「やっと銀行から融資が下りた!」
「これで当面の資金繰りは安心だ…」
金融機関からの融資は、多くの中小企業にとって、事業の成長、設備投資、そして経営の安定を実現するための、まさに生命線です。苦労の末に融資が実行された時の安堵感は、経営者にとって何物にも代えがたいものでしょう。
しかし、本当に重要なのは、融資を受けた「後」の行動です。融資の実行は、ゴールではなく、金融機関との長期的なリレーションシップの新たなスタートを意味します。この融資後の行動を一つ間違えると、せっかく築き上げた信頼関係が一瞬で崩れ去り、将来的な追加融資の道が閉ざされたり、最悪の場合、既存の融資の一括返済を求められたりする可能性すらあるのです。
この記事では、銀行融資を受けた後に、経営者が絶対にやってはいけない5つのNG行為と、その背景にある金融機関の考え方、そして良好な関係を維持し、将来のさらなるサポートを引き出すための具体的な注意点について、分かりやすく徹底的に解説していきます。
銀行はなぜ融資をするのか?その本質を理解する
NG行為を理解する前に、まず、銀行をはじめとする金融機関が、なぜ企業に融資をするのか、その本質を理解しておくことが重要です。
金融機関は、ボランティア団体ではありません。彼らのビジネスモデルは、預金者から預かった資金を、成長が見込める企業に貸し付け、その利息を収益の源泉とすることです。
つまり、金融機関が企業に融資をする目的は、
- 融資先企業がその資金を有効活用し、事業を成長・発展させること。
- その結果、企業が安定的に利益を上げ、貸し付けた元本と利息を計画通りに返済してくれること。
この2点に集約されます。金融機関は、企業の「成長パートナー」として資金を提供し、その成長から得られるリターン(利息)を期待しているのです。この大原則から外れる行動は、金融機関の信頼を損なう行為と見なされます。
【NG行為1】資金使途違反:約束を破る行為は最大のタブー
融資を申し込む際には、必ず「何のために、いくらのお金が必要か」という「資金使途」を明確にする必要があります。そして、融資が実行された資金は、その申し出た目的のために使用しなければならないというのが、融資契約における大原則です。この約束を破る「資金使途違反」は、金融機関が最も嫌う行為の一つです。
よくある資金使途違反のパターン
- 設備資金の運転資金への流用:
「工場の機械を購入するため」という名目で設備資金の融資を受けたにもかかわらず、実際には機械を購入せず、その資金を日々の運転資金(仕入れ代金や人件費の支払いなど)に充ててしまうケース。 - 運転資金の設備投資への流用:
逆に、「運転資金として」融資を受けた資金で、当初の計画になかった高額な設備を購入してしまうケース。 - 事業資金の個人的な流用(役員貸付金など):
これが最も悪質と見なされるパターンです。 会社の事業発展のために借りたお金を、社長が個人的な用途(高級車の購入、住宅ローンの返済、遊興費など)に使い込んでしまう行為。これは、貸借対照表(BS)に「役員貸付金」や「短期貸付金」といった勘定科目として現れ、金融機関の決算書チェックで必ず発覚します。 - 別会社への資金流用:
融資を受けた法人の資金を、経営者が同じであっても、法律上は別人格である子会社や関連会社、あるいは個人の事業に流用する行為。これも、融資契約の当事者ではない第三者のために資金が使われたと見なされ、重大な資金使途違反となります。 - 資産運用への流用:
銀行から低利で借りた資金を、より高いリターンが期待できる株式投資や不動産投資、投資信託などに回す行為。これも、事業の発展という本来の目的から逸脱しており、金融機関は「投機的な目的のために我々の資金が使われている」と判断し、非常に強く警戒します。
なぜ資金使途違反が問題なのか?
