社員の給料、どう決める?会社の利益と連動させる給与体系の作り方【経営者必見の指標解説】

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「社員の給料、一体どんな基準で決めればいいのか、いつも頭を悩ませている…」
「会社の利益は出ているのに、社員にどう還元すればいいのか分からない…」
「頑張っている社員に報いたいが、公平な評価方法が見つからない…」

会社の経営者や人事担当者の皆様にとって、「社員の給与をどう決めるか」という問題は、永遠のテーマであり、最も難しい経営判断の一つではないでしょうか。給与は、社員の生活を支える基盤であると同時に、仕事へのモチベーションを大きく左右する重要な要素です。

しかし、その決め方には絶対的な正解がなく、「なんとなく」や「前年踏襲」で決めてしまっているケースも少なくありません。その結果、社員の不満が溜まったり、会社の財務状況を圧迫してしまったりと、様々な問題を引き起こす原因にもなり得ます。

では、会社の財務を健全に保ちつつ、社員の納得感も得られる、そんな理想的な給与体系はどのようにして作ればよいのでしょうか?

この記事では、多くの企業の財務コンサルティングに携わってきた専門家の視点から、会社の「利益」と社員の「給料」を科学的に連動させるための具体的な経営指標と、中小企業の実態に即した柔軟な評価・還元方法について、徹底的に解説します。

この記事を最後までお読みいただくことで、あなたは以下の知識とノウハウを手に入れることができます。

  • 社員の生産性を測る絶対基準「1人あたり粗利益1,000万円」の壁を理解できます。
  • 会社の利益構造を健全に保つ経営指標「労働分配率」の計算方法と、その適正水準がわかります。
  • 会社の利益目標として目指すべき「経常利益は粗利益の10%~20%」という黄金比率を学べます。
  • 中小企業に最適な、柔軟かつ納得感の高い給与・賞与の決定プロセスを知ることができます。
  • 銀行からの評価を下げずに社員へ利益を還元できる「決算賞与」の賢い活用法がわかります。

給与は、単なるコストではありません。社員の努力に報い、会社の未来を創るための大切な「投資」です。この記事を通じて、あなたの会社を次のステージへと導く、強固で公正な給与制度設計のヒントを見つけてください。

給与決定の大前提:あなたの会社の「生産性」を測る2つの絶対指標

給与の具体的な決め方を考える前に、まず自社の「稼ぐ力」、つまり生産性を客観的な数字で把握することが不可欠です。ここでは、すべての給与設計の土台となる、2つの重要な指標をご紹介します。

指標①:「社員1人あたりの年間粗利益」は最低1,000万円を目指す

まず、最もシンプルで強力な指標が 「社員1人あたりの年間粗利益」 です。

「粗利益(あらりえき)」とは、売上高から売上原価(製造業の材料費や小売業の仕入費など)を差し引いた、いわば「会社の利益の源泉」です。この粗利益を、会社で働く 全人員数(役員、正社員、パート・アルバイト含む) で割ることで、社員1人あたりがどれだけの付加価値を生み出しているかを測ることができます。

そして、目指すべき最低ラインは、1人あたり年間1,000万円です。

社員1人あたり年間粗利益 = 会社全体の年間粗利益 ÷ 全人員数

例えば、年間の粗利益が6,000万円の会社であれば、

  • 6人で経営している場合:1人あたり粗利益は1,000万円 → 最低ラインクリア
  • 7人で経営している場合:1人あたり粗利益は約857万円 → 生産性に課題あり

もし、この数字が1,000万円を大きく下回っている場合、その会社は「人を増やしすぎている」か、「事業の付加価値が低い」という問題を抱えている可能性が高いです。この状態で社員を増やしても、1人あたりの給与水準は上がらず、会社の利益も圧迫されるという悪循環に陥ってしまいます。

まずは、少ない人数でいかにして粗利益を最大化するか。これが、社員の給与を上げるための第一歩なのです。

※パート・アルバイトの人員数のカウント方法:労働時間に応じて按分します。例えば、1日4時間勤務のパート2人であれば、正社員1人分とカウントするなど、実態に合わせて計算します。

指標②:「給料の3倍の粗利益」の法則

次に、社員一人ひとりの貢献度を測る基準として、 「社員は、自身の給料の最低3倍の粗利益を生み出すべき」 という法則があります。

これは、会社が生み出した粗利益が、おおむね以下の3つに分配されるという考え方に基づいています。

  1. 3分の1:社員への人件費として
  2. 3分の1:会社の運営に必要なその他の経費(家賃、広告費など)として
  3. 3分の1:会社の将来のための利益として

