【社長の役員報酬・決定版】会社に利益を残すか、個人で受け取るか?税金、事業承継、M&Aまで見据えた、究極の最適解

役員賞与・役員報酬

「社長である、自分の給料は、一体いくらにするのが正解なんだろうか?」
「会社に利益を残した方が、税金的に得なのか?それとも、役員報酬として、個人で受け取った方が良いのか?」
「将来の、事業承継や、M&Aまでを考えた時、最適な報酬設定とは、どのようなものなのか?」

会社の経営者にとって、 「役員報酬をいくらに設定するか」 という問題は、毎年、必ず向き合わなければならない、最も重要で、そして、最も頭を悩ませる、経営判断の一つです。

この決定は、単に「社長の年収を決める」という、個人的な問題ではありません。
それは、

  • 会社の成長を支える「内部留保」と、将来の「法人税」
  • 社長個人の「手取り額」と、それにかかる「所得税」
  • そして、会社の最終的な出口である「事業承継」や「M&A」における、企業価値

といった、会社の、過去・現在・未来の、全ての時間軸に、極めて大きな影響を与える、 高度な「経営戦略」 そのものなのです。

「とにかく、個人の手取りを、最大化したい」
「いや、今は、会社の体力をつけるために、利益を、内部に留保すべきだ」

どちらの考え方も、一見、正しく聞こえます。
しかし、その、一見、正しく見える判断が、長期的な視点で見ると、かえって、あなたの会社と、あなたの資産を、 予期せぬ「税金の爆弾」 へと、導いてしまう可能性があるのです。

この記事では、そんな、重大な決断を前に、経営者が絶対に知っておくべき、役員報酬と、法人税の、最適なバランスについて、その、本質的な考え方と、具体的な戦略を、徹底的に解説していきます。

第1章:大原則|「会社に残す」か「個人で受け取る」か?~それぞれの、光と影~

まず、全ての議論の出発点となるのが、この、究極の二者択一です。
「会社の利益を、会社と個人の間で、どのようなバランスで、分配しますか?」

この問いに対する、あなたの答えが、あなたの会社の、財務戦略の、根幹を決定づけます。
それぞれの選択がもたらす、光と影を、正しく理解しましょう。

「役員報酬」として、個人で多く受け取るメリット

  1. 個人の手取り額が増え、生活が豊かになる:
    これが、最も直接的で、分かりやすいメリットです。社長個人の可処分所得が増えることで、豊かな生活を送り、家族を支え、そして、後述する、 個人での「資産運用」 へと、資金を回すことができます。
  2. 会社の「法人税」の負担を、軽減できる:
    役員報酬は、会社の「経費(損金)」です。役員報酬を多く支払えば、その分、会社の利益は圧縮され、法人税の負担は、軽くなります。

「役員報酬」として、個人で多く受け取るデメリット(リスク)

  1. 個人の「所得税・住民税」が、高額になる:
    個人の所得税は、所得が増えれば増えるほど、税率が上がる 「超過累進課税」 です。高額な役員報酬を受け取ると、その分、高い税率が適用され、個人の税負担が、重くなります。
  2. 会社の「内部留保」が、少なくなる:
    会社の体力が、弱くなります。これにより、銀行からの信用力が低下したり、急な不況や、大きな投資機会に対応できなくなったりする、リスクが生じます。

「内部留保」として、会社に多く残すメリット

  1. 会社の「財務体質」が、強固になる:
    自己資本が厚くなり、財務の安定性が、飛躍的に向上します。これは、銀行からの、絶大な信用に繋がります。
  2. 会社の「企業価値」が高まる:
    将来、 M&A(会社売却) を視野に入れる場合、会社の利益額は、売却価格を決定する、最も重要な要素です。利益を多く残すことで、会社を、より高く売ることができます。

「内部留-保」として、会社に多く残すデメリット(リスク)

  1. 会社の「法人税」の負担が、重くなる:
    当然ながら、利益が多ければ、その分、支払う法人税も、多くなります。
  2. 【最大の罠】事業承継時に、「相続税・贈与税」の爆弾と化す:
    これが、多くの経営者が見落とす、最も危険な罠です。
    会社の内部留保が増え続けると、それに伴い、自社の「株価」が、際限なく、高騰していきます。
    その結果、将来、後継者(子供など)に、会社を引き継ごうとした際に、その後継者が、到底、支払うことのできない、 天文学的な額の「相続税・贈与税」 が発生し、事業承継そのものが、不可能になってしまう、という、最悪の事態を招くのです。

このように、どちらの選択にも、一長一短があります。
重要なのは、自社の、現在のステージと、将来のビジョンに応じて、このバランスを、毎年、戦略的に、見直していくことなのです。

第2章:【税率の壁】所得税 vs 法人税、本当の「損益分岐点」はどこにある?