- 信頼関係の崩壊: 約束を守らない相手とは、ビジネスを続けられないのと同じです。資金使途違反は、金融機関との信頼関係を根本から破壊します。
- 返済計画の破綻リスク: 設備投資資金は、その設備が生み出す将来の収益を返済原資として計画が立てられます。その資金が別の目的に使われれば、当初の返済計画が成り立たなくなり、貸倒れリスクが高まります。
- 経営者のモラルハザード: 特に社長の個人的な流用は、経営者の公私混同やモラルの欠如の表れと見なされ、その会社全体の信用力が著しく低下します。
対策
- 融資申込時の計画を厳守する: 申し込んだ資金使途の通りに資金を使用することを徹底します。
- 資金使途が変更になる場合は、必ず事前に相談する: 経営状況の変化など、やむを得ない理由で資金使途を変更する必要が生じた場合は、自己判断で流用せず、必ず事前に金融機関の担当者に相談し、承認を得ることが不可欠です。
【NG行為2】返済の延滞:信用力を一瞬で失う行為
言うまでもありませんが、借入金の返済を遅らせる(延滞する)行為は、企業の信用力を一瞬で失墜させます。「返済能力がない」と見なされ、今後の追加融資は絶望的になるだけでなく、最悪の場合、既存の融資の一括返済を求められる「期限の利益の喪失」という事態にも繋がりかねません。
延滞にも「重さ」がある:月をまたぐか、またがないか
金融機関は、月末時点で融資先の状況をチェックし、その健全性を評価します。
- 月をまたがない延滞: 例えば、毎月25日の返済日に残高不足で引き落とせなくても、その月の末日(31日など)までに入金し、返済が完了すれば、「遅延」ではありますが、比較的軽微な事故として扱われる場合があります。
- 月をまたぐ延滞: 月末を過ぎても返済が行われず、翌月になってしまった場合は、金融機関の内部では「延滞債権」として事故扱いとなり、信用情報に重大な傷がつく可能性があります。
対策
- 返済期日を月初に設定する: 融資契約時に、毎月の返済期日を選択できる場合があります。その際は、月末ではなく、できるだけ月の初旬(5日や10日など)に設定しましょう。万が一、残高不足になった場合でも、月末までに対処する時間的余裕が生まれます。
- 入金予定日との連携: 毎月、決まった得意先からの大きな入金がある場合は、その入金日の直後に返済期日を設定することも、返済遅延を防ぐ有効な手段です。
- 資金繰り表による事前管理: 資金繰り表を作成し、返済日に口座残高が不足しないか、常に事前に確認・管理する習慣をつけましょう。
- 万が一、遅れそうな場合は「事前連絡」: どうしても返済日に資金が間に合わないと分かった時点で、隠さずに正直に金融機関の担当者に連絡し、事情を説明して相談することが重要です。無断で延滞するのと、事前に相談するのとでは、金融機関が受ける心証は全く異なります。
【NG行為3】繰り上げ返済:銀行の「儲け」を奪う行為
意外に思われるかもしれませんが、資金に余裕ができたからといって、契約期間の途中で借入金を一括または一部繰り上げて返済する行為も、金融機関からは歓迎されません。
なぜ繰り上げ返済が嫌がられるのか?
