【経営者必読】役員報酬の最適解とは?税金に惑わされない、会社の成長と個人の目標を両立する設定方法

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企業経営において、役員報酬の金額設定は非常に重要な意思決定の一つです。しかし、その「ベストな金額」については、多くの経営者が頭を悩ませる問題であり、一律の正解が存在しないのが実情です。巷には様々な「最適な役員報酬額」に関する情報が出回っていますが、それらを鵜呑みにしてしまうと、かえって会社の成長を阻害し、経営者自身の目標達成を遠ざけてしまう可能性があります。

本記事では、経営者が役員報酬額を決定する際に陥りがちな誤った考え方や、本来持つべき判断基準、そして会社のステージや経営者のビジョンに応じた適切な設定方法について、客観的かつ多角的な視点から深掘りして解説いたします。税金の多寡に囚われることなく、会社の持続的な成長と経営者個人の満足度を両立させるための本質的な考え方をお伝えします。

役員報酬決定における最大の誤解:「税金ベース」の思考

役員報酬額を決定する際に、最も陥りやすい誤りが「税金の支払額が最も少なくなるように設定する」という考え方です。いわゆる「節税目的」での役員報酬設定は、多くの企業で見受けられる傾向ですが、これは本末転倒と言わざるを得ません。

役員報酬の第一義は、経営者の働きや貢献に対する対価であり、生活の糧となるものです。税金の多寡を最優先の判断基準にしてしまうと、経営者自身が本当に得たい報酬額や、会社が目指すべき成長戦略との間に大きなズレが生じる可能性があります。

「税金に支配される人生」からの脱却

税金の負担を軽減したいという気持ちは理解できますが、あらゆる経営判断を税金の有利不利だけで行うことは、経営者の本来の目的を見失わせる危険性を孕んでいます。例えば、「年収500万円が最も税効率が良い」という情報があったとして、年商100億円企業の経営者がその金額で本当に満足できるでしょうか。多くの場合、答えは「ノー」でしょう。

重要なのは、「いくら報酬を得たいのか」という経営者自身の意思です。極論を言えば、1億円の報酬を得たいのであれば、それに見合う事業規模と利益を達成し、必要な税金を支払った上で1億円の報酬を得るべきです。

役員報酬額と手取り額の正しい理解

役員報酬額を増やすと、所得税や住民税、社会保険料の負担が増加するため、「ある一定のラインを超えると手取り額が減るのではないか」という誤解を持つ方がいます。しかし、原則として、額面の役員報酬が増加して手取り額が減少するということはありません。

日本の所得税は累進課税制度を採用しており、所得が増えるほど税率も段階的に上昇します。しかし、これは「所得の全額に対して高い税率がかかる」という意味ではなく、「一定の所得を超えた部分に対してのみ、より高い税率が適用される」という仕組みです。例えば、所得が3,999万円の人と4,000万円の人を比較した場合、4,000万円の人の方が最高税率の適用範囲に入りますが、それによって3,999万円の人よりも手取り額が少なくなるということはありません。4,000万円を超えたごく一部の所得に対してのみ最高税率が適用され、それ以下の部分については、それぞれ対応する低い税率が適用されるためです。

したがって、「税率の壁」を過度に恐れて報酬額を抑制することは、手取り額を増やすという観点からは合理的ではありません。

法人税とのバランスという視点

個人の所得税だけでなく、法人税との兼ね合いを考慮して役員報酬額を決定しようとする考え方もあります。役員報酬を多く支払えば、その分会社の経費が増え、法人税の課税対象となる利益は減少します。逆に、役員報酬を低く抑えれば、会社に利益が残り、法人税の対象となります。

個人の所得税・住民税の合計税率は、高額所得者になると50%を超える場合があります。一方、法人税の実効税率は一般的に30%程度です。この税率差だけを見ると、「会社に利益を残した方がトータルの税負担は少ないのではないか」と考えるかもしれません。

しかし、これもまた「税金で得をしたい」という視点に偏った考え方です。経営者が個人として高額な報酬を得たいのであれば、たとえ税負担が重くなったとしても、それを得ることを優先すべきです。経営の目的が「税負担の最小化」であるならば、そもそも起業という選択自体が最適ではないかもしれません。生活保護を受給すれば、税金を支払うどころか、国から給付を受ける立場になれます。経営者が何を目指し、何を最も重要視するかによって、取るべき戦略は大きく変わってくるのです。

