「小規模企業共済は、節税になるから入った方がいいって聞くけど…」
「もし、途中で掛金の支払いが苦しくなったら、どうすればいいんだろう?」
「掛金を減額すると、それまでの分が運用されなくなって、大損するって本当?」
個人事業主や、小規模な会社の経営者にとって、 「小規模企業共済」は、「節税」と「退職金の準備」を同時に実現できる、まさに「最強の制度」 と言っても過言ではありません。
支払った掛金は、その全額が所得から控除され、将来、事業をやめる際には、税制上非常に優遇された「退職金」として、積み立てたお金を受け取ることができます。
しかし、この非常に魅力的な制度には、あまり知られていない 「落とし穴」が存在します。
それが、「掛金を減額した場合の、運用に関するルール」 です。
「支払いが厳しくなったから、月5万円の掛金を1万円に減額したら、知り合いに『それ、過去の分が運用されなくなって、めちゃくちゃ損だよ』と言われて、不安になってしまった…」
このような悩みを抱えている経営者の方は、実は非常に多いのです。
この記事では、
- そもそも、小規模企業共済の「運用」と「元本割れ」の仕組みはどうなっているのか?
- 掛金を減額すると、過去の積立分に、具体的にどのような影響が出るのか?
- 「減額すると損」という情報の、本当の意味とは何か?
- そして、どんな状況になっても、絶対に元本割れせず、この制度のメリットを120%享受するための、究極の解決策
について、図解を交えながら、徹底的に、そして分かりやすく解説します。
この記事は、小規模企業共済に加入している、あるいは、これから加入を検討している、すべての経営者のための 「制度活用の教科書」 です。この記事を最後までお読みいただき、制度の仕組みを正しく理解し、あなたの会社の状況に合わせて、この強力な武器を、最大限に使いこなしてください。
すべての基本:小規模企業共済の「運用」と「元本割れ」のルール
まず、この問題を理解するために、小規模企業共済の基本的な「運用」と「元本割れ」のルールについて、おさらいしておきましょう。
小規模企業共済で積み立てたお金(共済金)は、解約する際の 「加入期間」 によって、受け取れる金額が大きく変わります。
- 加入期間が20年(240ヶ月)未満で、「任意解約」した場合
→ 受け取れる解約手当金は、支払った掛金の合計額を下回り、元本割れしてしまいます。(加入期間が短いほど、元本割れする額は大きくなります) - 加入期間が20年以上で、「任意解約」した場合
→ 受け取れる解約手当金は、支払った掛金の合計額を上回り、プラスの運用益が期待できます。 - 事業の「廃業」や、役員の「退職」を理由に受け取る場合
→ これは「任意解約」ではなく、「共済事由」による正規の受け取りとなります。この場合は、加入期間に関わらず、元本割れすることはありません。
つまり、 「20年未満での、自己都合による任意解約」 をすると、元本割れのリスクがある、というのが、この制度の基本的なルールです。
「掛金の減額」が、運用に与える本当の影響
では、この基本ルールを踏まえた上で、本題である 「掛金を減額した場合」 に、何が起こるのかを見ていきましょう。
ここで、多くの方が誤解しているのですが、小規模企業共済の運用は、「掛金の総額」に対して、一律で行われるわけではありません。
実は、月々の掛金を、1,000円単位の「ブロック」に分解し、それぞれのブロックが、何年間運用されたかを、個別に計算しているのです。
【具体例】掛金を増減させた、30年間のシミュレーション
言葉だけでは分かりにくいので、具体的なシミュレーションで見ていきましょう。
ある経営者が、以下のように、30年間にわたって掛金を増減させたとします。
- 最初の10年間:月額5万円を積立
- 次の5年間:支払いが厳しくなり、月額1万円に減額
- 次の10年間:業績が回復し、月額4万円に増額
- 最後の5年間:さらに業績が好調になり、上限の月額7万円に増額
この経営者が、30年後に「任意解約」した場合、受け取れる金額はどうなるのでしょうか。
この30年間の掛金の動きを、1万円ずつのブロックに分解して、それぞれの「運用年数」を計算してみます。
掛金ブロック | 運用されていた年数 | 20年超え? | 元本割れ? |
最初の1万円 | 30年間(ずっと継続) | 〇 | しない |
次の1万円 | 25年間(5万円→1万円に減額した期間を除く) | 〇 | しない |
次の1万円 | 25年間 | 〇 | しない |
次の1万円 | 25年間 | 〇 | しない |
最後の1万円 | 15年間(5万円→4万円に減額した期間を除く) | × | する! |
次の1万円 | 5年間(7万円に増額した期間のみ) | × | する! |
最後の1万円 | 5年間 | × | する! |
いかがでしょうか。
この図が、「掛金を減額すると、過去の分が運用されなくなる」と言われることの、本当の意味です。
- 月額5万円で積み立てていた期間に積み上がった、5つの1万円ブロック。
- その後の1万円に減額した5年間は、最初の1万円ブロックしか運用されず、 残りの4つのブロック(4万円分)は、その期間、運用が「ストップ」 してしまっていたのです。
- その結果、30年後に解約しても、運用期間が20年に満たないブロック(図の5段目以降)については、元本割れを起こしてしまう、という計算になるのです。
たとえ、トータルの加入期間が30年であっても、その途中で掛金を減額してしまうと、一部の掛金ブロックの運用期間がリセット(中断)され、任意解約時に、思わぬ元本割れを引き起こす可能性がある。
これが、掛金の減額に潜む、最大の「罠」なのです。
【究極の解決策】どんな状況でも「元本割れ」を100%防ぐ方法
