【2024年版】生前贈与はどっちが得?暦年課税 vs 相続時精算課税、制度改正後の最適戦略を徹底解説!

確定申告・税務調査

「親から子へ、少しでも多くの財産を非課税で渡したい」
「相続税の負担を、今のうちから軽くしておきたい」

将来の相続を見据え、元気なうちに財産を次世代へ引き継ぐ「生前贈与」は、多くの人にとって重要な相続対策の一つです。しかし、2024年1月から、この生前贈与に関するルールが大きく改正され、これまで主流であった対策の効果が変わったり、新たな制度の活用が有利になったりと、その戦略はより複雑化しています。

特に、生前贈与の2大制度である「暦年課税」「相続時精算課税」について、「一体どちらを選べば得なのか?」「制度改正で何が変わったのか?」と、混乱している方も多いのではないでしょうか。

この記事では、2024年の税制改正後の生前贈与について、暦年課税と相続時精算課税のそれぞれの仕組み、メリット・デメリットを徹底的に比較・解説します。さらに、どちらの制度を選択すべきか、その判断基準となる考え方や、効果を最大化するための具体的な活用法まで、分かりやすく紐解いていきます。

生前贈与の基本:なぜ早めの対策が重要なのか?

まず、なぜ生前贈与が相続対策として有効なのか、その基本的な考え方を理解しておきましょう。

相続税は、亡くなった方が遺した財産の総額に対して課税されます。したがって、生前に財産を減らしておくことが、相続税の負担を軽減するための最も直接的な方法となります。生前贈与は、この「生前に財産を減らす」ための有効な手段なのです。

しかし、ここには一つ大きなルールがあります。それが「生前贈与加算」です。

ルール改正の要点:「3年」から「7年」へ延長された生前贈与加算

  • 生前贈与加算とは?
    相続税逃れのために、亡くなる直前に駆け込みで贈与を行うことを防ぐため、相続開始前(亡くなる前)の一定期間内に行われた贈与は、なかったこととされ、相続財産に持ち戻して相続税を計算するというルールです。
  • 2024年からのルール改正:
    これまで、この持ち戻しの対象となる期間は「相続開始前3年以内」でした。しかし、2024年1月1日以降の贈与については、この期間が段階的に延長され、最終的に「相続開始前7年以内」となります。
    (※2027年1月1日以降に開始する相続から、徐々に期間が延びていき、2031年以降に開始する相続では、完全に7年間の持ち戻しとなります。)

この改正により、これまでのように亡くなる数年前に贈与を行っても、その財産が相続財産に加算されてしまう可能性が高まり、生前贈与による相続税対策は、より長期的かつ計画的に行う必要が出てきました。

生前贈与の2つの選択肢:「暦年課税」と「相続時精算課税」

生前贈与を行う際には、原則として以下の2つの課税方式から、どちらかを選択することになります。一度「相続時精算課税」を選択すると、二度と「暦年課税」には戻れないため、慎重な選択が必要です。

1. 暦年課税制度

  • 概要:
    1年間(1月1日~12月31日)に贈与を受けた財産の合計額に対して贈与税を計算する、最も一般的な課税方式です。
  • 特徴:
    • 年間110万円の基礎控除: 贈与を受けた人(受贈者)一人あたり、年間110万円までの贈与であれば、贈与税はかからず、申告も不要です。
    • 超過累進課税: 110万円を超えた部分については、その金額に応じて10%~55%の累進課税率で贈与税が課されます。
  • 相続対策としての活用法:
    • この年間110万円の非課税枠を活用し、毎年コツコツと長期間にわたって贈与を続けることで、非課税で多額の財産を移転させることが可能です。例えば、子供2人に10年間、毎年110万円ずつ贈与すれば、合計2,200万円の財産を無税で移転できます。
  • デメリット(今回の改正による影響):
    • 前述の通り、相続開始前7年以内に、この制度を利用して行われた贈与(基礎控除内の110万円は除く)は、相続財産に加算されてしまいます。そのため、長生きをしなければ、この制度の節税効果を十分に享受できなくなりました。

