「本業は順調で売上も利益も上がっているはずなのに、なぜか手元にお金が残らない…」多くの経営者が一度は抱えるこの深刻な悩み。実は、儲けたお金が知らず知らずのうちに消えてしまう「落とし穴」が、経営の随所に潜んでいるのです。
この記事では、せっかく稼いだ利益を霧散させてしまう10のポイントを徹底的に解き明かし、会社に確実にお金を残していくための具体的な対策を解説します。
これらのポイントを理解し実践することで、あなたの会社の資金繰りは劇的に改善されるはずです。
利益が消滅する10のポイント:あなたの会社は大丈夫?
儲けたはずのお金がどこに消えてしまうのか。その原因は、日常の経営活動の中に隠されています。ここでは、特に見落とされがちな10の「利益消滅ポイント」を検証していきましょう。
1. 借金返済:見えにくい最大のキャッシュアウトフロー
利益が残らない最大の原因の一つが「借金返済」です。損益計算書(PL)上では黒字を計上していても、年間の利益額を上回る借金返済があれば、当然ながら手元の現金は減少します。例えば、年間1,000万円の利益が出ていても、5,000万円の借金返済があれば、キャッシュフローは大幅なマイナスです。この借金返済は、PLには直接費用として計上されないため、経営者が見落としやすいポイントです。まずは自社の借入金残高と年間返済額を正確に把握し、利益計画と照らし合わせることが不可欠です。
2. 保険・投資:将来のため?それとも資金の浪費?
次に注意すべきは、積立型の生命保険や投資信託、株式投資など、経費として計上されない「投資的支出」です。社長の退職金準備や福利厚生の一環として加入するケースが多いですが、特に年商10億円未満の中小企業にとっては、これらの金融商品に資金を振り向けるよりも、本業への再投資を優先すべき場合がほとんどです。
「10年後に105%で戻ってくるから損はしない」といったセールストークを鵜呑みにしてはいけません。その資金を本業に投下すれば、はるかに大きなリターンを生み出せる可能性があるのです。宝くじの例え話で言えば、1万円で1万5千円になるくじと5万円になるくじが目の前にあり、どちらか一方しか買えない状況で、前者を選ぶのは機会損失です。自社の事業が、金融商品よりも低いリターンしか生み出せないのなら、事業そのものを見直す必要があるかもしれません。不要な保険は解約し、その資金を事業成長に活用することを検討しましょう。
3. 在庫:眠らせているお金の山
過剰な在庫は、資金を寝かせているのと同じです。もちろん、事業運営上、一定量の在庫は必要ですが、必要以上に在庫を抱え込むことはキャッシュフローを悪化させます。利益が1,000万円出ていても、在庫が5,000万円増加していれば、やはり手元資金は減少します。
大企業ほど在庫管理を徹底しているのは、それが経営の根幹に関わる重要な要素だからです。資金力に乏しい中小企業こそ、適正在庫を維持し、在庫回転率を高める努力を怠ってはいけません。定期的な棚卸しと販売予測に基づいた仕入れ計画が不可欠です。
4. 節税(利益の食い潰し):短期的な視点の罠
「利益が出たから節税対策を」と考える経営者は多いですが、過度な節税は将来の成長資金を食い潰す行為になりかねません。特に、利益の繰り延べを目的とした節税商品は、目先の税負担を軽減するかもしれませんが、長期的に見れば会社の体力を削ぐことにつながります。
利益は、可能な限り早期に確定させ、税金を納めた上で内部留保を厚くし、再投資に回すのが健全な経営です。10年後に得られる100万円よりも、今手元にある100万円の方が価値が高いのは自明の理。短期的な税金逃れに走るのではなく、持続的な成長のための資金確保を優先しましょう。
5. 広告宣伝費:コントロール不能なブラックホール
広告宣伝費は、使い方を誤ると際限なくお金を飲み込むブラックホールとなり得ます。売上拡大を目指して広告費を投下するのは良いのですが、その費用対効果(ROAS:Return On Advertising Spend)を厳密に測定・管理しなければ、かけた金額以上のリターンが得られず、赤字を垂れ流すことになります。
特に競争の激しい業界では、広告費の消耗戦に陥りがちです。例えば、近年の脱毛業界では、過度な広告宣伝費が経営を圧迫し、倒産に至るケースが散見されました。これは、先行投資として顧客から受け取った資金を、回収見込みの低い広告に注ぎ込んだ結果です。広告を打つ際は、必ず効果測定を行い、ROASが100%(かけた費用と同額の売上)を下回るような広告は即座に見直す必要があります。
6. 採用費:人材獲得コストの裏に潜む問題
慢性的な人手不足により、採用コストが高騰しています。しかし、多額の採用費をかけても、すぐに人材が定着しないのであれば、それは採用活動そのものではなく、社内の定着率に問題があるのかもしれません。