役員報酬の「ベストな金額」とは?本質的な決定要因

では、役員報酬の「ベストな金額」とは一体いくらなのでしょうか。前述の通り、究極的には「経営者が得たいと思う金額」が基本となります。しかし、それだけでは現実的な設定は困難です。会社の財務状況や成長戦略、将来のビジョンなどを総合的に勘案する必要があります。

会社の利益水準との連動性

経営者がどれだけ高額な報酬を望んだとしても、会社がそれを支払えるだけの利益を生み出していなければ、絵に描いた餅に過ぎません。例えば、経常利益が年間300万円の会社で、社長が役員報酬1億円を要求するのは非現実的です。そのような設定をすれば、会社は大幅な赤字に陥り、存続すら危うくなります。

一つの目安として、「役員報酬を控除する前の会社の利益の20%以内」という考え方があります。もちろん、これはあくまで一般的な目安であり、業種や会社の成長ステージによって適切な割合は異なります。役員報酬は期首に決定する必要があるため、期末の最終利益を正確に予測することは困難ですが、経営計画に基づいた目標利益を基準に考えることが重要です。

この「利益の20%以内」という目安は、会社に十分な内部留保を確保し、将来の成長のための再投資資金を捻出するという観点からも合理的です。

内部留保と再投資の重要性

役員報酬として個人に支払われた資金は、当然ながら会社からは流出します。一方で、会社に残された利益(内部留保)は、企業の財産として蓄積され、さらなる事業拡大や新規事業への投資、不測の事態への備えなどに活用できます。

もし経営者が短期的に多くの報酬を得ることを優先し、会社に十分な利益を残さなければ、再投資の原資が枯渇し、結果として会社の成長が鈍化する可能性があります。会社の成長が鈍化すれば、将来的に得られる役員報酬の総額も頭打ちになってしまうかもしれません。

逆に、適切な範囲で役員報酬を設定し、会社にしっかりと利益を残し、それを効果的に再投資していくことで、会社はより大きく成長し、利益水準も向上します。その結果、経営者は将来、より高額な役員報酬を得ることが可能になるのです。つまり、短期的な報酬額の最大化よりも、中長期的な視点での企業価値向上と、それに伴う報酬総額の最大化を目指す方が、結果的に経営者にとっても有利になるケースが多いのです。

もちろん、経営者が「個人的な資産形成はそこまで重視せず、とにかく会社の成長を最優先したい」と考えるのであれば、役員報酬を低く抑え、会社の内部留保を最大限に厚くするという戦略も有効です。

経営者のビジョンと会社の成長戦略との整合性

結局のところ、役員報酬の最適な金額は、**「経営者が会社をどうしていきたいのか」「個人として何を目指しているのか」**というビジョンや目標に大きく左右されます。

例えば、ある製造業の経営者が、長年同じような業績で推移し、役員報酬も1,000万円程度に抑えられていたとします。しかし、本心では1億円の報酬を得たいと考えていたにもかかわらず、周囲の意見や税理士からの「税金が高くなる」という助言により、その思いを封印していたとします。このような状況では、経営者は「何のためにこんなに大変な思いをして会社を経営しているのだろうか」という疑問を抱き、モチベーションが低下してしまう可能性があります。

実際に、このような経営者が「1億円の報酬を得る」という目標を明確に掲げ、それに見合う利益を出すための経営改革に取り組んだ結果、売上・利益ともに大幅に伸長し、目標を達成したという事例も存在します。目標設定が行動を変え、結果を変えるのです。

経営者は、まず自身の「欲望」や「夢」を明確にし、それを実現するために会社をどのように成長させていくのか、という戦略を具体的に描く必要があります。その上で、その戦略と整合性の取れた役員報酬額を設定することが重要です。

具体的な目標に応じた役員報酬設定の考え方

経営者の目標や会社の目指す方向性によって、役員報酬の考え方は具体的にどのように変わってくるのでしょうか。いくつかの代表的なケースを考えてみましょう。

1. 最終目標が「バイアウト(会社売却)」の場合

将来的に会社を売却し、大きなキャピタルゲインを得ることを目指しているのであれば、毎年の役員報酬を高く設定するメリットはほとんどありません。むしろ、役員報酬を低く抑え、会社の利益とキャッシュフローを最大化し、企業価値を高めることに注力すべきです。