では、税金という観点から見た時、この「会社 vs 個人」の、最適なバランスは、どこにあるのでしょうか。
その鍵を握るのが、「所得税」と「法人税」の、税率構造の違いです。

法人税の、比較的「フラット」な税率構造

まず、法人税です。
中小企業(資本金1億円以下)の場合、その実効税率は、非常にシンプルです。

  • 利益800万円以下の部分 → 約23%
  • 利益800万円を超える部分 → 約33%

利益がいくら増えても、税率は、約33%で、頭打ちになります。

所得税の、恐るべき「超過累進課税」

一方、個人の所得税・住民税は、所得が増えれば増えるほど、税率が、青天井で上がっていきます。

課税所得税率(所得税+住民税)
695万円超 900万円以下33%
900万円超 1,800万円以下43%
1,800万円超 4,000万円以下50%
4,000万円超55%

「所得900万円」が、一つの大きな“目安”となる理由

この2つの税率表を、見比べてみてください。
一つの、大きな「転換点」が、見えてきませんか?

それが、 個人の課税所得「900万円」 のラインです。
課税所得が900万円を超えると、その超えた部分にかかる税率は、 43% に、跳ね上がります。
これは、法人税率の、どの段階よりも、高い税率です。

つまり、非常にざっくりと言えば、
「個人の課税所得が900万円を超えるくらいなら、その超えた分の利益は、会社に残しておいて、法人税(約33%)を払った方が、税金的には、得だよね」
という、考え方が、成り立つわけです。

これが、多くの経営者が、役員報酬の目安として、 「個人の課税所得が、900万円を超えない範囲」 を、意識する、大きな理由です。

【重要】「年収」と「所得」は違う!

ここで、絶対に、混同してはいけないのが、「給与(年収)」と「課税所得」は、全くの別物である、ということです。

課税所得は、
給与(年収) - 給与所得控除 - 社会保険料控除 - 基礎控除など…
で、計算されます。

年収1,000万円の社長の、給与所得控除は195万円、社会保険料控除は100万円以上あります。
つまり、個人の課税所得を900万円に抑えるためには、年収(役員報酬)としては、1,200万円、1,300万円といった、さらに高い金額を受け取ることが、可能なのです。

第3章:【出口戦略】事業承継 vs M&A、あなたの会社の未来で、戦略は変わる

役員報酬と、利益のバランスは、あなたの会社の 「出口戦略」 によっても、その最適解が、180度、変わってきます。

① 事業承継(親族などへの引き継ぎ)を目指す場合

もし、あなたが、将来、自分の会社を、子供などの後継者に、引き継がせたい、と考えているのであれば。
会社に、利益を、残しすぎてはいけません。

前述の通り、過度な内部留保は、自社株の評価額を、異常なまでに高騰させ、事業承継の際に、巨額の相続税・贈与税を、発生させます。
後継者が、その税金を支払うことができず、せっかく育てた会社を、畳まざるを得なくなる、という、悲劇を招きかねません。

したがって、事業承継を目指すのであれば、

  • 役員報酬を、比較的高めに設定し、利益を、積極的に、個人へ移転させる。
  • 会社の内部留保(純資産)が、過度に、膨れ上がらないように、コントロールする。
  • そして、最終的には、「役員退職金」などを活用し、会社の純資産を、一気に圧縮して、株価を引き下げ、後継者に、バトンタッチする。

という、長期的な、戦略が必要となります。

② M&A(会社売却)を目指す場合

一方、もし、あなたが、後継者はおらず、将来的に、会社を、第三者に売却(M&A)することを、視野に入れているのであれば。
戦略は、全くの、逆になります。
会社の利益を、最大化し、内部留保を、できるだけ多く、残すべきです。