2. 相続時精算課税制度

  • 概要:
    贈与時には、特別な非課税枠を使って贈与税の負担を大幅に軽減し、その代わりに、贈与者が亡くなった際に、その贈与財産を相続財産に合算して、改めて相続税として精算するという特殊な課税方式です。
  • 利用できる人:
    • 原則として、60歳以上の親または祖父母から、18歳以上の子または孫への贈与が対象です。
  • 特徴(改正前):
    • 2,500万円の特別控除枠: 贈与者一人あたり、生涯で2,500万円までの贈与であれば、贈与税はかかりません。2,500万円を超えた部分については、一律20%の贈与税が課されます。
    • 相続財産への全額加算: 贈与した財産の全額(2,500万円の枠内であっても)が、将来の相続時に相続財産に加算されます。
  • これまでの評価:
    • 結局は相続財産に戻されてしまうため、相続税対策としての効果は限定的であり、主に「相続税がかからない程度の財産しか持っていない人」が、生前にまとまった資金を非課税で子や孫に渡すために利用されることがほとんどでした。

2024年税制改正の目玉!相続時精算課税制度の「新ルール」

今回の税制改正で、この相続時精算課税制度に、暦年課税のメリットを取り込んだような、画期的な新ルールが追加されました。これが、今後の生前贈与戦略を大きく変える可能性があります。

【新ルール】年間110万円の基礎控除の新設

  • 相続時精算課税制度を選択した場合でも、上記の2,500万円の特別控除枠とは別に、毎年110万円までの基礎控除枠が新たに設けられました。
  • 最大のポイント: この年間110万円の基礎控除枠を使って行われた贈与については、将来、相続財産に加算する必要がありません。
  • また、この110万円の基礎控除については、贈与税の申告も不要です。

この新ルールによって何が変わるのか?

これにより、相続時精算課税制度は、単なる「税金の先送り」制度から、「2,500万円までの非課税贈与」と「毎年110万円の非課税贈与」を併用できる、非常に強力な相続対策ツールへと変貌したのです。

暦年課税 vs 相続時精算課税:改正後の徹底比較と損得勘定

では、ルールが改正された今、私たちはどちらの制度を選択すべきなのでしょうか。その判断基準は、より複雑になりました。

【比較のポイント】

項目暦年課税制度相続時精算課税制度(新ルール)
年間非課税枠110万円110万円
生涯非課税枠なし2,500万円
相続財産への加算相続開始前7年以内の贈与が対象年間110万円の基礎控除を超える部分の贈与が対象
対象者制限なし贈与者は60歳以上の親・祖父母、受贈者は18歳以上の子・孫
選択後の変更相続時精算課税へ変更可能暦年課税への変更は不可

どちらを選ぶべきか?判断の鍵は「年齢」と「長生きリスク」

結論から言えば、どちらの制度が有利になるかは、「贈与者が、贈与を開始してから何年後に亡くなるか(相続が発生するか)」によって、結果が大きく変わってきます。

  • 暦年課税が有利になるケース →「長生き」できる場合
    • 暦年課税の最大のメリットは、相続開始前の7年間を除けば、それ以前の贈与は一切相続財産に加算されない点にあります。
    • したがって、贈与者が若く、健康で、今後7年以上、できれば10年、20年と長生きできる可能性が高いのであれば、毎年コツコツと暦年贈与を続けることで、相続財産に加算されることなく、多額の財産を移転できます。
  • 相続時精算課税が有利になるケース →「いつ亡くなるか分からない」リスクに備える場合
    • 相続時精算課税の最大のメリットは、新設された年間110万円の基礎控除が、相続開始前7年以内といった期間の縛りなく、常に相続財産への加算対象外となる点です。
    • したがって、贈与者の年齢が高く、いつ相続が発生するか分からない状況においては、暦年課税で贈与を始めても、その多くが7年ルールの対象となってしまうリスクがあります。それならば、相続時精算課税を選択し、少なくとも毎年110万円分は確実に相続財産から切り離せるようにしておく方が、有利になる可能性が高いのです。

一つの判断目安:「70歳」の壁?