企業価値が高まれば、売却時の金額も大きくなります。そして、株式の売却益に対する税率は、高額な役員報酬にかかる所得税・住民税の税率よりも大幅に低いのが一般的です。したがって、バイアウトを目指す場合は、毎年の役員報酬で細かく資金を回収するよりも、最終的な売却益でまとめて大きなリターンを得る方が、手残りは圧倒的に大きくなります。

2. 継続的な事業成長と高額報酬の両立を目指す場合

会社を売却するつもりはなく、自身で経営を続けながら、事業を大きく成長させ、個人としても高額な報酬を得たいと考える場合。この場合は、前述の「利益の20%以内」といった目安を参考にしつつ、会社の成長ステージに合わせて柔軟に報酬額を見直していく必要があります。

重要なのは、会社に十分な再投資資金を残し、無駄な経費を削減し、利益を生み出すための戦略的な投資を継続することです。これにより、会社の利益水準が向上すれば、それに伴って役員報酬の額も段階的に引き上げていくことが可能になります。経営者の努力が、会社の成長と個人の報酬増の両方に結びつく好循環を生み出すことが理想です。

3. 「現状維持」または「緩やかな成長」を目指す場合

全ての経営者が、常に急成長を目指しているわけではありません。現在の事業規模を維持し、従業員の生活を守ることを優先したいと考える経営者もいます。このような場合、必ずしも利益の大部分を再投資に回す必要はないため、役員報酬の割合を比較的高く設定することも考えられます。

ただし、「現状維持」という考え方には注意が必要です。市場環境は常に変化しており、真の現状維持は実質的な衰退を意味することが少なくありません。一定の成長努力なしに現在の水準を保つことは困難であるという認識は持つべきです。また、経営者が現状の報酬で満足していても、従業員が同じように満足しているとは限りません。従業員のモチベーション維持や生活向上のためにも、ある程度の成長と、それに伴う処遇改善は考慮すべきでしょう。

いずれにしても、現状維持を目指す場合であっても、会社に最低限の内部留保を確保し、将来の不測の事態や必要な投資に備えることは不可欠です。

注意点:借入金の存在

役員報酬額を決定する上で、特に注意すべきなのが借入金の存在です。たとえ現状維持を目指す企業であっても、借入金がある場合は、その返済原資を確保する必要があります。利益のほとんどを役員報酬として払い出してしまうと、借入金の返済が滞り、キャッシュフローが悪化し、最悪の場合、資金ショートを引き起こす可能性があります。

借入金がある企業は、役員報酬額を設定する際に、毎年の返済額を十分に賄えるだけの利益を会社に残すことを最優先に考えなければなりません。適切な資金繰り管理を行い、財務の安全性を確保した上で、役員報酬額を決定することが鉄則です。

結論:税金ではなく、ビジョンと戦略で役員報酬を決定する

役員報酬の最適な金額は、税金の多寡で決まるものではありません。それは、経営者自身のビジョン、会社の成長戦略、そして財務状況を総合的に勘案した結果として導き出されるものです。

「税金で得をする金額はいくらか」という基準で役員報酬を決めることは、経営判断の本質を見誤らせ、経営者の真の目標達成を妨げる可能性があります。もし、税金を支払うことが経営の最大の関心事であるならば、それは経営者としての喜びやモチベーションを削ぎ、事業の成長を停滞させる要因になりかねません。

経営者が心に刻むべきは、「税額を経営判断の基準にしない」ということです。

本当に大切なのは、経営者が何を成し遂げたいのか、どのような会社を創り上げたいのかという情熱です。その情熱を実現するために、会社を成長させ、利益を最大化し、その結果として得られる報酬と達成感を追求すること。そこにこそ、経営の醍醐味があるのではないでしょうか。

役員報酬の設定は、単なる金額決定ではなく、経営者の意思表明であり、会社の未来を左右する重要な戦略の一部です。税金という一面的な情報に惑わされることなく、自身の心の声に耳を傾け、会社の成長と個人の幸福を両立できる、真に「ベストな」役員報酬額を見つけ出していただきたいと思います。