「個人事業主から法人成りしたけど、保険ってどう変わるの?」
「国民健康保険と社会保険、結局どっちの負担が軽くて、どっちがお得なんだろう?」
「自分の手取りと、将来もらえる年金を最大化するための、最適な保険の選択肢が知りたい」
個人事業主や会社の経営者にとって、「税金」と並んで、常に頭を悩ませるのが 「保険料」の負担ではないでしょうか。特に、日本の公的医療保険制度である「国民健康保険(国保)」と「社会保険(社保)」 は、その仕組みや保険料の計算方法、そして将来受け取れる給付の内容が、全く異なります。
どちらの制度に加入するかによって、あなたの毎月の手取り額、そして、老後に受け取れる年金の額は、数百万円、場合によっては数千万円単位で変わってくるのです。
しかし、この二つの制度の複雑さゆえに、
「どちらが自分にとって本当に有利なのか、よく分からないまま、言われるがままに加入している」
という方が、非常に多いのが実情です。
この記事では、
- そもそも「国保」と「社保」は、何がどう違うのか?その基本的な仕組み
- あなたの負担額はいくら?保険料の計算方法と、負担割合の決定的な違い
- 老後の生活を左右する、「国民年金」と「厚生年金」の、驚くべき受給額の差
- いざという時に頼れる、「傷病手当金」や「出産手当金」の有無という、見過ごせない違い
- そして、あなたの事業ステージとライフプランに合わせた、最適な保険制度の選択方法
について、徹底的に、そして分かりやすく解説します。
この記事は、単なる制度の解説書ではありません。それは、あなたの 「現在の手取り」と「未来の安心」を両立させ、最大化するための、経営者として、そして一人の個人としての「資産防衛の教科書」 です。この記事を最後までお読みいただき、複雑な保険制度を完全に理解し、あなたにとって最も賢明な選択をしてください。
すべての基本:あなたはどっち?「国保」と「社保」の対象者
まず、あなたがどちらの保険制度の対象となるのか、その基本的な構造から理解しましょう。
国民健康保険(国保):地域が支える、自営業者のための保険
- 対象者:主に、個人事業主、フリーランス、無職の方など、他の公的医療保険に加入していない、すべての国民。
- 運営主体:あなたが住んでいる市区町村。
- 特徴:地域コミュニティで支え合う、という思想に基づいています。そのため、保険料の計算方法や金額が、市区町村ごとに異なります。
社会保険(社保):会社と従業員で支え合う、法人のための保険
- 対象者:法人(株式会社など)の役員と、その従業員。
- 運営主体:全国健康保険協会(協会けんぽ)や、健康保険組合など。
- 特徴: 「健康保険」と「厚生年金保険」 が、セットになっています。法人の場合、たとえ社長一人だけの会社であっても、加入が法律で義務付けられています。
個人事業主であれば「国保」、法人を設立すれば「社保」。これが、基本的な加入のルールです。
あなたの負担はいくら?保険料の「計算方法」と「負担割合」の決定的違い
次に、経営者にとって最も関心の高い、「保険料」が、どのように計算され、誰が負担するのか、その決定的な違いを見ていきましょう。
国保の保険料:「所得」と「家族の人数」で決まる
国民健康保険の保険料は、非常に複雑な計算式で決まります。その計算要素は、主に以下の3つです。
- 所得割:前年の所得(儲け)が多ければ多いほど、保険料も高くなります。
- 均等割:加入している家族の人数が多ければ多いほど、保険料が高くなります。
- 平等割:一世帯あたりに、平等にかかる金額です。
つまり、国保は、 「儲かっていて、かつ、扶養家族が多い世帯ほど、保険料負担が重くなる」 という特徴があります。
ただし、際限なく保険料が上がり続けるわけではなく、年間の保険料には、上限額が定められています。この上限額は、自治体によって異なりますが、おおむね年間100万円~106万円程度です。
つまり、年間の所得が1,000万円を超えようが、1億円になろうが、国保の保険料負担は、年間約100万円で頭打ちになる、ということです。
社保の保険料:「給料(役員報酬)」の約30%を、会社と個人で折半
一方、社会保険の保険料は、国保に比べて、はるかにシンプルです。
保険料の総額 ≒ 毎月の給料(標準報酬月額)× 約30%
この、給料の約3割にも及ぶ高額な保険料を、会社と、役員・従業員個人が、半分ずつ(約15%ずつ)負担します。これを 「労使折半」 と呼びます。
例えば、社長であるあなたの役員報酬が、月額100万円だった場合、
- 保険料の総額:約30万円
- あなた個人の負担(給料から天引き):約15万円
- 会社の負担(会社の経費):約15万円
となり、会社と個人を合わせると、毎月30万円、年間で360万円もの、巨額な社会保険料が発生するのです。
一見すると、この負担は会社と個人で半分ずつに見えます。しかし、会社の経営者は、あなた自身です。会社の負担分も、巡り巡って、あなたが稼いだ利益から支払われていることに、変わりはありません。実質的には、その大部分を、経営者が負担している、と考えるべきでしょう。
社保も、国保と同様に、保険料には上限が設けられています。しかし、その上限に達する給与水準は非常に高いため、多くの中小企業経営者にとっては、 「給料が上がれば、保険料も上がり続ける」 という認識でいた方が、実態に近いでしょう。
老後の明暗を分ける!「国民年金」と「厚生年金」の驚くべき格差
保険料の負担だけでなく、将来、老後に受け取れる 「年金」 の額も、国保と社保では、天と地ほどの差があります。
国民年金(国保加入者が対象)
国保に加入している個人事業主は、年金制度としては 「国民年金」 に加入することになります。
