税務調査の録音・録画はOK?「言った言わない」を防ぐための法的根拠と究極の対処法

確定申告・税務調査

「税務調査で、調査官に高圧的な態度を取られた…」
「言ったはずのないことを『言った』とされ、不利な状況に追い込まれそうだ…」
「万が一のトラブルに備えて、税務調査の様子を録音・録画してもいいのだろうか?」

会社の経営者にとって、「税務調査」は最も避けたいイベントの一つかもしれません。帳簿を隅々まで調べられ、一つひとつの取引について厳しい質問を受ける…そのプレッシャーは計り知れないものがあります。

中でも、特に深刻な問題となりがちなのが、調査官との 「言った言わない」のトラブル です。ふとした一言が揚げ足を取られ、意図しない形で「脱税の意図があった」と解釈されてしまうリスクは、決してゼロではありません。

この「言った言わない」問題を回避し、自らの正当性を守るための最も確実な方法は、調査の様子を 「録音」や「録画」によって客観的な記録として残す ことです。

しかし、ここで大きな疑問が生まれます。そもそも、税務調査を納税者側が録音・録画することは、法的に認められているのでしょうか?

この記事では、多くの税務調査に立ち会ってきた専門家の視点から、この非常にデリケートな「税務調査の録音・録画」の問題について、その法的根拠から、調査官に拒否された場合の対処法、そして現実的な自衛策まで、あらゆる角度から徹底的に解説します。

この記事を最後までお読みいただくことで、あなたは以下の知識と具体的なアクションプランを手に入れることができます。

  • 税務調査の録音・録画が、法律上は「禁止されていない」という大原則を理解できます。
  • 調査官が録音・録画を拒否する本当の理由と、その際の法的な解釈がわかります。
  • 調査官に録音を中止するよう求められた場合に、どう対応すべきかの具体的な選択肢を知ることができます。
  • もし隠れて録音していてバレた場合、そのデータを消去する必要があるのか、という重要な論点を学べます。
  • 「言った言わない」のトラブルを回避するための、最も現実的かつ効果的な自衛策を身につけることができます。

税務調査は、対等な立場で臨むべきものです。正しい知識を武器に、理不尽な指摘や不当な扱いから、あなたの大切な会社とあなた自身を守り抜きましょう。

【結論】税務調査の録音・録画は「法律上、禁止されていない」

まず、最も重要な大原則からお伝えします。

日本の法律や国税通則法など、どこを探しても、「納税者が税務調査の様子を録音・録画してはならない」と定めた条文は一切存在しません。

つまり、法律的な観点から見れば、税務調査を録音・録画することは、何ら問題のない正当な権利であると言えます。

では、なぜ問題になるのか?

ではなぜ、このテーマがこれほどまでにデリケートな問題となるのでしょうか。それは、あなたが録音・録画をしようとした際に、税務調査官から「録音・録画はやめてください」と、中止を求められるケースがほとんどだからです。

そして、もし調査官が 「録音・録画をやめない限り、調査は進めません」 と宣言した場合、事態は非常に複雑になります。

調査官が「NO」と言ったとき、何が起こるのか?

法律上は問題ないはずの録音・録画。しかし、調査官から中止を求められ、それを拒否し続けた場合、どのような解釈がなされるのでしょうか。ここが、この問題の最も重要な核心部分です。

「受忍義務」という壁

納税者には、正当な理由なく税務調査を拒否したり、妨害したりしてはならないという 「受忍義務」 があります。

そして、過去の裁判例などでは、 「調査官が『録音をやめなければ調査を進めない』と表明しているにもかかわらず、納税者が録音を続けた場合、それは実質的に調査を拒否・妨害したことになり、受忍義務に違反する」 と解釈される傾向があるのです。

非常に納得しがたい理屈ですが、これが現在の法的な解釈の主流となっています。

  • 納税者:「録音は法律で禁止されていないので、続けます」
  • 調査官:「では、調査は進められません(帳簿を見ません)」
  • 法的解釈:「納税者が帳簿を見せなかったため、調査を拒否した」

このように、論点が「録音の可否」から「調査への協力姿勢」へとすり替えられ、結果として納税者側が不利な立場に置かれてしまうのです。

受忍義務に違反した場合のリスク

もし、調査を拒否したと見なされた場合、納税者には以下のような重大なペナルティが課される可能性があります。

  • 青色申告の承認取消:青色申告の様々な税務上の特典(欠損金の繰越控除など)が受けられなくなります。これは、会社にとって致命的なダメージとなり得ます。
  • 罰則の適用:悪質な調査妨害と判断された場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性もあります。
  • 推計課税:帳簿が確認できないことを理由に、税務署側が売上や経費を推計して課税する「推計課税」が行われるリスクもあります。これは、通常、納税者に非常に不利な税額となります。

これらのリスクを考慮すると、調査官から強く中止を求められた場合に、録音・録画を強行し続けるのは、得策ではないと言わざるを得ません。

それでも記録を残したい!現実的な3つの対処法

では、私たちは泣き寝入りするしかないのでしょうか。いいえ、諦める必要はありません。「言った言わない」のトラブルから身を守るために、現実的に取りうる3つの対処法をご紹介します。

対処法①:調査官にバレないように「こっそり録音」する

最も直接的で効果的な方法が、調査官に気づかれないように録音することです。

スマートフォンを机の上に置いて録音を開始したり、ICレコーダーを堂々と設置したりすれば、当然ながら中止を求められます。そうではなく、

  • 胸ポケットに入れたスマートフォンの録音アプリを起動しておく。
  • カバンの中にICレコーダーを忍ばせておく。
  • ペン型のボイスレコーダーなど、カモフラージュされた機器を使用する。

といった方法で、相手に知られずに会話を記録するのです。

「それは盗聴ではないのか?違法ではないのか?」
と心配になる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ご安心ください。自分が当事者として参加している会話を、相手の許可なく録音することは、法的には「盗聴」には当たらず、違法ではありません。

この「秘密録音」は、万が一、調査官との間でトラブルが発生し、裁判などに発展した場合、 あなたの主張を裏付ける極めて強力な「証拠」 となります。裁判所が「盗聴だから証拠として認めない」ということは、まずありません。

対処法②:もし「秘密録音」がバレたらどうするか?

