【社長必見!】役員賞与を経費にする「事前確定届出給与」完全ガイド!手続き・注意点・節税と社会保険への影響まで徹底解説

役員賞与・役員報酬

「会社の利益が出たから、頑張ってくれた役員に賞与(ボーナス)を支給したい」
「しかし、役員賞与は経費にならないと聞いたことがある…」
「毎月の役員報酬は固定で変えられないけれど、業績に応じて報酬額を調整する方法はないだろうか?」

多くの経営者が、役員への報酬設計において、このような悩みや疑問を抱えています。会社の利益に貢献した役員へ、その功労に報いるために賞与を支給したいと考えるのは当然のことです。しかし、法人税法上、役員への賞与は、従業員への賞与とは異なり、原則として会社の経費(損金)として認められません。

これは、経営者が決算間際に利益の状況を見て、恣意的に役員賞与を支給し、法人税の負担を不当に免れる「利益操作」を防ぐための措置です。

しかし、この原則には重要な例外があります。それが「事前確定届出給与」という制度です。この制度を正しく理解し、適切な手続きを踏むことで、役員への賞与を経費として全額損金算入し、法人税の節税と、柔軟な報酬設計を両立させることが可能になります。

この記事では、役員賞与を経費化できる唯一の方法とも言える「事前確定届出給与」について、その制度の概要から、税務署への届出期限、実務上の具体的な留意事項、社会保険料への影響、そして届出書の記載例まで、網羅的かつ分かりやすく徹底解説していきます。

事前確定届出給与とは?その基本的な仕組みと活用ケース

まず、事前確定届出給与がどのような制度なのか、その基本的な仕組みを理解しましょう。

事前確定届出給与の定義

事前確定届出給与とは、「誰に(支給対象役員)」「いつ(支給日)」「いくら(支給額)」支払うかを、あらかじめ株主総会などで具体的に定め、その内容を所定の期限までに税務署に届け出ることにより、その届け出通りに支払われた役員給与(賞与)を、会社の経費(損金)として認める制度です。

通常の毎月定額で支払う「定期同額給与」とは異なり、不定期に、あるいは年に数回といった形で支給される役員への賞与などを損金算入するための、特別な手続きと位置づけられています。

どのようなケースで活用されるのか?

この制度は、主に以下のようなケースで活用されます。

  1. 役員への賞与(ボーナス)支給:
    最も一般的な活用ケースです。従業員と同様に、会社の業績に応じて役員にも賞与を支給し、その功労に報いたい場合に利用されます。これにより、役員のモチベーション向上と、法人の節税効果を両立できます。
  2. 非常勤役員への報酬支払い:
    毎月は出勤せず、特定の時期にのみ業務を行う非常勤役員に対して、毎月の定期的な給与ではなく、年に1回や2回といった形で、まとまった報酬を支払う場合に適しています。

手続きは厳格!税務署への届出期限と要件

事前確定届出給与の適用を受けるためには、厳格に定められた期限内に、適切な手続きを行う必要があります。

税務署への届出期限

  • 既存の法人の場合:
    原則として、以下のいずれか早い日が届出書の提出期限となります。
    1. 株主総会等でその支給に関する決議をした日から1ヶ月を経過する日
    2. その事業年度開始の日から4ヶ月を経過する日
    • (実務上のポイント)多くの中小企業では、決算日から2ヶ月以内に定時株主総会を開催し、役員報酬を決定します。例えば、3月決算の会社が5月25日に株主総会を開催した場合、①の期限は6月25日、②の期限は7月31日となるため、早い方である「6月25日」が提出期限となります。
  • 新設法人の場合:
    • 会社設立の日以後、2ヶ月を経過する日が提出期限となります。

この期限は非常に厳格であり、1日でも遅れると、その事業年度の事前確定届出給与は一切認められなくなるため、細心の注意が必要です。

実務上の最大の注意点:届出通りに支給しなかった場合の重大なインパクト

事前確定届出給与を運用する上で、最も重要かつ注意が必要なのが、「届け出た内容と、実際の支給内容を完全に一致させる」ことです。もし、少しでも内容が異なった場合、厳しいペナルティが課されます。