つまり、社員が自身の給料の3倍の粗利益を稼いで、初めて会社は他の経費を支払い、かつ利益を確保することができるのです。

  • 年収500万円の社員 → 最低でも年間1,500万円の粗利益貢献が必要
  • 年収1,000万円の社員 → 最低でも年間3,000万円の粗利益貢献が必要

この2つの指標を念頭に置くことで、会社全体の生産性と、個々の社員に求めるべき貢献度の基準が明確になります。

会社の財務バランスを司る「労働分配率」という羅針盤

次に、会社の利益構造が健全かどうかを判断するための、極めて重要な経営指標 「労働分配率」 について解説します。

労働分配率とは、会社が生み出した付加価値(粗利益)のうち、どれだけの割合を人件費として社員に分配したかを示す比率です。

労働分配率(%) = 人件費 ÷ 粗利益 × 100

ここでのポイントは、計算式の分子である 「人件費」の定義 です。

人件費には、社員に支払う給料だけでなく、以下の費用もすべて含めて計算する必要があります。

  • 法定福利費:会社が負担する社会保険料(健康保険、厚生年金など)のこと。
  • 福利厚生費:通勤手当、健康診断費用、社員旅行、慶弔見舞金など。

これらの費用をすべて合計したものが、会社が実際に支払っている総人件費です。

労働分配率の「適正水準」とは?

この労働分配率の適正水準は、業種によって多少異なりますが、一般的には40%~50%の間に収めるのが理想とされています。

  • 労働分配率が低すぎる(例:30%台)
    → 会社に利益は残りますが、社員への還元が不十分である可能性があります。優秀な人材が「この会社は頑張っても報われない」と感じ、離職してしまうリスクがあります。
  • 労働分配率が高すぎる(例:60%以上)
    → 社員への還元は手厚いですが、会社の利益を圧迫している状態です。設備投資や研究開発など、会社の未来への投資ができなくなり、長期的な成長が阻害される危険性があります。

経営者は、この労働分配率という羅針盤を常に確認し、自社が「社員への還元」と「会社の成長投資」の適切なバランスを保てているかをチェックする必要があるのです。

会社の利益目標は「経常利益は粗利益の10%~20%」

では、最終的に会社に残すべき利益、つまり 「経常利益」 はどれくらいが目安なのでしょうか。

これも一つの黄金比率があり、 「粗利益に対して10%~20%」 の経常利益を確保することが、持続的な成長を目指す上での一つの目標となります。

【利益構造の理想的なバランスモデル】
(例:粗利益6,000万円の会社の場合)

項目金額粗利益に対する比率
粗利益6,000万円100%
人件費(労働分配率45%)2,700万円45%
その他経費2,400万円40%
経常利益900万円15%

このモデルでは、経常利益が900万円となり、粗利益6,000万円に対して15%を確保できています。これは非常に健全な利益構造と言えます。

もし、経常利益が粗利益の10%を切っているようであれば、経費の使いすぎや生産性の低さなど、何らかの問題を抱えている可能性があります。逆に20%を大きく超える利益が出ているのであれば、それは素晴らしいことですが、もう少し社員への還元(人件費)を手厚くしたり、未来への投資を増やしたりする余力がある、と考えることもできます。

中小企業に最適!柔軟で納得感の高い給与・賞与の決定プロセス

ここまで解説してきた経営指標をベースに、いよいよ具体的な給与・賞与の決め方について見ていきましょう。

大企業のように精緻な人事評価制度を導入しようとする中小企業は多いですが、その多くは失敗に終わります。なぜなら、中小企業は事業内容や社員の役割が目まぐるしく変わるため、一度作った評価制度がすぐに陳腐化してしまうからです。

そこでおすすめしたいのが、 「年間の総人件費の枠を決め、個人の評価は役員会議で柔軟に決定し、差額は決算賞与で調整する」 という方法です。

ステップ1:毎月の給与は「役割」に応じて決定

まず、毎月の給与(基本給や各種手当)は、その社員が担う仕事内容や役割、役職などに応じて、ある程度固定的に定めます。

この段階では、労働分配率が過度に高くならないよう、少し抑えめに設定しておくのがポイントです。例えば、月々の給与ベースでの労働分配率が40%以内に収まるようにコントロールします。

ステップ2:決算時に「年間の評価」を役員会議で決定

そして、会社の決算が締まった後、役員が集まって 「社員一人ひとりの、この1年間の働きぶりに対する評価」 を会議で決定します。

この会議では、具体的な「年収額」で評価をします。例えば、Aさんという社員について、

  • 昨年の年収は600万円だった。
  • 今年のAさんの貢献度を考えると、年収はいくらが妥当か?

