税理士団体(例:TKC全国会など)に所属している税理士の場合、その税理士を経由して申し込むことで、税理士に紹介手数料が入る仕組みが存在することがあります。
- しかし、全ての税理士がこの制度の対象となっているわけではありません。
- 結論として、どうすれば良いか?
- まずは、顧問税理士に「小規模企業共済に加入したいのですが、先生経由で申し込む方法はありますか?」と直接尋ねてみるのが最もスマートです。もし紹介制度があれば、税理士が手続きを案内してくれます。
- もし税理士が紹介制度の対象外であったり、特段の案内がなかったりした場合は、ご自身が取引しやすい金融機関や、地域の商工会議所などで手続きを進めて問題ありません。手続き内容や制度のメリットは、どの窓口で申し込んでも全く同じです。
Q2. 会社の役員報酬は、その役員が生み出した利益の何パーセントくらいが適切ですか?
A. 役員報酬は、単に「生み出した利益」に対する対価だけでなく、「経営責任」に対する対価も含まれるため、一概に利益の何パーセントと決めるのは難しいです。社員とは報酬の考え方が根本的に異なります。
従業員の給与であれば、「生み出した粗利益の1/3程度」といった指標がありますが、役員報酬はより複雑な要素を考慮する必要があります。
- 役員と社員の責任の違い:
- 社員の報酬は、主に労働の対価として支払われます。
- 役員の報酬は、労働の対価に加え、会社全体の業績に対する経営責任、意思決定のリスク、万が一の場合の個人的な保証責任など、より重い責任を負っていることへの対価も含まれます。
- 役員報酬の決定方法:
- 役員報酬は、利益に連動する業績連動給与というよりは、**「年俸制」**に近い考え方で、その役員の役職、職務内容、責任の度合いなどを総合的に勘案して、固定額(定期同額給与)として決定されるのが一般的です。
- 「あなたの年間の報酬は〇〇円です。その対価として、これだけの責任を果たしてください」という契約に近い形です。
- 役員と社員の報酬格差:
上記のような責任の重さの違いから、同じ会社内であっても、役員と一般社員の報酬には、相応の差があって然るべきというのが基本的な考え方です。役員が社員よりも高いリスクを負っている以上、その報酬も高く設定されるのが合理的と言えます。
Q3. 会社員として働きながら、副業で個人事業を行っています。この場合も「小規模企業共済」に加入できますか?
A. いいえ、会社員として社会保険(厚生年金・健康保険)に加入している方は、原則として小規模企業共済には加入できません。
小規模企業共済は、主に会社員のような被用者保険の対象とならない、個人事業主や小規模企業の経営者を対象とした制度です。
- 加入資格の基本:
加入資格の判定は、「雇用されているかどうか」が大きなポイントとなります。会社員として雇用契約を結び、社会保険に加入している場合、たとえ副業で個人事業を行っていても、小規模企業共済の加入対象とはなりません。 - 加入タイミングの重要性:
- もし、将来的に独立を考えているのであれば、会社を退職し、雇用されていない状態になってから加入手続きを行う必要があります。
- 逆に、個人事業主として小規模企業共済に加入した後に、別の会社に就職し会社員となった場合は、共済契約を解約する必要はなく、そのまま掛金を払い続けることができます。
- 結論:
「会社員」と「小規模企業共済の加入者」というステータスを、同時に新たに得ることはできない、と理解しておくのが良いでしょう。
Q4. 生命保険の満期金などを受け取った際の「一時所得」の税金計算に、住民税は含まれますか?
