銀行融資の裏側|決算書の「科目内訳書」から銀行は何を見抜くのか?審査で疑われる9つの勘定科目

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「銀行融資を申し込みたいけど、決算書のどこを見られるのか不安だ…」
「決算書の数字を少しでも良く見せたいけど、どんなことが『粉飾』と疑われるのだろう?」
「銀行員が、決算書だけでは分からない会社の『真実』をどうやって見抜いているのか知りたい」

会社の経営者にとって、銀行からの融資は事業を成長させるための重要な生命線です。そして、その融資審査の成否を分ける最も重要な書類が、会社の成績表である 「決算書」 です。

しかし、銀行員は、決算書に記載された表面的な数字だけを見ているわけではありません。彼らが本当に知りたいのは、その数字の裏に隠された 「会社の実態」 です。

そのために、銀行が決算書とセットで必ず提出を求める、ある重要な書類があります。それが、 「勘定科目内訳明細書(科目内訳書)」 です。

この科目内訳書には、決算書の各勘定科目の「内訳」、つまり「その数字が、誰との、どんな取引で構成されているのか」が詳細に記載されています。銀行員は、この内訳書を丹念に読み解くことで、決算書の数字が本物なのか、あるいは良く見せるための「粉飾」が行われていないかを厳しくチェックしているのです。

この記事では、数多くの企業の融資支援に携わってきた専門家の視点から、銀行員が決算書の「科目内訳書」のどこを、どのような疑いの目でチェックしているのか、特に注意すべき9つの勘定科目をピックアップし、その裏側を徹底的に解説します。

この記事を最後までお読みいただくことで、あなたは以下の知識と具体的なアクションプランを手に入れることができます。

  • 銀行が決算書本体よりも「科目内訳書」を重視する本当の理由がわかります。
  • 融資審査で一発アウトになりかねない「貸付金」という科目の危険性を理解できます。
  • 「現金」勘定が多いと、なぜ粉飾や役員への資金流用を疑われるのか、そのロジックを学べます。
  • 「売掛金」や「在庫(商品)」といった科目が、どのように粉飾に利用され、銀行がどう見抜くのかを知ることができます。
  • 銀行が「土地」や「保険積立金」といった資産の中身をチェックする、意外な目的を理解できます。

銀行は、あなたの会社を疑うために決算書を見ているわけではありません。貸したお金が事業の発展のために正しく使われ、きちんと返済されるかという「リスク」を確認するために見ているのです。この記事を通じて、銀行員の視点を理解し、信頼される決算書作りと、円滑な資金調達を実現しましょう。

なぜ銀行は「科目内訳書」を重視するのか?

決算書には、貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)といった主要な書類があります。しかし、これらの書類に記載されているのは、「売掛金 1,000万円」「商品 500万円」といった合計金額だけです。

これだけでは、

  • その売掛金は、本当に回収可能なのか?
  • その在庫は、本当に価値のあるものなのか?
  • その現金は、本当に金庫に存在するのか?

といった、 資産の「質」 までは分かりません。

そこで登場するのが「科目内訳書」です。ここには、例えば「売掛金」であれば、「A社 500万円、B社 300万円、C社 200万円」というように、その合計額を構成する詳細な内訳が記載されています。

銀行員は、この内訳書と決算書を突き合わせることで、 「数字の裏付け」 を取り、融資のリスクを判断しているのです。彼らは基本的に、提出された書類を「疑いの目」で見て、矛盾点や不自然な点がないかをチェックします。その最も重要なツールが、この科目内訳書なのです。

それでは、具体的にどの科目が、どのようにチェックされているのかを見ていきましょう。今回は、会社の財産状況を示す「貸借対照表」の「資産の部」に絞って解説します。

銀行に疑われる資産科目9選

1. 役員貸付金:一発アウトの危険信号

まず、銀行が最も嫌う勘定科目が 「役員貸付金」 です。これは、会社が社長個人にお金を貸している状態を示す科目です。

科目内訳書で、貸付先の相手が「代表取締役 〇〇」となっているのを見つけた瞬間、銀行員の心にはレッドカードが提示されます。

【銀行が考えること】
「この社長は、会社のお金を個人的に流用している。公私混同が甚だしい」
「会社に融資をしても、それが事業に使われず、社長個人の懐に入ってしまうのではないか?」
「そもそも、会社からお金を借りなければならないほど、個人の資金繰りに困っているのか?」

銀行は、会社の「事業の発展」のためにお金を貸すのであって、社長個人の生活費や遊興費のために貸すのではありません。役員貸行金という科目が決算書に存在すること自体が、その会社のガバナンスの欠如を示す、極めて重大な危険信号なのです。

2. 現金預金:多すぎる「現金」は粉飾のサイン?