では、もし調査の途中で、こっそり録音していることがバレてしまったら、どうすればよいのでしょうか。調査官から「今すぐデータを消してください!」と要求される可能性があります。

この場合、録音データを消去する必要は一切ありません。

先ほど説明したように、問題となるのは「調査を拒否・妨害したかどうか」です。録音がバレるまでの間、あなたが調査官の質問に誠実に答え、求められた帳簿書類をきちんと提示しているのであれば、あなたは「受忍義務」を果たしています。

録音していたこと自体は、法律違反ではないのですから、その記録を削除する義務はないのです。

「録音の継続」を求めると調査妨害と見なされるリスクがありますが、「過去に録音したデータの保持」は全く別の問題です。毅然とした態度で、「データの消去には応じられません」と伝えましょう。

対処法③:「なぜ録音してはいけないのですか?」と冷静に問いただす

もし、あなたが秘密録音ではなく、正々堂々と録音の許可を求めたい場合、調査官は十中八九、それを拒否するでしょう。その際、調査官が拒否する理由としてよく挙げるのが 「守秘義務」 です。

「録音された内容が外部に漏れると、守秘義務違反になる可能性があるため、録音は認められません」

という論法です。しかし、これは冷静に考えると、非常におかしな理屈です。

  • 誰の情報を守るのか?:税務調査で扱われるのは、あなたの会社の情報です。あなた自身が、自社の情報を記録することの、一体何が守秘義務違反になるのでしょうか。
  • 調査官のプライバシー?:調査官は、公務員として公務を執行している立場です。その職務上の発言が、プライバシーとして保護されるべき対象とは考えにくいです。

もし調査官が「守秘義務」を理由に拒否してきた場合は、

「守秘義務というのは、私たちの会社の情報を守るためのものですよね?私たちが自社の情報を記録することが、なぜ問題になるのでしょうか?」
「調査官の個人的な情報を録音するつもりはありません。あくまで、公務としての調査内容を正確に記録したいだけです。何か録音されては不都合なことでもあるのでしょうか?」

と、冷静に、しかし毅然と問いただしてみましょう。相手の理屈の矛盾を突くことで、交渉の糸口が見つかるかもしれません。ただし、前述の通り、相手が「調査を進めない」という強硬な姿勢に出た場合は、深追いせずに引き下がるのが賢明です。

なぜ調査官は録音・録画を嫌がるのか?その本当の理由

調査官が「守秘義務」を表向きの理由として掲げる一方で、彼らが録音・録画を嫌がる本当の理由は、もっと別のところにあります。

  1. 失言のリスクを恐れている
    調査官も人間です。長時間の調査の中で、つい感情的になったり、不適切な発言をしてしまったりする可能性があります。
    例えば、「これを認めない限り、調査は終わりませんよ」といった、脅迫とも取れる発言が記録として残ってしまえば、それは調査官にとって致命的な問題となります。自らの立場を守るために、記録が残ることを極度に嫌がるのです。
  2. 揚げ足を取られたくない
    税法の解釈は非常に複雑であり、調査官の発言の中に、後から見れば些細な誤りや矛盾点が見つかることもあります。そうした点を、後から納税者や税理士に指摘され、交渉の材料にされることを避けたい、という思惑もあります。
  3. 心理的優位性を保ちたい
    密室での一対一(または一対二)の対話という状況は、調査官にとって心理的に優位な立場を築きやすい環境です。録音・録画されることで、その「密室性」が失われ、常に第三者の目(カメラやマイク)を意識しなければならなくなることを嫌うのです。

これらの理由から、調査官は録音・録画に対して非常に強い拒否反応を示すのです。

まとめ:知識で武装し、対等な立場で税務調査に臨む

今回は、税務調査における「録音・録画」という、非常に重要かつデリケートなテーマについて、その法的根拠から現実的な対処法までを詳しく解説しました。

最後に、本日の重要なポイントをまとめます。

  • 大原則:税務調査の録音・録画は、法律上、禁止されていない。
  • 問題の核心:調査官に「録音をやめなければ調査を進めない」と言われた場合、「調査拒否」と見なされるリスクがある。
  • 最強の自衛策:調査官に気づかれないように 「秘密録音」 をすること。これは違法ではなく、万が一の際の強力な証拠となる。
  • バレた場合の対応:過去に録音したデータの消去に応じる義務はない。
  • 交渉の糸口:調査官が掲げる「守秘義務」という理由の矛盾点を、冷静に指摘してみることも一つの手。

税務調査は、本来、納税者と税務当局が対等な立場で、事実に基づいて行われるべきものです。しかし、現実には、知識や情報の非対称性から、納税者が不利な立場に置かれてしまうケースが少なくありません。

「言った言わない」の不毛な争いを避け、あなた自身の正当な権利を守るために、客観的な記録を残しておくことは非常に重要です。

ぜひ、この記事で得た知識を武器に、来るべき税務調査に備えてください。毅然とした態度と正しい知識があれば、理不尽な要求に屈する必要は一切ないのです。

最後までお読みいただくありがとうございました。この記事があなたの経営の一助になれば幸いです。