「では、一度減額してしまったら、もう損をするしかないのか…」
「資金繰りが厳しい時は、どうすればいいんだ…」
ご安心ください。どんな状況に陥っても、この小規模企業共済で、絶対に元本割れしない、究極の解決策が存在します。
その答えは、極めてシンプルです。
「任意解約をしない」
ただ、それだけです。
解決策①:「退職」まで、絶対に解約しない
思い出してください。元本割れのリスクがあるのは、あくまで 「20年未満での、自己都合による任意解約」 の場合だけです。
あなたが、
- 個人事業を「廃業」する
- 会社の役員を「退任」する
といった、正規の 「退職(共済事由)」 を理由として共済金を受け取るのであれば、たとえ加入期間が1年であっても、支払った掛金の全額以上が、必ず戻ってきます。
先ほどのシミュレーションの例で言えば、途中で掛金を減額し、運用期間が20年に満たないブロックがあったとしても、30年後に「任意解約」ではなく、「会社の役員を退職」したのであれば、すべてのブロックで元本割れすることなく、100%以上の共済金を受け取ることができるのです。
小規模企業共済は、そもそもが「退職金制度」です。途中でお金が必要になったからといって、安易に解約するのではなく、 本来の目的である「退職」の時まで、辛抱強く持ち続ける。 これが、この制度のメリットを最大限に享受するための、王道の考え方です。
解決策②:お金が必要なら、「解約」ではなく「借り入れ」をする
「そうは言っても、退職する前に、どうしてもまとまったお金が必要になる時がある」
そんな時のために、小規模企業共済には、もう一つの、非常に優れたセーフティネットが用意されています。
それが、 「貸付制度」 です。
あなたは、これまで積み立てた掛金の合計額の、7割~9割程度の範囲内で、そのお金を、無担保・無保証人で、低利で借り入れることができるのです。
解約してしまえば、元本割れのリスクがあり、制度そのものが終了してしまいます。
しかし、貸付制度を利用すれば、共済契約を継続したまま、当面の資金需要を満たすことができます。そして、借りたお金は、自分のペースで返済していけばよいのです。
資金繰りが苦しくなったら、安易に「解約」を考えるのではなく、まずは「借り入れ」で凌ぐ。そして、1円でも、1,000円でもいいので、掛金の支払いを「継続」し続ける。
この鉄則を守るだけで、あなたは、元本割れのリスクから、完全に解放されるのです。
解決策③:65歳以上なら、事業を続けながらでも受け取れる
さらに、もう一つの裏技的な受け取り方があります。
それは、65歳以上になり、かつ、掛金の納付月数が180ヶ月(15年)以上ある場合は、事業を廃業したり、役員を退任したりしなくても、「老齢給付」として、共済金を受け取ることができる、というルールです。
この場合も、任意解約には当たらないため、元本割れすることはありません。
事業を続けながら、積み立ててきた資産を、老後の生活資金として活用する、という選択も可能なのです。
よくある質問:会社員に戻ったら?借りたお金の使い道は?
最後に、小規模企業共済に関して、よく寄せられる質問にもお答えしておきましょう。
- Q. 個人事業主をやめて、会社員に戻ったら、共済は解約しないといけない?
A. いいえ、その必要はありません。会社員に戻ったとしても、税務署に「個人事業の廃業届」を提出しない限り、個人事業主としての身分は継続しています。そのため、小規模企業共済の契約も、そのまま継続し、掛金を支払い続けることが可能です。 - Q. 貸付制度で借りたお金を、事業ではなく、個人の資産運用に使ってもいい?
A. はい、問題ありません。貸付制度は、資金使途が厳しく問われる銀行融資とは異なり、借りたお金の使い道は、基本的に自由です。事業の運転資金に充てても、個人の生活費に充てても、あるいは、その資金を元手に、NISAなどで資産運用を行っても、何ら問題はありません。
まとめ:小規模企業共済は、「継続」こそが、最大の力
今回は、多くの中小企業経営者が悩む、「小規模企業共済の掛金減額」の問題について、その本当のリスクと、元本割れを100%回避するための究極の解決策を、詳しく解説しました。
- 小規模企業共済の運用は、掛金を1,000円単位の「ブロック」に分け、それぞれが何年運用されたかを個別に計算しています。
- 掛金を減額すると、その減額した分のブロックの運用期間が「ストップ」してしまうため、20年未満で「任意解約」した場合に、一部が元本割れするリスクがあります。
- しかし、このリスクを回避する、極めてシンプルな解決策があります。それは、「任意解約をしない」ことです。
- 事業の「廃業」や役員の「退職」を理由に受け取るのであれば、加入期間に関わらず、元本割れすることは一切ありません。
- もし、途中で資金が必要になった場合は、「解約」ではなく、「貸付制度」を活用しましょう。契約を継続したまま、必要な資金を低利で借り入れることができます。
「掛金を減額すると、損をする」
この言葉の表面的な意味に、怯える必要はありません。
その本質は、 「任意解約さえしなければ、何も損はしない。だから、何があっても、1,000円でもいいから、契約を“継続”しなさい」 という、この制度からの、温かいメッセージなのです。
資金繰りが厳しい時には、無理せず掛金を減額する。そして、業績が回復したら、また増額して、運用が止まっていたブロックを復活させる。そして、どうしてもお金が必要になったら、借り入れで凌ぐ。
この柔軟な活用法をマスターすることで、小規模企業共済は、あなたの経営と人生を、長期にわたって支え続ける、最強のセーフティネットとなるはずです。
最後までお読みいただくありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。