【経営者・個人事業主の疑問に答える】税金のプロが徹底解説!厚生年金、副業、税理士選びから、報酬設計、脱税リスクまでQ&A大全

節税・経費

会社経営や個人事業を運営していると、税金、社会保険、経費の取り扱いなど、日々様々な疑問や悩みに直面します。「この処理方法は正しいのだろうか?」「もっと有利な方法はないのだろうか?」といった問いは、尽きることがありません。

この記事では、実際に多くの経営者や個人事業主の方々から寄せられる、よくある質問とその回答をQ&A形式でまとめ、それぞれのテーマについて専門家の視点から分かりやすく徹底的に解説していきます。

厚生年金の仕組み、副業の確定申告、信頼できる税理士の選び方、役員報酬の最適な設計、そして脱税と見なされる危険な行為まで、あなたの疑問を解消し、より健全で有利な事業運営を実現するためのヒントが満載です。


  1. Q1. 厚生年金の「ねんきん定期便」に、会社負担分が記載されていません。将来もらえる年金は、自己負担分だけなのでしょうか?
  2. Q2. 会社員ですが、休日に野菜などを直売所で販売しています。この売上から経費を引いた利益が年間20万円以内なら、確定申告は不要ですか?また、会社に報告する必要はありますか?
  3. Q3. 税理士選びで失敗したくありません。最初の面談の際に、税務調査での対応方針などを具体的に質問しても良いものでしょうか?
  4. Q4. 毎月の役員報酬を下げ、その分を決算賞与で支払うと、法人税が多くなるのではないですか?
  5. Q5. 就職先の企業から「給与の一部を業務委託費として支払う」と言われました。節税になるとのことですが、問題はないのでしょうか?
  6. Q6. 法人税の実効税率は、利益に関わらず一律で約33%ではないのですか?
  7. Q7. 海外出張が多く、ホテルのポイントを購入したいのですが、経費になりますか?
  8. Q8. ビットコインなどの暗号資産は、保有しているだけで毎年税金がかかるのですか?
  9. Q9. 65歳で、iDeCo(800万円)と会社の退職金(1,500万円)を同時に受け取る場合、退職所得控除はどうなりますか?
  10. Q10. 退職した会社から、給与明細や源泉徴収票が送られてきません。どうすれば良いでしょうか?
  11. まとめ:税務・労務の疑問は放置しない!正しい知識と専門家への相談が、あなたと会社を守る

Q1. 厚生年金の「ねんきん定期便」に、会社負担分が記載されていません。将来もらえる年金は、自己負担分だけなのでしょうか?

A. いいえ、将来の年金額には会社負担分も反映されます。「ねんきん定期便」は、あくまで納付実績の通知であり、給付額の計算根拠を全て示しているわけではありません。

これは、多くの方が抱く素朴な疑問であり、年金制度への不信感にも繋がりやすいポイントです。まず、日本の公的年金制度の基本的な仕組みを理解することが重要です。

  • 賦課方式という仕組み:
    日本の公的年金は、「賦課方式」で運営されています。これは、現役世代が支払った保険料を、その時々の高齢者世代の年金給付に充てるという、世代間の支え合いの仕組みです。したがって、「自分が支払った保険料が、そのまま積み立てられて将来自分に返ってくる」という積立方式とは根本的に異なります。「元が取れるか」という議論自体が、制度の趣旨とは少し異なるのです。
  • 「ねんきん定期便」の役割:
    ねんきん定期便に記載されているのは、あくまで「あなたがこれまでに納付した保険料の実績」です。将来の年金受給額は、この納付実績(納付月数や、厚生年金の場合は標準報酬月額)を基に、その時点の法律や社会情勢に応じて計算されます。
  • 会社負担分の意義:
    厚生年金保険料は、従業員(被保険者)と会社が折半で負担します。会社が負担してくれている分も、あなたの年金受給権を構成する重要な要素であり、将来の年金額の計算には、当然ながらこの会社負担分も反映されています。国民年金のみに加入している人と比較して、厚生年金加入者の将来の年金額が多くなるのは、この会社負担分のおかげでもあるのです。

結論として、ねんきん定期便に会社負担分が記載されていなくても、心配する必要はありません。 あなたの将来の年金額は、あなた自身が納めた保険料と、会社があなたのために納めてくれた保険料の両方を基礎として計算されます。


Q2. 会社員ですが、休日に野菜などを直売所で販売しています。この売上から経費を引いた利益が年間20万円以内なら、確定申告は不要ですか?また、会社に報告する必要はありますか?