- 銀行の収益(利息)の減少: 前述の通り、銀行の収益源は利息です。例えば、7年間の融資契約であれば、銀行は7年分の利息収入を事業計画に織り込んでいます。もし、5年で繰り上げ返済されてしまうと、残り2年分の利息収入がなくなり、銀行の収益計画が狂ってしまいます。
- 「付き合いの悪い会社」という印象: 銀行は、企業と長期的なパートナーシップを築きたいと考えています。資金に余裕ができたらすぐに縁を切ろうとするような行動は、「自社の都合しか考えない、付き合いの悪い会社」という印象を与え、将来の融資相談においてマイナスに働く可能性があります。
対策
- 原則として、契約通りに返済を続ける: 資金に余裕がある場合でも、基本的には契約期間通りに返済を続け、手元の資金は事業への再投資や、不測の事態への備え(内部留保)に充てる方が、財務戦略上も合理的です。
- 繰り上げ返済を検討する場合: どうしても繰り上げ返済をしたい特別な理由がある場合は、金融機関の担当者に相談の上で行いましょう。
- 「借り換え」は別: 金融機関側から、「より良い条件で新たな融資をするので、既存の借入を一旦返済しませんか?」といった「借り換え」の提案があった場合は、この限りではありません。これは、新たな利息収入が見込めるため、銀行にとってもメリットがある提案です。
【NG行為4】借りたお金を「寝かせておく」行為
これも意外なNG行為ですが、融資で受けた資金を、特に明確な使い道もなく、長期間にわたって預金口座にそのまま「寝かせておく」ことも、金融機関からの評価を下げる要因となります。
なぜ資金を寝かせることが問題なのか?
- 事業発展意欲の欠如: 金融機関は、事業の発展のために資金を使ってほしいと考えています。借りたお金を使わずに放置していると、「この会社は成長意欲がないのではないか」「そもそも資金需要がなかったのではないか」と見なされます。
- 融資の正当性への疑義: 銀行の内部ルール上も、「使われないお金」を貸し付けることは、適切な融資とは言えません。将来、金融庁などの検査で指摘されることを銀行は嫌います。
対策
- 計画的な資金活用: 融資を受ける際には、明確な資金計画を立て、それに沿って計画的に資金を活用しましょう。
- 「使っているように見せる」工夫も時には必要: コロナ融資のように、先行きの不透明さから「とりあえず借りておいた」というケースもあるでしょう。その場合でも、資金を全く動かさないのではなく、別の口座に移動させたり、短期的に必要な支払いに充てたりするなど、資金が事業のために循環しているように見せる工夫も、担当者との関係維持の上では有効な場合があります(ただし、これはあくまで形式的な対応であり、本質的には計画的な活用が望ましいです)。
【NG行為5】制度融資の要件から外れる行為(本店の移転など)
国や地方自治体、信用保証協会などが連携して提供する「制度融失」は、中小企業にとって非常に有利な条件(低金利、長期返済、利子補給など)で資金調達できる貴重な機会です。
しかし、これらの制度融資には、特定の地域に事業所があることなどを要件としている場合があります。
注意すべき点
- 利子補給などを受けるための制度融資を利用した場合、その融資期間中に、要件となっている地域外へ本店を移転してしまうと、利子補給などの優遇措置が受けられなくなる可能性があります。
- このような制度融資を利用する際には、その適用要件を十分に確認し、融資期間中は安易に本店移転などを行わないよう注意が必要です。
まとめ:融資は「信頼」の証。誠実な行動で、永続的なパートナーシップを築こう!
金融機関からの融資は、単なる金銭の貸し借りではありません。それは、あなたの会社の将来性や経営者の資質に対する「信頼」の証です。融資を受けた後の行動は、その信頼に応えるための試金石と言えます。
銀行に嫌われず、継続的なサポートを得るための鉄則
- 約束は絶対に守る(特に資金使途と返済期日)。
- 安易な繰り上げ返済はせず、長期的なパートナーとして付き合う姿勢を示す。
- 借りたお金は、事業の成長のために有効活用する(寝かせない)。
- 会社の状況(良いことも悪いことも)を、平時から誠実に報告・相談する。
- 金融機関を「敵」や「下請け」ではなく、「共に成長を目指すパートナー」として尊重する。
これらの基本的な姿勢を貫くことが、金融機関との強固な信頼関係を築き、会社の成長段階に応じて、必要な時に必要な資金を調達できる、盤石な経営基盤の構築に繋がります。
融資は、会社の可能性を大きく広げるための強力なツールです。その力を最大限に引き出すためにも、融資を受けた後の行動にこそ、細心の注意を払い、誠実な経営を心がけていきましょう。この記事が、その一助となれば幸いです。