「社員への賞与、いくら払えばいいんだろう…」「賞与の正しい決め方ってあるの?」多くの経営者が頭を悩ませる賞与の問題。従業員のモチベーションを左右し、ひいては会社の業績にも影響を与える重要な要素です。
しかし、その「正解」がわからず、曖昧な基準で支給しているケースも少なくありません。本記事では、賞与の基本的な考え方から、日本企業の賞与実態、そして「儲かる会社」が実践する賞与戦略と人件費の決め方について、具体的な事例や会計知識も交えながら徹底解説します。
この記事を読めば、あなたの会社の賞与制度を抜本的に見直し、従業員と会社双方にとってプラスとなる仕組みを構築するためのヒントが得られるはずです。
日本の賞与実態:平均97万円のカラクリとは?
まず、日本の企業がどれくらいの賞与を支払っているのか、一般的なデータを見てみましょう。2024年夏の日経新聞の記事によると、ボーナス(賞与)の平均支給額は97万円と報じられています。中には、三菱商事(641万円)、東京エレクトロン(435万円)、ディスコ(旧社名:シボン・ホールディングス、約271万円※動画内ではシボンドホールディングスと誤記)のように、1回の賞与で数百万円を支給する企業も存在します。
しかし、この「平均97万円」という数字を鵜呑みにしてはいけません。この記事で対象となっているのは、上場企業および日本経済新聞社が選んだ有力な非上場企業、合計わずか422社のデータなのです。これは、日本の全法人数のうち、わずか0.01%程度に過ぎません。つまり、このデータは日本の「トップオブトップ」企業の平均値であり、大多数の中小企業の実態とは大きくかけ離れている可能性が高いのです。
多くの中小企業では、1回の賞与で100万円を支給するのは稀であり、中には数万円というケースも存在します。自社の賞与額がこの平均に届いていなくても、過度に悲観する必要はありません。
賞与はいくら払うべき?結論は「ゼロベース」+「業績賞与」
では、中小企業は社員にいくら賞与を支払うべきなのでしょうか?結論から申し上げると、「固定的な賞与(夏・冬のボーナスなど)は原則ゼロで良い。ただし、業績に応じた賞与(業績賞与)は積極的に出すべき」というのが、本記事でお伝えしたい考え方です。
「賞与がないなんて、社員のモチベーションが下がるのでは?」と不安に思うかもしれません。しかし、重要なのは「賞与があるかないか」ではなく、**「年収総額がいくらになるか」**です。
例えば、
- A社:年収600万円(賞与あり)
- B社:年収800万円(賞与なし)
この場合、多くの人はB社を選ぶでしょう。つまり、賞与の有無よりも、トータルの報酬額が重視されるべきなのです。
固定的な賞与のデメリットと、経営者にとっての「調整弁」
多くの企業では、夏と冬に固定的な賞与を支給する慣習があります。しかし、これは従業員にとって必ずしもメリットばかりではありません。
経営者の視点から見ると、固定的な賞与は「人件費の調整弁」として機能しやすいという側面があります。例えば、年収600万円を、月給40万円+賞与年間120万円(夏60万、冬60万)という形で支給する場合、業績が悪化すれば「今期は業績が悪いので、夏のボーナスはカットします」といったことが比較的容易にできてしまいます。従業員も「業績が悪いなら仕方ない」と納得しやすい傾向にあります。
しかし、これがもし年俸制で月給50万円(賞与なし)の場合、業績が悪化したからといって簡単に月給を下げることはできません。
つまり、固定的な賞与制度は、経営者にとっては人件費をコントロールしやすいというメリットがある一方で、従業員にとっては支給額が不安定になるリスクをはらんでいるのです。
従業員の立場からすれば、同じ年収600万円なら、毎月安定して50万円が支給される方が、資金計画も立てやすく、安心感も大きいと言えるでしょう。
「儲かる会社」が実践する賞与戦略:5つのステップ
では、固定的な賞与をゼロにし、業績賞与を導入することで、会社と従業員双方にとってメリットのある仕組みを構築するには、どうすればよいのでしょうか。そのための5つのステップをご紹介します。
ステップ1:従業員のリテラシーを上げる
まず、従業員自身が賞与の本質を理解する必要があります。「賞与がある会社=良い会社」という短絡的な考え方ではなく、「年収総額」や「支給の安定性」といった観点から、自分にとって何が本当に有利なのかを判断できるリテラシーを養うことが重要です。
経営者は、賞与制度の仕組みや、それが従業員に与える影響について、包み隠さず説明するべきです。従業員が賢くなることは、会社全体の成長にも繋がります。
ステップ2:社員に「数字」を共有する
業績賞与を導入する上で不可欠なのが、会社の「数字」を社員と共有することです。売上だけでなく、営業利益や経常利益といった、会社の収益性を測る指標をオープンにすることで、社員は自分たちの仕事が会社の利益にどう結びついているのかを具体的に理解できるようになります。