A. はい、給与所得以外の所得(副業の所得)の合計が年間20万円以下であれば、原則として確定申告は不要です。また、会社に報告する義務も基本的にはありません。ただし、住民税の申告は別途必要です。

これは、副業を行う会社員にとって非常に重要なポイントです。

  • 所得税のルール(20万円ルール):
    給与を1か所から受けていて、給与所得及び退職所得以外の各種の所得金額の合計額が20万円を超える場合には、確定申告をする必要があります。逆に、20万円以下であれば、所得税の確定申告は不要です。今回のケースでは、野菜販売による利益が20万円以内であれば、確定申告はしなくても良いということになります。
  • 住民税の申告義務:
    注意が必要なのは、この「20万円ルール」は所得税の話であり、住民税には適用されないという点です。所得が少しでもあれば、原則として市区町村へ住民税の申告を行う義務があります。確定申告を行えば、そのデータが市区町村に連携されるため別途の申告は不要ですが、確定申告をしない場合は、自身で住民税の申告手続きを行う必要があります。
  • 会社への報告義務:
    税法上、副業の所得について会社に報告する義務はありません。税務署に申告するのは、あくまで個人と税務署との間の手続きです。
    ただし、会社の就業規則で副業が禁止されていたり、事前の許可が必要だったりする場合があります。税務上の問題とは別に、会社のルールを確認し、遵守することが重要です。

Q3. 税理士選びで失敗したくありません。最初の面談の際に、税務調査での対応方針などを具体的に質問しても良いものでしょうか?

A. はい、全く問題ありません。むしろ、積極的に質問すべきです。その際の税理士の回答は、その専門性や経営者への姿勢を見極めるための、非常に重要な判断材料となります。

税理士選びは、会社の未来を左右する重要な経営判断です。単に料金の安さや知名度で選ぶのではなく、自社のパートナーとしてふさわしいか、多角的に見極める必要があります。

最初の面談で確認・質問すべきポイントの例

  • 税務調査へのスタンスと実績:
    • 「もし弊社が税務調査の対象になった場合、先生はどのような方針で対応されますか?」
    • 「過去の税務調査で、納税者の権利を守るために、調査官と具体的にどのような交渉をされた経験がありますか?」
    • 「先生の事務所の、税務調査における申告是認率(指摘事項なしで終了する確率)はどの程度ですか?」
  • 節税に対する考え方:
    • 「弊社のような業種・規模の会社に対して、どのような節税策をご提案いただけますか?」
    • 「節税策を提案される際に、そのメリットだけでなく、潜在的な税務リスクについても説明していただけますか?」
  • 経営サポートへの関与度:
    • 「月次決算は、どのくらいのスピードで提供していただけますか?」
    • 「試算表や決算書を基に、具体的な経営改善や資金繰りに関するアドバイスをいただくことは可能ですか?」
    • 「銀行融資の相談にも乗っていただけますか?」

これらの質問に対する回答の具体性、論理的整合性、そして何よりも経営者の立場に立って親身に考えてくれる姿勢があるかどうかを、しっかりと見極めましょう。良い税理士は、これらの質問を歓迎し、誠実に答えてくれるはずです。


Q4. 毎月の役員報酬を下げ、その分を決算賞与で支払うと、法人税が多くなるのではないですか?

A. いいえ、役員報酬を減らした分と、同額の役員賞与を支払うのであれば、トータルの経費(損金)額は変わらないため、法人税額も基本的には変わりません。

この質問は、「役員報酬の損金算入」と「役員賞与の損金算入」のルールを正しく理解することで解決します。

  • 役員報酬(定期同額給与): 毎月同額で支払われる役員報酬は、原則として全額が法人の経費(損金)となります。
  • 役員賞与(事前確定届出給与): 役員賞与も、「事前確定届出給与」という制度を利用し、事前に税務署に届出を行うことで、全額を法人の経費(損金)として計上することが可能です。

したがって、

  • 【パターンA】役員報酬100万円/月 × 12ヶ月 = 年間経費1,200万円
  • 【パターンB】役員報酬10万円/月 × 12ヶ月 + 役員賞与1,080万円 = 年間経費1,200万円

となり、年間で会社が経費として計上できる金額は、どちらのパターンでも同じです。そのため、この報酬設計の変更自体が、直接的に法人税を増加させることはありません。

むしろ、このスキームの主目的は、法人税ではなく「社会保険料」の削減にあります。賞与にかかる社会保険料には上限があるため、高額な報酬を賞与でまとめて支払うことで、年間の社会保険料負担(個人・会社双方)を大幅に削減できる可能性があるのです。


Q5. 就職先の企業から「給与の一部を業務委託費として支払う」と言われました。節税になるとのことですが、問題はないのでしょうか?