原則:届出内容との不一致は「全額損金不算入」

  • 金額の不一致:
    届け出た金額と、実際に支給した金額が1円でも異なっていれば、支給した金額の全額が損金不算入となります。「届け出た金額までは損金として認められる」という甘い考えは通用しません。
    • 例:6月と12月に各200万円ずつ支給する届け出をしたが、12月は業績不振で100万円しか支給しなかった場合。→ 12月の100万円だけでなく、6月に支給した200万円も含めて、合計300万円の全額が損金不算入となります。
    • 例:届け出額より多く支給した場合(例:12月に300万円支給)も同様に、6月と12月の支給額合計500万円の全額が損金不算入となります。
  • 支給日の不一致:
    届け出た支給日に支払われなかった場合も、同様に全額が損金不算入となります。支給日が1日でも前後したり、支払いを忘れていたりした場合も、例外なくアウトです。金融機関の休業日なども考慮し、確実に支給できる日付を設定する必要があります。

資金繰り悪化を理由とする不支給は可能か?

「届け出てしまったが、業績が悪化してどうしても支払えない」というケースも想定されます。この場合、賞与を支払わない(不支給とする)という選択は可能です。
不支給とした場合、当然ながら損金は発生しませんが、会社に対して何らかのペナルティが課されることはありません。
この「支払わない」という選択肢が残されていることが、この制度の戦略的な活用(後述)に繋がります。

不支給の場合の注意点(源泉所得税)

  • 税務上、事前確定届出給与は、実際に支払われなくても、役員側が「受け取る権利の行使を放棄した」という意思表示をしない限り、支給日に所得が発生した(みなし支給)と見なされ、源泉所得税が課税されるリスクがあります。
  • これを避けるため、不支給を決定した場合は、役員本人が「当該賞与の受領を辞退します」という旨の意思表示書を作成し、会社に提出しておくことが、安全策として推奨されます。

このように、事前確定届出給与は、その運用を一つ間違えると、法人税負担が大幅に増加するという大きなリスクを伴う制度です。

事前確定届出給与の戦略的活用法:報酬の柔軟性と社会保険料への影響

厳格なルールがある一方で、この制度を戦略的に活用することで、経営の柔軟性を高め、社会保険料を適正化できる可能性があります。

1. 毎月の「定期同額給与」との併用

事前確定届出給与は、毎月定額で支払う「定期同額給与」とは別の制度であり、両者を併用することが可能です。事前確定届出給与の損金算入が否認されたとしても、定期同額給与部分の損金算入には影響ありません。

2. 業績に応じた柔軟な報酬調整(支払わない選択肢の活用)

  • 活用法:
    期首の段階では、業績が好調であった場合に支給できる上限額を、事前確定届出給与として届け出ておきます。そして、期末が近づき、実際の業績や資金繰りの状況が見えてきた段階で、届け出た賞与を「全額支払う」「一部の役員にだけ支払う」「全く支払わない」といった選択をすることができます。
  • メリット:
    • これにより、業績が良い時には役員に報いることができ、業績が悪い時には無理な支出を避けて資金繰りを守るという、柔軟な利益調整とリスク管理が可能になります。これは、期中に変更できない定期同額給与にはない、非常に大きなメリットです。