絶対的な基準ではありませんが、一つの考え方として、

  • 贈与者の年齢が70歳未満の場合: まだまだ長生きする可能性が高いと考え、「暦年課税」でコツコツと贈与を進める。
  • 贈与者の年齢が70歳を超えたあたりから: いつ相続が発生してもおかしくないと考え、「相続時精算課税」への切り替えを検討する。

といった、年齢に応じた戦略の使い分けが考えられます。

生前贈与をさらに効果的にする応用テクニック

1. 「110万円」にこだわらない贈与戦略

  • 多くの人が、贈与税がかからない「110万円」という金額に固執しがちです。しかし、多額の資産を持つ人にとっては、毎年110万円ずつ贈与していては、相続財産を十分に減らすことはできません。
  • 視点の転換: 贈与税の税率は、相続税の税率よりも、低い所得段階では有利に設定されています(贈与税の最低税率は10%)。
  • したがって、将来高い税率で相続税が課されることが予想されるのであれば、あえて110万円を超える贈与を行い、比較的低い税率で贈与税を支払ってしまう方が、結果としてトータルの税負担を抑えられるケースも少なくありません。
  • 例えば、毎年500万円ずつ贈与した場合、贈与税額は約48.5万円(実効税率約9.7%)です。相続税率が20%、30%とかかるのであれば、この方が有利になります。

2. 孫への贈与の活用(暦年課税の場合)

  • 暦年課税の「相続開始前7年以内の贈与加算」のルールは、原則として相続人(財産を相続する人)に対する贈与に適用されます。
  • したがって、相続人ではない「孫」に対して贈与を行った場合は、たとえそれが相続開始前7年以内であっても、原則として相続財産に加算されることはありません。(ただし、孫が遺言で財産を受け取ったり、代襲相続人になったりした場合は、加算の対象となります。)
  • このルールを活用し、子への贈与と並行して、孫へも暦年贈与を行うことで、より効率的に相続財産を減らすことができます。

3. 分割贈与による非課税枠の最大活用(相続時精算課税の場合)

  • 相続時精算課税の新設された年間110万円の基礎控除は、毎年適用されます。
  • したがって、例えば3,000万円の財産を一度に贈与するよりも、毎年500万円ずつ6年間に分けて贈与する方が、6年分の基礎控除(110万円×6年=660万円)を活用でき、相続財産に加算される金額を大幅に減らすことができます。

まとめ:生前贈与は「オーダーメイド」の相続対策。専門家と描く、最適な承継プラン

2024年の税制改正により、生前贈与の戦略は、より複雑で、かつ奥深いものとなりました。「暦年課税」と「相続時精算課税」、どちらの制度が有利になるかは、贈与者・受贈者の年齢、健康状態、資産状況、そして将来の相続税の見込みなど、様々な要因によって変わってきます。

生前贈与戦略を成功させるための重要ポイント

  1. 「暦年課税」と「相続時精算課税(新ルール)」の仕組みの違いを正確に理解する。
  2. 一度「相続時精算課税」を選択すると、二度と「暦年課税」には戻れないことを肝に銘じる。
  3. 贈与者の年齢や健康状態を考慮し、「長生きリスク」と「早期相続リスク」を天秤にかける。(例:70歳前後を一つの判断目安とする)
  4. 「110万円非課税」に固執せず、あえて贈与税を支払うことで、将来の相続税を軽減するという視点も持つ。
  5. 孫への贈与や、分割贈与といったテクニックも活用し、制度のメリットを最大限に引き出す。
  6. そして何よりも、自己判断せずに、必ず相続・贈与に詳しい税理士などの専門家に相談する。

生前贈与は、画一的な正解が存在しない、まさに「オーダーメイド」の相続対策です。信頼できる専門家と十分に話し合い、ご自身の家族にとって、そして大切な財産にとって、最も良い形は何かをシミュレーションしながら、最適な承継プランを構築していくことが重要です。

この記事が、複雑な生前贈与の制度を理解し、将来への安心を築くための一助となれば幸いです。