「社長だけが高額な報酬を得ているのでは…」といった不信感を払拭するためにも、役員報酬も含めた経営情報を可能な範囲で開示することが望ましいでしょう。
数字を共有することで、社員はコスト意識を持ち始め、「どうすれば会社の利益を増やせるか」を主体的に考えるようになります。これは、経営者が一人で頑張るよりも、はるかに大きな成果を生み出す可能性があります。
ステップ3:労働生産性を上げる
賞与を支払う原資は、当然ながら会社が生み出す利益です。社員一人ひとりがより多くの付加価値(限界利益)を生み出せるように、労働生産性を向上させる取り組みが不可欠です。
労働生産性とは、「従業員一人当たりの付加価値額」のことです。これを高めるためには、業務プロセスの改善、スキルアップ支援、適切な人員配置など、多角的なアプローチが必要です。
人を採用すればするほど会社の利益が増える、という状態を目指すことが、持続的な成長と社員への還元を実現するための鍵となります。
ステップ4:BS(貸借対照表)のスリム化
会社の資金を、本業の利益に直結しないもの(例:社長の高級車、不要な株式投資、過度な保険積立など)に浪費していては、社員に還元する原資は生まれません。貸借対照表(BS)をスリム化し、無駄な資産を持たないことが重要です。
社員に数字を共有し、業績賞与の仕組みを導入すれば、社長の無駄遣いは社員の賞与を減らすことに直結するため、自然と牽制機能が働きます。社員が賢くなればなるほど、社長も襟を正し、より健全な経営判断を下すようになるでしょう。
ステップ5:社長自身も数字に強くなる
社員に数字を共有し、生産性向上を求める以上、社長自身が誰よりも数字に強くならなければなりません。 会社の財務状況を正確に把握し、データに基づいた意思決定を行うことが求められます。
社長が数字に弱いと、社員の不正を見抜けなかったり、誤った経営判断を下してしまったりするリスクがあります。簿記の知識を身につけるなど、積極的に学び続ける姿勢が重要です。
【簿記チャレンジ:経営者のための会計力向上ドリル】
ここで、会計の基礎知識を確認するための簡単な簿記の問題を3つご紹介します。(解答は記事末尾)
- 問題1(社会保険料の支払い):
給料から差し引いた社会保険料の従業員負担額(健康保険・厚生年金合わせて15万円)と、会社負担額(同15万円)を合わせて現金で納付した。この時の仕訳は? - 問題2(消費税の確定):
決算にあたり消費税の納付額を確定した。期中の消費税仮払額は18万円、消費税仮受額は26万円であった(税抜方式)。この時の仕訳は? - 問題3(クレジット販売と手数料):
商品(税抜50万円)を税込み55万円で販売した。代金のうち22万円は、以前自社が振り出した約束手形で受け取った。残額33万円はクレジットカード払いであった。なお、信販会社へのクレジット決済手数料は売上代金の4%(消費税非課税)であり、これも合わせて計上する。この時の仕訳は?(税抜方式)
これらの問題を通じて、日々の取引が会計上どのように処理されるのかを理解することは、数字に強い経営者になるための第一歩です。
まとめ:賞与戦略は会社を強くする!従業員と共に成長する経営を目指そう
社員への賞与の理想的なあり方は、固定的な賞与を廃し、会社の業績と個人の貢献度に応じた「業績賞与」を導入することです。そして、その前提として、従業員のリテラシー向上、経営数字の共有、労働生産性の向上、BSのスリム化、そして社長自身の会計力向上が不可欠となります。
これらの取り組みは、単に賞与の問題を解決するだけでなく、従業員一人ひとりが経営者意識を持ち、会社全体の利益を追求する「強い組織」を作り上げることにも繋がります。
「うちの会社はホワイトだから残業なし」といった表面的な言葉だけでなく、社員が本当に豊かになれる仕組みを構築することが、これからの時代に求められる経営者の姿ではないでしょうか。
中途半端な対応が一番良くありません。自社の方針を明確にし、従業員と共に成長し、利益を分かち合える会社を目指しましょう。
【簿記チャレンジ解答】
- 問題1(社会保険料の支払い):
(借方)法定福利費 150,000 /(貸方)現金 300,000
(借方)預り金 150,000 - 問題2(消費税の確定):
(借方)仮受消費税 260,000 /(貸方)仮払消費税 180,000
/(貸方)未払消費税 80,000 - 問題3(クレジット販売と手数料):
(借方)支払手形 220,000 /(貸方)売上 500,000
(借方)売掛金(またはクレジット売掛金) 316,800 /(貸方)仮受消費税 50,000
(借方)支払手数料 13,200
※クレジット決済手数料:330,000円 × 4% = 13,200円
※売掛金:330,000円 – 13,200円 = 316,800円
この記事が貴社の事業の一助になれば幸いです。