貸借対照表の左上、最も目立つ場所に記載される 「現金及び預金」 。手元のキャッシュが潤沢であることは、会社の安定性を示す上で非常に重要です。

しかし、その 「内訳」 には注意が必要です。科目内訳書を見ると、この合計額は「現金」と「預金」に分かれています。

【銀行がチェックするポイント】

  • 預金の内訳:どこの銀行の、どの支店に、いくら預金があるのかをチェックします。当然ながら、自社の口座に多くの預金残高があることを望んでいます。もし、融資を申し込んでいる銀行以外の口座にばかり預金が集中していれば、「なぜうちの銀行を使ってくれないのか」と不信感を抱く原因になります。
  • 「現金」の金額:そして、より重要なのが 「現金」の残高 です。会社の金庫にある手提げ金庫など、預金にしていない現金の額です。

もし、この現金の残高が、数百万円といった社会通念上不自然なほど多額になっている場合、銀行は強い疑いの目を向けます。

【銀行が考えること】
「本当にそんな大金を現金で社内に保管しているのか?不自然だ」
「これは、先ほどの『役員貸付金』を隠すための粉飾ではないか?」

決算書の数字を良く見せるための手口として、本来は「役員貸付金」として計上すべきものを、帳簿上「現金」があるかのように見せかける、という粉飾が行われることがあります。

貸借対照表は、左右の合計額が必ず一致しなければなりません。「役員貸付金」という悪い科目を減らすためには、代わりに何か別の資産科目を増やさなければ、バランスが崩れてしまいます。その「増やしやすい」科目が、実態の確認が難しい「現金」なのです。

不自然に多額の現金が計上されている決算書は、粉飾の可能性が高い、信用できない決算書だと判断されるリスクがあります。

3. 売掛金:回収不能な「不良債権」は隠れていないか?

「売掛金」は、商品を販売したものの、まだ代金が回収できていない金額のことです。内訳書には、取引先ごとの残高が記載されています。

【銀行がチェックするポイント】

  • 滞留期間:特定の取引先の売掛金が、何か月も、あるいは何年も回収されずに、ずっと同じ金額で残っていないか。

もし、長期間回収されていない売掛金があれば、銀行はそれを 「不良債権」 、つまり事実上回収不可能な資産と見なします。決算書上は資産として計上されていても、その価値はゼロだと判断され、会社の評価は大きく下がります。

また、売掛金も粉飾の手口としてよく使われます。利益を多く見せるために、実際には存在しない「架空の売上」を計上し、その相手勘定として「売掛金」を膨らませるのです。

銀行は、過去数年間の決算書を比較し、売上の伸びに対して不自然に売掛金だけが急増していないかをチェックします。特に決算月だけ売掛金が突出して増えているような場合は、粉飾を強く疑われることになります。

4. 在庫(商品・製品):最も使われやすい粉飾の温床

資産科目の中で、 最も粉飾に利用されやすいのが「在庫(商品や製品など)」 です。

利益を多く見せるためには、「経費を少なく見せる」という方法があります。そして、在庫の金額を操作することは、経費(売上原価)の金額を直接操作することに繋がるのです。

【在庫粉飾の仕組み】

  • 期末の在庫を、実際よりも多く計上する。
    (例:本当は100万円しかないのに、帳簿上は300万円と記載する)
  • すると、その分「売上原価(費用)」が少なく計算される。
  • 費用が少なくなれば、その分「利益」が多く見える。

この手口は、帳簿上の数字を書き換えるだけで実行できてしまうため、非常に悪用されやすいのです。

銀行は、売上や仕入の規模と比較して、在庫の金額が不自然に多くないか、過去の推移から見て急に在庫が増えていないかを厳しくチェックします。特に、売上が伸びていないにもかかわらず在庫だけが増えているような場合は、典型的な粉飾の兆候と見なされます。

5. 前払費用:費用の先送りではないか?