A. これは極めて問題が大きく、違法性の高い行為(脱税、脱法行為)と見なされる可能性が非常に高いです。絶対に応じてはいけません。

この手口は、会社が社会保険料負担や、消費税負担(インボイス制度導入後も一部残存)、労働法規の遵守義務を不当に免れるために行われる、典型的な「偽装請負(偽装委託)」です。

  • 何が問題なのか?
    • 実態は「雇用」: 従業員として会社の指揮命令下で働き、労働時間も管理されているにもかかわらず、契約形態だけを「業務委託」とするのは、労働実態と契約内容が著しく乖離しています。
    • 会社側のメリット(脱法行為):
      • 社会保険料負担の回避: 業務委託費には、社会保険料の会社負担分がかかりません。
      • 消費税の不正な仕入税額控除: 業務委託費を課税仕入れとして計上し、消費税の納税額を不当に圧縮しようとします(脱税)。
      • 労働法規の潜脱: 残業代の支払い義務や、有給休暇の付与、解雇規制といった、労働者を守るための法律の適用を免れようとします。
    • 働く側のデメリット:
      • 社会保険の被保険者となれず、将来の年金や健康保険の給付が手薄になる。
      • 労働者としての権利が一切保護されない。
      • 自身で確定申告を行う手間と、経費が少ない場合は税負担が増えるリスクがある。
  • 税理士が関与している場合:
    もし、税理士がこのスキームを主導・助言しているとすれば、それは税理士の職業倫理に著しく反する行為であり、「脱税幇助」として懲戒処分や刑事罰の対象となる可能性すらあります。

結論として、このような提案をしてくる企業は、コンプライアンス意識が極めて低い危険な会社である可能性が高いです。入社を再考することをお勧めします。


Q6. 法人税の実効税率は、利益に関わらず一律で約33%ではないのですか?

A. いいえ、中小企業の場合、課税所得800万円を境に税率が変わる2段階構造になっています。

これは、法人税の仕組みにおける重要なポイントです。

  • 中小企業の軽減税率:
    資本金1億円以下の中小企業などには、法人税の軽減税率が適用されます。これにより、
    • 課税所得800万円以下の部分: 実効税率は約23%程度
    • 課税所得800万円超の部分: 実効税率は約33%程度
      となります。
  • 計算例(課税所得1,040万円の場合):
    • 800万円までの部分:800万円 × 約23% = 約184万円
    • 800万円超の部分:(1,040万円 – 800万円) × 約33% = 240万円 × 約33% = 約79万円
    • 合計税額:約184万円 + 約79万円 = 約263万円
    • (1,040万円全体に33%を掛けるわけではありません。)

この税率構造を理解することで、利益を800万円にコントロールすることの節税効果や、繰り延べ戦略の重要性が見えてきます。


Q7. 海外出張が多く、ホテルのポイントを購入したいのですが、経費になりますか?

A. ポイントを購入した時点では経費にならず、「貯蔵品」などの資産として計上します。そして、そのポイントを実際に宿泊などで使用した時に、経費として処理することになります。

これは、プリペイドカードや交通系ICカードへのチャージと同じ考え方です。

  • 購入時の処理: ポイント購入は、現金を「ポイント」という将来使える権利(資産)に交換しただけなので、費用は発生しません。
    • (仕訳例) (借方)貯蔵品 XXX円 / (貸方)現金預金 XXX円
  • 使用時の処理: ポイントを使ってホテルに宿泊するなど、実際に事業のためのサービスを受けた時点で、その分の金額を経費(旅費交通費など)に振り替えます。
    • (仕訳例) (借方)旅費交通費 YYY円 / (貸方)貯蔵品 YYY円

したがって、事業目的の出張のためにポイントを利用するのであれば、その利用分は問題なく経費として認められます。


Q8. ビットコインなどの暗号資産は、保有しているだけで毎年税金がかかるのですか?