会社の売却価格は、一般的に、
会社の利益(EBITDAなど) × 数年分(マルチプル)
で、算定されます。

つまり、決算書上の利益が、大きければ大きいほど、あなたの会社は、高く売れるのです。
M&Aを成功させるためには、少なくとも、売却直前の3~5年間は、節税などをあまり意識せず、徹底的に、利益を出し、 「儲かっている、魅力的な会社」 であることを、アピールする必要があるのです。

あなたの会社の「出口」は、どこにあるのか。
その、未来のビジョンによって、今、取るべき、役員報酬戦略は、正反対になる、ということを、理解しておかなければなりません。

第4章:【資産形成】「役員報酬」で受け取り、個人で「運用」するという、選択肢

「会社に利益を残しても、結局、法人税で3割以上、持っていかれる」
「それなら、役員報酬として、個人で受け取り、それを、自分で運用した方が、効率が良いのではないか?」

これもまた、非常に、重要な視点です。
個人が、資産運用(株式投資など)で得た利益にかかる税率は、 約20% です。
これは、法人税率(約23%~33%)よりも、低い税率です。

つまり、
会社の利益 →(法人税33%)→ 税引後利益で、会社が再投資
するよりも、
会社の利益 → 役員報酬 →(所得税・社会保険料)→ 個人の手取りで、資産運用 →(運用益への税金20%)
というルートを辿った方が、トータルの税負担が、軽くなる可能性があるのです。

高い役員報酬を受け取り、手元資金を、最大化する。
そして、その潤沢な資金を、元手として、個人での「資産運用」を、加速させる。
会社の成長だけでなく、社長個人の、資産の成長も、同時に、追求していく。
これもまた、現代の経営者にとって、極めて、合理的で、魅力的な、戦略の一つと言えるでしょう。

第5章:【結論】あなたの会社の「最適報酬額」の見つけ方

ここまで、役員報酬と、法人税を巡る、様々な論点を、見てきました。
では、最終的に、あなたの会社にとっての「最適解」は、どうやって、見つければ良いのでしょうか。

その答えは、 「具体的な、数値シミュレーション」 の中にしか、ありません。

あなたが、今すぐ、やるべきこと

  1. 自社の「未来のビジョン」を、明確にする:
    5年後、10年後、あなたの会社は、どうなっていたいですか?事業承継を目指しますか?M&Aを、目指しますか?まずは、その「出口」を、描くこと。
  2. 複数の「役員報酬パターン」を、設定する:
    「役員報酬1,000万円、法人利益500万円のパターン」
    「役員報酬1,500万円、法人利益ゼロのパターン」
    など、いくつかの、具体的なパターンを、設定します。
  3. 各パターンにおける、「トータルの税・社会保険料負担」と、「最終的な手残り額」を、計算する:
    • 法人が支払う、法人税・法人住民税・法人事業税
    • 個人が支払う、所得税・住民税・社会保険料
    • これら、全てのコストを差し引いた、 「会社と個人の、合計の、キャッシュの残り」 を、算出します。
  4. 最適な「バランスポイント」を、見つけ出す:
    シミュレーションの結果を、比較検討し、あなたの会社の、ビジョンと、財務状況にとって、最も、バランスの取れた、報酬設定を、見つけ出す。

この、緻密な、シミュレーションのプロセスこそが、感覚的な、経営判断から、脱却し、あなたの会社を、論理的で、戦略的な、経営へと、導くための、唯一の道筋です。

まとめ:役員報酬設定は、経営者の「知性」と「哲学」の、集大成である

役員報酬の決定は、単なる、数字の、計算作業ではありません。
それは、

  • 会社の、短期的な「利益」と、長期的な「成長」を、どう、天秤にかけるか。
  • 個人の、現在の「豊かさ」と、未来の「資産」を、どう、両立させるか。
  • そして、自らの、事業の「出口」を、どう、デザインしていくか。

という、経営者としての、あなたの「知性」と「哲学」の、全てが、問われる、集大成なのです。

この、重く、そして、やりがいのある、決断を、決して、一人で、抱え込まないでください。
あなたの会社の、数字を、誰よりも、深く理解し、あなたの、ビジョンに共感し、そして、時には、厳しい視点で、あなたに、客観的なアドバイスを与えてくれる。
そんな、信頼できる税理士という「パートナー」と共に、あなたの会社にとっての、そして、あなた自身の人生にとっての、「最適解」を、見つけ出してください。

最後までお読みいただきありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。