- 保険料:所得にかかわらず、定額。(令和6年度:月額16,980円)
- 将来の受給額(満額の場合):月額約68,000円(年間約81万円)
国民年金は、日本の年金制度の「1階部分」にあたる、基礎的な保障です。しかし、月額68,000円という金額だけで、老後の豊かな生活を送るのは、非常に難しいと言わざるを得ません。自助努力による、iDeCoやNISAなどを活用した、個人での資産形成が、絶対に不可欠となります。
厚生年金(社保加入者が対象)
一方、社保に加入している法人の役員や従業員は、国民年金(1階部分)に加えて、 「厚生年金」という、“2階建て” の年金制度に加入します。
- 保険料:給料(報酬)の額に比例して、高くなります。
- 将来の受給額:支払った保険料の額、つまり、現役時代の給料が高ければ高いほど、将来受け取れる年金額も、青天井に増えていきます。
厚生年金の受給額は、個人の加入期間や報酬額によって大きく異なりますが、平均的なサラリーマンでも、国民年金に加えて、月額10万円前後の厚生年金を受け取っています。
役員として高い報酬を得ていれば、国民年金に上乗せされる厚生年金の額が、年間で200万円を超えることも、決して珍しくありません。
保険料の負担は重いですが、その分、老後の経済的な安定は、国民年金のみの場合とは比較にならないほど、手厚いものになる。 これが、厚生年金の大きなメリットです。
いざという時の備え:「手当」にも、これだけの差がある
病気やケガ、あるいは出産といった、人生の「いざという時」に受けられる、公的なサポート(手当)にも、国保と社保では、大きな違いがあります。
国保の手当て:最低限の保障
国保加入者が受けられる主な手当は、 「出産育-児一時金」 です。子供が生まれた際に、市区町村から、一時金(現在は50万円)が支給されます。
しかし、国保には、
- 傷病手当金(病気やケガで働けなくなった際の、所得補償)
- 出産手当金(産休中に、給料の代わりとして支給される手当)
といった、休業中の生活を支えるための、給与補償的な制度は、一切ありません。
個人事業主は、体が資本です。働けなくなってしまった瞬間に、収入が途絶えてしまう。このリスクに、自ら民間の保険などで備える必要があります。
社保の手当て:手厚い、休業中の所得補償
一方、社保の保障は、非常に手厚く設計されています。
- 出産育児一時金:国保と同様に、50万円が支給されます。
- 出産手当金:さらに、産前産後の休業期間中、給料のおおよそ2/3が、約3ヶ月間にわたって支給されます。
- 傷病手当金:そして、これが最大のメリットの一つですが、業務外の病気やケガで、連続して4日以上仕事を休んだ場合、最長で1年6ヶ月間にわたり、給料のおおよそ2/3が支給されます。
このように、働けなくなった際の所得補償が、非常に充実している。これが、社保の大きな魅力であり、従業員を雇用する法人にとっては、重要な福利厚生の一環ともなっています。
【結論】あなたの最適解は?個人事業主と法人のメリット整理
ここまで、国保と社保の様々な違いを見てきました。では、結局のところ、どちらが「得」なのでしょうか。その答えは、あなたの事業ステージや、何を重視するかによって変わってきます。
個人事業主(国保)のメリットが活きる人
- とにかく、目先の「手取り」を最大化したい人
→ 所得が増えても、保険料負担は年間約100万円で頭打ちになります。社保に比べて、保険料負担は格段に軽いため、手元に残る現金は多くなります。 - 事業の先行きが、まだ不透明な、創業期の経営者
→ 加入や脱退の手続きが簡単で、保険料負担も軽いため、身軽に事業を運営できます。 - 老後資金は、公的年金に頼らず、NISAやiDeCoで、自分で積極的に準備したい人
法人経営者(社保)のメリットが活きる人
- 将来の「年金受給額」を、最大化したい人
→ 高い報酬を得て、高い保険料を支払うことで、老後の手厚い保障を、国という最も信頼できる機関で、確実に準備することができます。 - 病気やケガなど、「万が一の時の所得補償」を手厚くしたい人
→ 傷病手当金という、強力なセーフティネットが得られます。 - 従業員を雇用し、「福利厚生」を充実させて、魅力的な会社を作りたい人
→ 社会保険への加入は、従業員にとって、大きな安心材料となり、人材の採用・定着に繋がります。
まとめ:保険制度は、あなたの人生を映す「鏡」である
今回は、経営者が必ず直面する、「国民健康保険」と「社会保険」の選択について、その違いと、それぞれのメリット・デメリットを、詳しく解説しました。
- 保険料の負担:目先の手取りを重視するなら 「国保」 。ただし、所得が低い段階では、社保の方が安くなるケースもある。
- 将来の年金:老後の手厚い保障を求めるなら、圧倒的に 「社保(厚生年金)」 が有利。
- 各種手当:病気や出産といった、万が一の時の所得補償は、 「社保」 が、はるかに充実している。
どちらの制度にも、一長一短があります。そして、そこに、絶対的な「正解」はありません。
あなたの、
- 現在の収入と、将来の事業の成長見込み
- 家族構成と、扶養の状況
- そして、何よりも、「現在の手取り」と「未来の安心」の、どちらをより重視するか、という、あなた自身の「価値観」
これらを総合的に考慮した上で、最適な選択をすることが、重要です。
この保険制度の選択は、単なる事務手続きではありません。それは、あなたの事業のあり方、そして、あなたの人生の送り方を、映し出す「鏡」なのです。
この記事が、その鏡を曇りなく見つめ、あなたにとって最善の未来を選択するための、一助となれば幸いです。
最後までお読みいただくありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。