A. はい、その通りです。一時所得に対しても、所得税だけでなく、住民税も課税されます。
税金の計算において、所得税と住民税は常にセットで考える必要があります。
- 住民税の仕組み:
住民税は、前年の所得を基に計算され、その年の6月から翌年5月にかけて納税します。課税の対象となる所得の種類は、原則として所得税と同じです。 - 所得税と住民税はセット:
したがって、所得税の課税対象となる所得(給与所得、事業所得、一時所得など)には、原則として**住民税(税率約10%)**も課税されます。 - 税金の議論での注意点:
税金に関する議論や解説で、単に「所得税」とだけ言及されている場合でも、多くの場合、その背景には住民税の存在も含まれています。自身の税負担を考える際には、必ず所得税と住民税を合わせたトータルで捉えることが重要です。
Q5. 事業承継税制(特例措置)の計画書提出期限が迫っています。制度のポイントを教えてください。
A. 特例事業承継税制の「特例承継計画」の提出期限は、令和8年(2026年)3月31日まで延長されています。この制度は、後継者が非上場株式等を贈与または相続で引き継ぐ際の、贈与税・相続税の納税を100%猶予(最終的には免除される可能性あり)する、非常に強力な制度です。
この制度は非常に複雑ですが、中小企業の円滑な事業承継を支援するための切り札とも言える制度です。
- 制度の概要:
後継者である受贈者・相続人が、都道府県知事の認定のもと、先代経営者から非上場株式等を贈与または相続により取得した場合、その株式等に係る贈与税・相続税の全額の納税が猶予されます。 - 納税免除の要件:
その後、後継者が死亡した場合など、一定の要件を満たすと、猶予されていた税額の納付が免除されます。つまり、実質的に税負担ゼロで事業を引き継げる可能性があるのです。 - 活用のための第一歩:「特例承継計画」の提出:
この特例措置の適用を受けるためには、まず**「特例承継計画」**を策定し、認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けた上で、都道府県に提出し、確認を受ける必要があります。この計画書の提出期限が、令和8年(2026年)3月31日となっています。 - 注意点:
適用要件や、認定後の事業継続要件、報告義務などが非常に厳格に定められています。計画の提出自体が、即座に税制の適用を約束するものではありませんが、将来的にこの制度を活用する可能性を残しておくためには、期限までに計画書を提出しておくことが不可欠です。事業承継を検討している経営者は、必ず税理士などの専門家と相談し、早期に準備を進めるべきです。
Q6. 昨年、動画制作の仕事を始めるために高額なパソコンを購入しましたが、まだ事業として成立していません。このパソコンの減価償却はいつから申告すれば良いですか?
A. 売上が発生し、事業を開始した年(開業届を提出した年)の経費として、減価償却を開始するのが一般的です。事業開始前の支出は、「開業費」として処理できます。
事業を開始する前の準備期間にかかった費用は、経費として認められないと思われがちですが、これは誤解です。
- 開業前の経費の取り扱い:「開業費」
- 事業を開始するために、開業前に特別に支出した費用(市場調査費、研修費、打ち合わせの交通費、そして今回のパソコン購入費など)は、**「開業費」**という勘定科目で処理することができます。
- 開業費のメリット(任意償却):
- 開業費は、会計上「繰延資産」として扱われ、その最大のメリットは**「好きなタイミングで、好きな金額だけ経費として償却できる」**点にあります。
- つまり、事業を開始した初年度に全額を経費にしても良いですし、利益が出た3年目にまとめて経費にするといった、柔軟な利益コントロールと節税が可能です。
- 今回のケースでの推奨される対応:
- まずは、実際に動画制作の仕事で売上が発生したタイミングで、税務署に「開業届」を提出します。
- その最初の確定申告(青色申告を推奨)の際に、昨年購入したパソコンを開業費の一部(あるいは固定資産)として計上し、そこから減価償却を開始します。
- パソコン以外の準備費用も、領収書などを基に開業費としてまとめて計上しましょう。
結論として、実際に事業を開始するまでは、急いで確定申告をする必要はありません。 開業前の支出に関する領収書は全て保管しておき、事業開始後の最初の確定申告でまとめて経費化(または資産計上)するのが、最も合理的で有利な方法です。
Q7. 銀行融資の返済は、会社の経費になりますか?
A. いいえ、借入金の「元本」の返済は、経費にはなりません。経費になるのは「利息」の部分だけです。
これは、会計の基本でありながら、多くの方が混同しやすいポイントです。
- なぜ元本返済は経費にならないのか?