新しい人材を採用し、教育するには多大なコストと時間がかかります。もし、既存社員の離職率が高いのであれば、まずはその原因を究明し、労働環境の改善や待遇向上など、定着率を高めるための施策に資金を投じる方が、結果的にコスト削減につながる可能性があります。オンラインサロンの運営に例えるなら、新規会員獲得に躍起になるよりも、既存会員の満足度を高めて退会者を減らす方が、安定的な収益確保には効果的です。
7. 社長の見栄:自己満足のための浪費
高級車、ブランド品、華美なオフィス…社長の見栄を満たすための支出は、会社の利益を確実に蝕みます。これらは多くの場合、自己肯定感の低さの裏返しであり、「他人からどう見られるか」を過剰に気にした結果の行動です。
しかし、本当の意味で自信のある経営者は、外面を飾ることにお金や時間を使いません。見栄のための支出は、会社の成長には何ら貢献しないどころか、従業員の士気を下げ、経営危機を招くことさえあります。SNSで派手な生活をアピールする行為も同様で、情報弱者を集める目的でもない限り、百害あって一利なしと言えるでしょう。
8. 無駄なサブスクリプション:気づかぬうちに流出する固定費
近年、あらゆるサービスが月額課金制(サブスクリプション)に移行しており、知らず知らずのうちに多くの固定費を支払い続けているケースが増えています。一度契約すると、あまり利用していなくても自動的に引き落とされ続けるため、定期的な見直しが不可欠です。
特に、金額が小さいものは見過ごされがちですが、「塵も積もれば山となる」で、年間を通してみると相当な額になっていることも珍しくありません。数ヶ月に一度は契約中のサブスクリプションサービスをリストアップし、本当に必要かどうかを吟味しましょう。利用頻度の低いものは解約し、固定費を削減することが重要です。
9. 不相応な役員報酬:会社の体力を削る高額報酬
会社の業績や規模に見合わない高額な役員報酬も、利益を圧迫する大きな要因です。一度生活レベルを上げてしまうと、それを下げるのは非常に困難です。赤字経営にもかかわらず、社長が高額な役員報酬を受け取り続けているようなケースは、会社を私物化していると言わざるを得ません。
役員報酬は、会社の利益状況、財務状況、そして同業他社の水準などを総合的に勘案し、適正な範囲で設定されるべきです。個人の生活費を維持するために会社に負担を強いるようなことは、経営者としてあってはならない姿勢です。
10. 日本人的思考:お金に対する無意識のブロック
最後に、そして最も根深い問題として挙げられるのが、「日本人的思考」、つまりお金に対する無意識のネガティブな捉え方です。日本の教育や文化の中では、長らく「お金儲けは卑しいこと」「清貧こそ美徳」といった価値観が根強く存在してきました。時代劇で悪代官が「お主も悪よのう」と金塊を眺めるシーンなどが、その象徴と言えるでしょう。
このような環境で育つと、深層心理でお金を「汚いもの」「悪いもの」と捉えてしまいがちです。そして、無意識のうちに「汚いものは手元に置きたくない」という心理が働き、お金が入ってくるとすぐに使ってしまったり、増やそうという意欲が湧かなかったりするのです。宝くじの高額当選者の多くが、数年以内に破産してしまうという話も、この心理と無関係ではないかもしれません。
経営者自身がこのような「お金のブロック」を抱えていると、会社にお金が残らないのは当然の結果と言えます。お金は、価値交換のツールであり、事業を成長させ、社会に貢献するための重要な資源です。お金に対する正しい知識(リテラシー)を身につけ、健全な価値観を持つことが、利益を確実に残すための第一歩となります。
まとめ:利益を確実に残し、会社を永続させるために
儲かっているはずの会社からお金が消えてしまう10のポイントを見てきました。これらの多くは、日々の経営判断や習慣の中に潜んでおり、意識しなければなかなか気づくことができません。
- 借金返済の実態を把握する。
- 保険や投資は本業への影響を最優先に考える。
- 在庫は適正量を維持し、資金を寝かせない。
- 目先の節税よりも長期的な利益確保を重視する。
- 広告宣伝費は費用対効果を徹底的に管理する。
- 採用コストだけでなく、人材の定着率にも目を向ける。
- 社長の見栄のための支出は一切行わない。
- 無駄なサブスクリプションは定期的に見直す。
- 役員報酬は会社の状況に応じて適正額に設定する。
- お金に対するネガティブな固定観念を捨てる。
これらのポイントを一つひとつ見直し、改善していくことで、あなたの会社には確実に利益が残り始め、資金繰りは安定し、さらなる成長への道が開けるはずです。目先の売上や利益額に一喜一憂するだけでなく、お金の流れ全体を把握し、賢明な使い方を徹底することが、会社を永続させるための鍵となるのです。本記事が、そのための羅針盤となれば幸いです。