という議題を立て、役員それぞれが付箋などに評価額を書いて、一斉に提示します。

  • 役員甲:「Aさんは今年、大きなプロジェクトを成功させた。年収1,000万円の価値がある」
  • 役員乙:「確かに頑張ったが、細かなミスも目立った。年収800万円が妥当だろう」
  • 社長:「私は現場でAさんの別の側面も見ている。年収700万円と評価する」

このように、それぞれの役員がなぜその金額を提示したのか、具体的なエピソードを交えながらプレゼンテーションを行います。社長だけでは見えていなかった社員の活躍や、逆に他の役員が気づいていない課題などが明らかになり、多角的な視点から、より公正な評価を下すことができます。

最終的には、社長がすべての意見をまとめた上で、 「では、今年のAさんの年収は900万円としよう」 と最終決定を下します。

ステップ3:「決算賞与」で差額を調整・還元する

評価額が決まれば、あとは調整です。

  • Aさんの今年の年収評価額:900万円
  • Aさんがすでに受け取った毎月の給料の年間合計:660万円(月給55万円×12ヶ月と仮定)
  • 差額:900万円 − 660万円 = 240万円

この差額240万円を、 「決算賞与」 としてAさんに支給するのです。

この方法には、いくつかの大きなメリットがあります。

  • 柔軟な評価が可能:固定的な評価制度に縛られず、その年の働きぶりを総合的に評価できる。
  • 残業代との調整も可能:もしAさんの残業代が多く、給与総額が700万円になっていたとしても、年収評価が900万円であれば、決算賞与は200万円となります。頑張って効率的に働き残業が少ない人ほど、決算賞与が多くなるという公平な仕組みが作れます。
  • 会社の利益との連動:会社の利益が多ければ、社員に還元する賞与の原資も増えます。逆に利益が少なければ、賞与を抑えることで、会社の財務を守ることができます。

決算賞与は「銀行評価」にも有利に働く

さらに、この決算賞与にはもう一つ、財務上の大きなメリットがあります。

通常の夏のボーナスや冬のボーナスは、損益計算書上、「販売費及び一般管理費」の中の「賞与」として計上され、経常利益を押し下げる要因になります。銀行は融資審査の際にこの経常利益を重視するため、評価が下がってしまう可能性があります。

一方、決算賞与は、経常利益を計算したの「特別損失」として計上することが可能です。

【通常の賞与の場合】
売上 → 粗利益 → 人件費(賞与含む) → 経常利益(低くなる)

【決算賞与の場合】
売上 → 粗利益 → 人件費 → 経常利益(高く見える) → 特別損失(決算賞与) → 税引前当期純利益

つまり、銀行が重視する経常利益の額を高く見せたまま、社員に利益を還元し、かつ法人税の節税もできるという、まさに一石三鳥のテクニックなのです。

まとめ:科学的な指標と人間的な評価で、最適な給与制度を

今回は、会社の利益と連動させながら、社員の納得感も高める給与体系の作り方について、具体的な指標とプロセスを解説しました。

最後に、本日の重要なポイントをまとめます。

  • 給与設計の土台となる指標:「1人あたり粗利益1,000万円」と「給料の3倍の粗利益」を意識し、会社の生産性を常にモニタリングしましょう。
  • 財務バランスの羅針盤:「労働分配率」を40%~50%に保ち、会社の成長と社員への還元のバランスを取りましょう。
  • 利益目標の黄金比:「経常利益は粗利益の10%~20%」を目標とし、持続可能な利益構造を構築しましょう。
  • 中小企業に最適な評価方法:固定的な評価制度に固執せず、「年間の総年収」を役員会議で評価し、「決算賞与」で柔軟に調整する方法が効果的です。
  • 決算賞与の活用:銀行評価を維持しつつ、社員への利益還元と節税を同時に実現できる賢いツールです。

社員の給与を決めるという作業は、単なる数字の計算ではありません。それは、社員一人ひとりの努力と貢献を認め、会社の未来を共に創っていくための、経営者からの最も重要なメッセージです。

科学的な経営指標という客観的な物差しと、役員たちの多角的な視点という人間的な評価を組み合わせることで、あなたの会社は、より強く、より公平で、社員がいきいきと働ける組織へと進化していくはずです。

まずは、自社の損益計算書を片手に、今回ご紹介した「1人あたり粗利益」「労働分配率」「経常利益率」を計算してみることから始めてみてはいかがでしょうか。その数字の中に、あなたの会社をさらに成長させるための、確かなヒントが隠されているはずです。