「前払費用」とは、家賃や保険料などを1年分前払いした場合など、既にお金は支払ったものの、まだサービスを受けていない部分を経費ではなく、一時的に資産として計上するための科目です。

これも、本来はその期に計上すべき費用を、翌期以降に先送りすることで利益を操作する粉飾に利用されることがあります。

【銀行が考えること】
「この前払費用は、本当に正当なものか?」
「本来は当期の経費にすべきものを、利益を多く見せるために、不当に資産計上しているのではないか?」

特に、金額の大きな前払費用が計上されている場合は、その内容について詳細な説明を求められることになります。

6. 仮払金:使途不明金は信用の証

「仮払金」は、内容が確定していない、使途不明な支出を一時的に処理するための科目です。

銀行から見れば、これは 「よくわからない支払い」 であり、それだけで警戒信号が灯ります。

【銀行が考えること】
「この『よくわからない支払い』の正体は何だ?」
「役員貸付金や、経費にできない個人的な支出を、この科目でごまかしているのではないか?」

決算書に「仮払金」という科目があること自体が、経理処理のずさんさを示唆します。決算までには、すべての支出の内容を確定させ、この科目はゼロにしておくべきです。

7. 土地:担保価値を測られている

会社が「土地」を所有している場合、銀行はその内訳を注意深く見ます。これは、粉飾を疑っているというよりは、別の目的があります。

【銀行の目的】
「この土地は、どこにあって、どれくらいの価値があるのだろうか?」
「将来、追加で融資をする際に、この土地を担保として設定できないだろうか?」

銀行は、常に貸し倒れリスクを考えています。価値のある土地を所有している会社は、いざという時にそれを売却して返済原資にできる、あるいは担保に取れる、という点で、融資審査において有利に働くことがあります。

8. 投資有価証券:本業への集中度を見られている

会社のお金で、他社の株式や投資信託などを購入している場合、「投資有価証券」として資産計上されます。銀行は、この内訳もチェックします。

【銀行が考えること】
「本業とは関係のない投資に、会社の資金を使いすぎていないか?」
「そんな投資をする余裕があるなら、借入金を返済してほしい」
「もし投資するなら、うちの銀行が販売している金融商品を買ってほしい」

本業と関係のない金融資産への過度な投資は、経営資源の分散と見なされ、銀行からの評価を下げる要因になり得ます。

9. 保険積立金:万が一への備えを確認されている

経営者を被保険者とする生命保険などに加入し、その保険料の一部が資産として積み立てられている場合、「保険積立金」として計上されます。

【銀行が考えること】
「経営者にもしものことがあった場合、会社はどうなるのか?」
「死亡保険金が下りて、借入金を返済できるような備えはできているか?」

銀行は、融資先企業の事業継続リスクを常に懸念しています。経営者に万が一のことがあっても、保険金によって借入金が回収できる見込みがあれば、銀行は安心して融資を続けることができます。保険積立金の内訳を見ることで、銀行はそうしたリスクへの備えが十分であるかを確認しているのです。

まとめ:信頼される決算書が、円滑な資金調達への道を開く

今回は、銀行員が決算書の裏側にある「真実」を見抜くために、「科目内訳書」をどのように読み解いているのかを解説しました。

銀行は、あなたの会社を疑いたいわけではありません。貸したお金が、事業の成長のために正しく使われ、将来にわたって安定的に返済されるかどうか、その「リスク」を様々な角度から検証しているのです。

  • 役員貸付金や、不自然に多い現金・在庫は、粉飾や公私混同を疑われる最大の要因です。
  • 長期滞留している売掛金や、使途不明な仮払金は、資産の質や管理体制のずさんさを露呈します。
  • 土地や保険といった資産は、担保価値やリスクへの備えという観点からチェックされています。

これらの銀行員の視点を理解し、日頃から透明性の高い、信頼される経理処理と決算書作成を心がけること。それが、いざという時にスムーズな資金調達を実現し、会社の成長を加速させるための、最も確実な道筋なのです。

ぜひ、自社の決算書と科目内訳書を改めて見直し、銀行から「疑いの目」で見られるような項目がないか、チェックしてみてください。

最後までお読みいただくありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。