3. 社会保険料の適正化への活用

ここが、経営者が知っておくべき重要なポイントです。役員賞与の活用は、社会保険料の負担を適正化する上で大きな効果を発揮することがあります。

  • 賞与にかかる社会保険料の上限(アッパー):
    毎月の役員報酬(定期同額給与)には、社会保険料の計算上限(標準報酬月額の上限)はあるものの、比較的高い水準に設定されています。
    一方、年3回以下の賞与にかかる社会保険料には、より低い上限(アッパー)が設けられています。
    • 健康保険: 年度内の累計で573万円まで
    • 厚生年金: 1回あたり150万円まで
  • 戦略的活用法:
    毎月の役員報酬を、生活に支障のない範囲でできるだけ低く設定し、報酬の大部分を年に1~3回の事前確定届出給与(賞与)としてまとめて支給します。
  • 効果:
    • 毎月の役員報酬が低いため、月々の社会保険料負担は低く抑えられます。
    • まとまった賞与を支給する際も、社会保険料には上限があるため、高額な賞与であっても、毎月の給与で同額を受け取る場合と比較して、年間の社会保険料総額(個人負担+会社負担)を大幅に削減できる可能性があります。
    • これにより、役員個人の手取り額を増やし、かつ会社の法定福利費負担を軽減するという、双方にとってのメリットが期待できます。

ただし、毎月の報酬を極端に低くすると、個人の生活資金が不足する可能性があります。その場合は、会社からの役員貸付を活用し、賞与支給時に精算するといった資金繰りの工夫も必要となります(決算日までに必ず精算することが重要です。)。

金額の変更や期中就任役員への対応は可能か?

  • 金額の変更:
    一度届け出た金額は、原則として期中に変更できません。ただし、定期同額給与と同様に、「臨時改定事由(役員の地位の変更など)」「業績悪化改定事由(経営状況の著しい悪化)」がある場合には、例外的に変更が認められます。その際は、変更届を提出する必要があります。
  • 期中に就任した役員への対応:
    事業年度の途中で就任した新任役員に対しても、その就任後に届出を行うことで、事前確定届出給与を支給し、損金算入することが可能です。

届出書の具体的な記載例(概要)

事前確定届出給与の届出書は、主に2つの様式から構成されます。

  1. 「事前確定届出給与に関する届出書」本体:
    • 提出法人名、代表者名、株主総会の決議日、提出期限などを記載します。
  2. 付表1「事前確定届出給与の具体的内容」:
    • 支給対象となる役員の氏名、役職、職務執行期間などを記載します。
    • 支給時期(年月日)と支給金額を具体的に記載します。
    • 参考として、毎月の定期同額給与の額も記載する欄があります。

これらの書類に加えて、役員報酬の金額や役員賞与の支給を決議した「株主総会議事録」を適切に作成し、保管しておくことが、税務調査などに対する重要な証拠となります。記載方法に不安がある場合は、必ず税理士に作成を依頼しましょう。

まとめ:事前確定届出給与は、攻めと守りを両立させる経営の切り札

役員報酬制度は、一見すると硬直的で不自由に感じるかもしれません。しかし、「事前確定届出給与」という制度を正しく理解し、戦略的に活用することで、

  • 役員賞与を経費として計上し、法人税の節税を図れる。
  • 業績や資金繰りの状況に応じて、報酬支払いを柔軟にコントロールできる。
  • 社会保険料の負担を適正化し、役員の手取りと会社のキャッシュフローを改善できる。

といった、多くのメリットを享受することが可能です。

成功のための重要ポイント

  • 手続きの厳格性を理解する: 届出期限と、届出通りの支給(日付・金額)を絶対に守る。
  • 資金繰りとの連携: 支払わない選択肢も視野に入れ、無理のない運用を心がける。
  • 社会保険料への影響を考慮した報酬設計: 毎月の報酬と賞与の最適なバランスを検討する。
  • 税理士・社会保険労務士との連携: 専門的な判断が必要なため、必ず専門家のアドバイスを受けながら進める。

経済環境が不確実な現代において、経営の柔軟性と財務の安定性を確保することは、企業が存続し、成長していくための絶対条件です。「事前確定届出給与」は、そのための強力な武器となり得ます。
「知らなかった」で大きな機会を逃すことのないよう、ぜひこの制度の活用を検討してみてください。この記事が、あなたの会社のより良い報酬設計と、力強い経営の一助となれば幸いです。