- お金を借りるという行為は、会社の資産(現金)が増えると同時に、負債(借入金)も同額増えるため、会社の利益には影響しません。
- 同様に、借りたお金(元本)を返すという行為は、会社の資産(現金)が減ると同時に、負債(借入金)も同額減るため、これもまた会社の利益には影響しないのです。
- あくまでも、「借りたものを返しているだけ」であり、事業活動のための費用支出とは性質が異なります。
- 経費になるのは「利息」:
借入金の返済時に支払う「利息」は、資金を借りるためのコスト(金融費用)と見なされるため、こちらは経費(支払利息)として計上できます。
「融資の返済をしながら、所得税も払うのは大変」というご質問者のお気持ちは非常によく分かります。だからこそ、返済負担を考慮した上で、適切な利益計画と資金繰り計画を立てることが、経営者には求められるのです。
Q8. 国はなぜ、所得税が非課税になる「NISA」を推進するのでしょうか?国の税収が減るだけではないのですか?
A. これは、短期的な税収減を覚悟の上で、より大きな長期的・多面的な目的を達成しようとする、国の高度な経済政策と言えます。
一見、矛盾しているように見えるこの政策には、いくつかの思惑が絡み合っています。
- 「貯蓄から投資へ」の流れを加速させ、経済を活性化させる:
- 日本は、個人金融資産の半分以上が現金・預金で眠っている「貯蓄大国」です。この眠っているお金を、NISAを通じて株式市場などに投資させることで、企業に成長資金が供給され、設備投資やイノベーションが促進され、経済全体が活性化することを期待しています。
- 国民の自助努力による老後資産形成の促進:
- 少子高齢化が進み、公的年金制度の持続可能性が危ぶまれる中で、国は「年金だけに頼らず、自分たちで老後資金を準備してほしい」という強いメッセージを発しています。NISAは、そのための強力なツールとして位置づけられています。税金を非課税にするという「アメ」を与えることで、国民の自助努力を促しているのです。
- 株価上昇による資産効果と景気刺激:
- NISAによる個人投資家の資金流入は、株価を押し上げる一因となります。株価が上昇すれば、資産を保有する人々の消費意欲が高まり(資産効果)、景気を刺激する効果が期待できます。
- 国際的な競争力と、ある種の「忖度」?
- 皮肉なことに、日本の個人投資家がNISAで選ぶ投資先の多くは、日本株ではなく、米国株(S&P500など)や全世界株式(オール・カントリー)です。
- これは、結果として**「日本国民のお金で、米国の企業を成長させている」**という側面も持っています。
- なぜ国がこのような状況を許容しているのかについては、様々な推測がありますが、世界経済における米国の影響力や、日米間の政治・経済的な関係性も、無関係ではないのかもしれません。
このように、NISAの推進は、単なる税収の問題だけでなく、国民の資産形成、経済活性化、そして国際関係までをも見据えた、複合的な政策なのです。
まとめ:尽きない経営の疑問。正しい知識と専門家との連携で、未来を切り拓く
会社経営や事業運営は、常に新たな疑問や課題との戦いです。今回取り上げたQ&Aは、そのほんの一部に過ぎません。
重要なのは、
- 疑問を放置しないこと:「よく分からないまま」にしていることが、将来の大きなリスクに繋がる可能性があります。
- 正しい情報を得ようと努力すること: 断片的な情報や噂に惑わされず、制度の趣旨や背景を理解しようとする姿勢が大切です。
- 専門家を賢く活用すること: 税務、労務、法務など、自らの専門外の分野については、信頼できる専門家のアドバイスを積極的に求め、パートナーとして連携していくことが、成功への近道です。
特に、税理士は、単に申告書を作成するだけの存在ではありません。あなたの会社や事業に関するあらゆる疑問に答え、リスクを回避し、成長をサポートしてくれる、最も身近な相談相手となり得る存在です。
この記事が、皆様が抱える経営上の疑問を解消し、より確かな一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。