A. 法人か個人かによって、取り扱いが大きく異なります。

  • 法人が保有する場合:
    • 原則として、期末時点の時価で評価し、帳簿価額との差額(評価損益)をその期の利益または損失として計上する必要があります。
    • つまり、含み益が出ている場合は、実際に売却(現金化)していなくても、その利益に対して法人税が課税されます。 毎年、評価替えによる納税義務が生じる可能性があるのです。
    • (※令和6年度税制改正により、法人が継続的に保有する一部の暗号資産については、期末時価評価の対象外とする措置が講じられました。適用には一定の要件があります。)
  • 個人が保有する場合:
    • 保有しているだけでは、含み益に対して課税されることはありません。
    • 売却して利益が確定した時、または他の暗号資産と交換した時、あるいは商品・サービスの決済に使用した時に、その利益(雑所得など)が課税対象となります。

この違いは非常に大きいため、法人で暗号資産を保有する際は、期末の時価評価による納税リスクを十分に理解しておく必要があります。


Q9. 65歳で、iDeCo(800万円)と会社の退職金(1,500万円)を同時に受け取る場合、退職所得控除はどうなりますか?

A. はい、同じ年に受け取る場合、iDeCoの一時金と会社の退職金は合算され、合計額(2,300万円)に対して退職所得控除が適用されます。

  • 退職所得の合算:
    同一年に複数の退職手当等を受け取る場合、それらを合算した金額をその年の退職所得の収入金額とします。
  • 退職所得控除の計算:
    退職所得控除額は、最も早く支払われた退職手当等の勤続期間を基に計算します。
  • 注意点:分散受給の検討
    退職所得は、金額が大きくなるほど、適用される所得税率も高くなる可能性があります(分離課税ですが、累進税率は適用されます)。
    そのため、可能であれば、受け取る年をずらす(例えば、一方は65歳、もう一方は66歳で受け取るなど)ことで、それぞれの年に退職所得控除が適用され、低い税率が適用される結果、トータルの税負担を軽減できる可能性があります。
    ただし、iDeCoの受給開始時期や会社の退職金規程なども関わるため、専門家と相談の上、最適な受給方法をシミュレーションすることが重要です。

Q10. 退職した会社から、給与明細や源泉徴収票が送られてきません。どうすれば良いでしょうか?

A. これは、会社側の法令違反にあたる可能性が高いです。まずは会社に再度請求し、それでも対応がない場合は、労働基準監督署や税務署に相談することを検討しましょう。

  • 給与明細の交付義務: 会社は、従業員に給与を支払う際に、計算の基礎となる事項などを記載した明細書を交付する義務があります(所得税法)。
  • 源泉徴収票の交付義務: 会社は、退職者に対して、退職後1ヶ月以内に源泉徴収票を交付する義務があります(所得税法)。
  • 対応策:
    1. 内容証明郵便での請求: まずは、会社に対して、書面(内容証明郵便が望ましい)で、給与明細及び源泉徴収票の交付を正式に請求します。
    2. 労働基準監督署への相談: 給与明細の未交付は、労働基準法違反にも関連する可能性があるため、労働基準監督署に相談し、会社への指導を依頼することができます。
    3. 税務署への相談(源泉徴収票不交付の届出): 源泉徴収票が交付されない場合、税務署に「源泉徴収票不交付の届出書」を提出することができます。これにより、税務署から会社に対して指導が入ることがあります。

泣き寝入りせず、公的な機関に相談し、自身の権利を主張することが大切です。

まとめ:税務・労務の疑問は放置しない!正しい知識と専門家への相談が、あなたと会社を守る

会社経営や事業運営においては、日々様々な疑問が生じます。今回のQ&Aで取り上げたように、税金や社会保険の制度は非常に複雑であり、誤った認識や思い込みは、思わぬ不利益やトラブルに繋がる可能性があります。

経営者が心得るべき3つの鉄則

  1. 「常識」や「噂」を鵜呑みにしない: 税務・労務に関する情報は、必ずその根拠となる法律や制度を確認する。
  2. 基本的な仕組みを自ら学ぶ姿勢を持つ: 専門家に任せきりにするのではなく、経営者自身が基本的なルールを理解することで、より的確な経営判断が可能になる。
  3. 不明な点や判断に迷う場合は、必ず専門家に相談する: 税理士、社会保険労務士、弁護士など、それぞれの分野の専門家は、あなたの会社をリスクから守り、成長をサポートするための強力なパートナーです。

疑問を放置せず、一つ一つを正しく理解し、適切に対処していくこと。その地道な積み重ねこそが、健全で持続可能な事業運営の基盤を築くのです。この記事が、その一助となれば幸いです。